未来
光を閉ざし、現れたのは魔女、マーリン・ラクスだった。険しくもなだらかでもない無表情でマーリンはモニカとアリシアをじっと見ている。
「おーイ! ちょっと!」
「ん?」
「下下! 俺デスよ!」
「……
「あんたが忘れていったンだろうガ!」
激怒する
「ちょうどいい、お前の力が必要なんだ」
「エ?」
「司書ちゃんはどこにいる? 全知のお前なら解るだろ」
「いやァ……解るケド、対価ガ……」
「はぁ? こうしてお前が人の言葉を話していられるのは誰のおかげだ? 対価なんてとっくに払っただろう」
「うっ……そうダケド」
「早く吐け。時間が惜しい」
(……あぁ、ダカラ人間っテのは嫌いナんだ)
人とは、時として冷酷な生き物だ。自分の利益のためなら他人のことなど厭わない。損得勘定だけで動き、自己愛の強い、「人間」という生き物を
「あんたハ、ヨク『冷たい人』と呼ばれるダロウ」
「……今そんな話は関係ない」
「図星だナ」
だが、
マーリンは
「いつまで経っても慣れないな……」
「……魔女ヨ。いい知らせと悪い知らせ、どっちが聞きたい」
「時間がないと言っている」
「あァ、そうカイ」
マーリンは
『まもなく、理を識る者が目覚める』
「……っ! お前、何を!」
独り言のように呟いた
『彼の者、その力で理を破り、世界の壁は崩壊する。交錯する世界は――』
「黙れッ!」
マーリンの怒号とほぼ同時に、バタンと、辺り一帯に本を閉じる音が響き渡る。ビリビリと振動する空気が、緊張感を漂わせる。表紙に浮かび上がっていた
全知の書は、文字通りすべての知識が詰め込まれた本だ。だが、その全知の書の知識の及ばない場所が存在する。
『未来』
今この瞬間も、1秒経てば過去になる。その度に、全知の書には新たな物語が刻まれていく。だから、全知の書で未来を見ることはできない。『今まで』を知る道具である本では、『これから』を知ることはできない。だが、
しばらくすると、周りは再び静寂に包まれた。そして、今度こそマーリンはその場を離れようとする。全知の力を持つ
「焼き殺せ……”
「……誰だい? 君」
吹き抜けになっている2階から、マーリン目掛けて焔が襲いかかる。竜の姿をした焔は、マーリンを中心とした一定の範囲を避けるかのように通り過ぎ、マーリンは何事も無かったかのように2歩目を踏み出す。その様子を見て、2階で様子を見ていた男が大声で言う。
「おいレオ! 多分あれが本物の敵だろ」
「だからわかんねぇって! 数は多いし人に化けるし!」
「……なんの勘違いかな。私は人を探してるだけなんだけど」
「あぁ、奇遇だな。俺らも探してたんだよ。お前の足元に転がってるそいつをな」
マーリンが足元を目をやると、そこにはまだ目を閉じて気絶したままのモニカとアリシアがいた。どちらもうなされているようで苦しそうな顔をしている。
(これも想定の内か、
全知を敵に回すとろくな事にならない。現にマーリンは
「お前が敵じゃなきゃ、助けるよな」
「悪いね、私は冷たい人間だからさ」
全知の手のひらという舞台で、魔女と魔法使いが踊り始める。
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