色とりどり

 これは、ある授業終わりの一幕。



「七色だ」


「……何が」



 教室の1番後ろに座っていたレオノールが急にそう言った。最前列に並ぶ女子たちをまじまじと見つめ、ぶつぶつと何かを言っている。最初は聞こえないふりをして無視していた国綱と旭だったが、あまりのウザさに負けてつい旭が質問してしまった。すると1秒と立たずその質問に、弾けんばかりの大声でレオノールが答えた。



「よくぞ聞いてくれた!」


「うわうるさ……」


「俺は黒髪が好きなのに!!」


「お前の好みは聞いてねぇ」



 レオノールの嘆きは中々受け入れられないようで、国綱と旭はそそくさと帰る準備をしている。レオノールは机に突っ伏し、悲しそうにまた呟いた。



「こっちに来てから分かったけど……髪色が……」


「まぁ、極東は黒髪しかいないからな」


「そうなんだよ!!!」


「だからお前の好みには興味がねぇって」



 授業が終わってもなお最前列で楽しそうにお喋りをしている女子たちを指さし、レオノールが涙を流して訴える。



「なんであんなに色とりどりなんだよ……俺は悲しい!!!!」


「凄まじいほど清々しい。彼女たちに聞こえるよ」


「聞こえるように言ってんだよ!!!!!」


「ちょっとずつ声量上げるのやめろ」



 レオノールの指さす最前列には女子会を通して仲良くなった女子たちが並んでいる。モニカは茶の混じった黒髪。パーシーは淡い青よりの水色の髪。ガイアは金髪。メルティは紫の髪。ソフィアは桃色。ヨナは紺色の髪をしている。授業を受けている中、それぞれ違う色とりどりの髪色をしたモニカたちが並んで常に視界に入るのだ。



「黒髪がいない!」


「エストレイラは黒だろ」


「違う! 俺は純粋な黒がいいの!」


「お前の隣にいるだろ」



 レオノールが嬉々として隣を見ると、そこには準備を終えて帰る気マンマンの国綱がいた。一瞬だけ目が合うと、レオノールは物凄い形相で旭の方を向いて睨みつける。



「男はお呼びじゃねぇよ!」


「知らん。お前髪が良けりゃなんでもいいんだろ」


「……あれ、しれっと僕も含んでるね? それ」



 含みを持たせて複数形にした旭の方を見て、国綱も旭に敵意を向ける。



「久しぶりに運動でもするか」


「何言ってんだ国綱。最高だなそれ」


「……やるなら外出てからにしてくれ」



 ワイワイがやがやと騒ぎながら旭たちは教室を後にする。その様子をチラチラと覗き見しつつ、モニカたちが小声で密談をする。



「……行った?」


「行った行った」


「ぷは〜っ! 息きれそうだった!」


「パーシーさん、それ多分意味ないです……」



 旭たちの会話を耳を澄ましてバッチリ聞いていたモニカたちが会話を膨らませる。物音を立てないように息を殺していたパーシーが面白いほど顔を真っ赤にしているのを見て楽しそうな笑いに包まれる。

 ひとしきり笑ったあと、思い出し笑いをして口角をキュッと上げて小悪魔のように笑うソフィアが口を開いた。



「っていうかさ、色とりどりっていうなら……」


「国綱さんたちの方もそうですよね」


「それな!」


「確かに……」



 言われてみなければ気が付かないが、旭たちも十分彩りに溢れている。国綱の極東人らしい真っ黒な黒髪。対して旭は黒髪に若干色の薄い黒のハイライトが目立つ。レオノールに至ってはチャラさ全開の黄色の髪に黒のメッシュだ。



「アリシアさんも白髪だし、ほんと色とりどりだね!」


「モニカも遊びなよ〜!」


「えっ?! わ、私は……」



 モニカが何かを言いかけた瞬間、扉が開く音が聞こえる。教室の勢いよく開かれたその扉の先にいたのは、鬼の形相をしたアステシアだった。



「早く帰れ馬鹿ども!」


「は、はーい!」



 蜘蛛の子を散らすように、モニカたちが退散していく。背を向けて帰っていくモニカたちが色とりどりに夜の空を彩り、この話は幕を閉じる。

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