第三章『全知の物語編』
神精樹の古書館
モニカたち1年生が学園に通い始めて1ヶ月。この日、基礎魔法のおさらいと一般魔法の習得という課題を終わらせたモニカたちに、更なる課題が課せられる。
「今日から実技授業が始まる」
「遂に来たか……」
「終わった……」
実技授業の恐ろしさを知っているらしいクラウディアと旭がぐったりと机に倒れ込む。クラス・アステシアで群を抜いた実力の2人が顔を真っ青にして深くため息をついているのを見て、モニカたちを何かを察したらしい。恐る恐るアステシアの顔を見ると、アステシアは絶対に怪しいことを企んでいる顔で笑みを浮かべている。その笑顔を見てモニカたちは、これから先、とんでもないことが起きるのだろうということを本能的に理解した。
「が、本日はレクリエーションということで、外へ出て課外授業とする」
「……課外授業って、どこへ行くんですか?」
「神精樹の古書館へ行き、お前たちの得意魔法を調べてもらう」
あらゆる魔法は大きくわけて八つの種類に分けられる。魔法はその性質を元に「火」「水」「風」「土」「金」「闇」「光」「虚」の八つに分類される。この八つの魔法の性質を利用することで、得意な魔法、不得意な魔法が分かるのだ。バウディアムスの1年生は毎年、実技授業の前に得意魔法を調べ、その魔法の練度をを個々に伸ばしていく。
「調べるっつっても、俺は「火」しかねぇだろ……」
「俺の雷って何に分類されんの?」
「「金」じゃね」
「「金」かぁ……」
「そこ、私語を慎め。時間が惜しいからとっとと移動するぞ」
こそこそと喋っていたレオノールと旭が軽く指摘される。モニカたちはアステシアに引き連れられ教室の外に出た。正門を目指して歩いている途中、実技試験でも使用した訓練所の前を通ると、地獄を体験しているみたいな阿鼻叫喚が扉越しに聞こえてくる。耳をすませば微かに獄蝶のジョカの高笑いが聞こえてくるような気がしたが、モニカたちは聞こえないふりをして少し早足で訓練所の前を通り過ぎる。
数分かけて学園から出て、モニカはようやく当たり前の疑問を抱いた。モニカたちのいるバウディアムス魔法学園はノーチェスの東南にある神精樹に造られている。対して、神精樹の古書館は北西の神精樹に造られているはずだ。限られた授業時間内で、正反対に位置する神精樹の古書館までどうやって行けばいいのだろうか。その答えはすぐにアステシアの口から明かされた。
「それじゃあ、ここからは各自飛んで移動だ」
「……あ」
飛んで移動。つまり、
「ど、どどど、どうしよう! 私、箒持ってないです!」
「……ん? 箒などなくても飛べるだろう?」
「えと、そうじゃなくて……私」
モニカを怪しむ素振りも見せず、アステシアは首を傾げる。今の時代では
「箒がないと飛べないんでしょ。練習の時に使ってたからとか、そういう理由で」
「ん、まぁそれもそうか。じゃあ、誰かに手を貸してもらえ」
「は、はい。ありがとうございます」
ちらりと、モニカは旭を見てバレないように小さくお辞儀をする。正直なところ、モニカはまだ旭の事が苦手だった。まだ、モニカの頭から、あの日旭が言った言葉が離れない。
魔法は人を殺すための道具。復讐のためだけに生きる
何度もその言葉を頭のなかで反復し、否定する度に、モニカの旭への苦手意識は強まっていく。声を大にして否定したいのに、それができないのは、心のどこかで、モニカも同じことを考えているからだ。
(復讐したい人がいるわけじゃないけど……多分、私が旭君の立場だったら、きっと――)
だから否定できない。旭の言葉を肯定してしまう自分がいるから。
「エストレイラ。後ろ、乗るか?」
「え?」
「お前、手貸してくれる友達もいねぇのか……?」
「いるよ! パーシーに頼むから気にしないで!」
差し伸べられた旭の手を掴むことなく、モニカはパーシーの元へ走っていく。モニカを見て放心したような顔をしている旭の両肩にぽんと手が置かれる。振り返るとそこでは、レオノールと国綱がニヤニヤと笑っていた。
「振られちゃいましたな〜」
「寂しいなら僕たちが一緒に行ってやるよ」
「余計なお世話だ馬鹿ども!」
「はい、準備できたら確実移動〜」
飽きもせず今日も喧嘩している旭たちを無視してアステシアが空に浮かぶ。それに続くように、モニカはパーシーと手を繋ぐことで、
「早めに移動すれば神精樹の古書館まで5分程度だ。時間を無駄にするなよ」
そうして、旭たち3人は置いてけぼりで、モニカたちは神精樹の古書館へ向かっていく。
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