女子会
モニカが駆け足で寮の扉を開けると、赤い着物を来た幼い女性が受付に座っているのが見えた。ぺこりと軽く頭を下げて、挨拶をして、モニカは帰寮時刻を用紙に記入する。
「……ふんふん」
赤い着物を着た女性は興味津々といった風な目でじろじろとモニカを見ている。息が届くほど近くまで近づいて、じっとモニカを観察して目を輝かせている。
「……あの、何かありましたか?」
「ふぇ!? み、みみみみ、見えるんですか!?」
見た目通りの幼い声と幼い反応をした。あれほど積極的だった態度は一変して、ふりふりと袖を揺らして、恥ずかしそうに赤く染まった顔を隠している。
「し、失礼しました。私は
「やっぱり、妖だったんですね」
「はい。色々話したいことはあるのですが……帰寮時刻を過ぎてますので……」
そう言って、小福はちらりと壁に掛けられた時計を見る。既に針は19時を過ぎ、15分を指している。
「すみません! またお話しましょう!」
「いい夜を〜」
足音を立てない程度に早歩きをしながら、モニカは自室へ向かった。明かりは既に付けられていることが扉の隙間から見て取れる。扉の奥からはワイワイと話し声が聞こえてくるようで、モニカは防音設備の限界を感じていた。
「ごめん! 遅れちゃった!」
「モニカおそーい」
扉を開けた瞬間にモニカが謝罪をする。それに真っ先に反応したのはパーシーだった。モニカのベッドに腰をかけて、片手にジュースを持ちながら足をぱたぱたさせている。
19時からの約束。モニカが提案したのは、「女子会」だった。志を共にする仲間たちとの親睦を深める、という名目で開催中されたこのパーティーは開始15分でかなり盛り上がっているようで、モニカの小さな部屋がぎゅうぎゅうになっている。
「ヴェローニカちゃん、大丈夫だった?」
「ええ、おかげさまで。エストレイラさんがすぐに対応してくれたおかげです」
「ちょっと、私のことも忘れないで」
「……それと、アージェントさんのおかげ」
ふふんと鼻を高くしているのは、ヨナ・アージェントだった。ほんのり顔を赤くして酔っているようにも見えたが、飲んでいるジュースにアルコール類はないようだった。
「ヨナちゃん、久しぶり!」
「久しぶり、モニカ。同じクラスになれてよかった」
「お2人は知り合いだったのですか」
そうして、15分の遅刻でモニカは女子会に参加することになった。テーブルの上には4種類のジュースといくつかのお菓子が広げられており、各々好きな物を食べている様子だ。女子会の参加者のうち、半分ほどはモニカとあまり接点のない生徒も参加しているようだった。
「あの椅子に座ってるのが「ソフィア・アマル」。めちゃ可愛い子。あっちの部屋の隅の方でジュース飲んでるのは「メルティ・ヴァンチャット」。」
「私の部屋がパンパンだぁ……」
「あと同じクラスだとアリシア?って子がいるはずだけど今日は不参加」
パーシーはモニカとピッタリ肩をくっつけて、見せつけるように参加者の説明をする。にたりと憎たらしい笑みを浮かべて煽るようにヨナの方を見て鼻を高くする。
「そんなことより! なんで遅刻したのか理由を聞いていません。こんな時間まで何をしていたんですか」
「あ、それは私も気になる。モニカは時間とか守るタイプでしょ」
「えっとね〜……説明すると長くなるんだけど」
そうして、モニカは今日あったことを、少し嘘をついてパーシーたちに話した。具体的になんの嘘かと言えば、八重との出来事をほとんどだ。パーシーはともかく、ヴェローニカとヨナは、モニカが妖の見える特異体質だということを知らない。余計混乱させるもの悪いと思い、モニカはそれを隠して話をした。だが――
「嘘、ですね」
「うん、なんか変」
「うぇ……!?」
モニカが嘘をつくのが下手、という理由もあるのだが、それにしてはすぐにモニカの嘘は2人にバレた。2人、特にヴェローニカは少し怒ったような表情でモニカを問い詰める。
「嘘はやめてと、言ったはずですわ」
「話の辻褄が合わないし」
「正直に話して」
意識してか、偶然か。2人は声を合わせてモニカに詰め寄る。根は優しく正直者なモニカこの問答に耐えきれず、本当のことを伝えるのだった。
「し、信じてもらえるかどうかわからないんだけど」
そう一言言葉を置くモニカに対して、ヨナはモニカの手を取り、真剣な表情で言った。
「信じるよ。友達だから」
その言葉を聞いて安心したのか、ちらりとパーシーの方を一目見て深呼吸をする。なだめるように頭を撫でるパーシーの身体に身体を預け、ついにモニカは言った。
「私ね、特異体質なの。みんなには、見えないものが見える」
「……見えないもの、っていうと?」
「お化けとか、
モニカが言い終えると、部屋全体がしんと静まった。重い空気がモニカを押しつぶすように圧迫させて呼吸が早まる。背中をさするパーシーの手の感触すら忘れて、目の前が完全に真っ暗になろうとしたその瞬間、誰か口を開いた。
「何それ、超かっこいいじゃん」
丸いチョコレートを頬張りながら、そう言ったのはソフィア・アマルだった。もぐもぐと口を動かしながら、ソフィアは向けられた目線に気づく。
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