実技試験 ―5―
「じゃ、そんな感じの作戦で」
「本当に上手くいくんだろうな。パーシー・クラウディア」
「当たり前でしょ。あんなやつモニカならイチコロだよ」
3人の作戦会議が終わり、パーシーと旭が立ち上がる。適当な作戦を立て、ついに「不可視の魔獣」討伐に向けて動き始めた。会場の端っこでコソコソと、逃げ腰になっている2人を、旭が服を引っ張って引き止める。
「レオ、
「ぐわぁ〜……バレた〜!」
「はぁ……僕は手を出すなって言ったはずなんだけど」
「お前らの魔法が必要だ。早くしろ」
「「了解」」
旭の役割は「陽動」。パーシーとモニカが行動しやすいように、不可視の魔獣を煽って攻撃の標的となる、1番危険度が高い役割を引き受けた。モニカの言葉に半信半疑になりながらも、旭はこの役割を買って出た。旭は手段を選んでいられない立場にある。
「こんな所で足踏みしてる暇ねぇんだよ」
騎獅道旭は、極東からやってきた人間だ。現在、極東出身の魔法使いはほとんどいない。その理由は単純に、極東出身の人間には魔法使いとしての素質が極めて低い傾向にあるからだ。そのため、そもそも極東では魔法が広まっていない。だというのに、なぜ旭が魔法使いという道を選んだのか。その訳については、レオや国綱にも分かっていない。
3人が横に並び、「不可視の魔獣」に向けて明確な殺意を向ける。体に染み付いた連撃を叩き込む。それぞれまったく協力など意識せず、最大威力を発揮させる。却ってそれが相乗効果を得る理由になる。
「”
「”
「
3人の攻撃が、可能性を切り開く。ぬるりと、おぞましい敵意が旭たちに向けられる。見越し入道が、旭に攻撃を合わせて腕を高く振り上げる。
「パーシー! お願い!」
「”
パーシーの魔法が、モニカに向けられる。
見越し入道は極東の妖だ。見越し入道の伝承を聞いた事があったソラはすぐに対処法を考えついた。魔法と妖では存在している次元が違う。本来、見越し入道を倒せるのは、見越し入道と同じ次元に生きる妖であるソラだけだ。だが、例外が1人だけ存在する。モニカは妖たちが生きる次元と繋がっている。ソラが見越し入道を食い止め、モニカが倒す。そのために、見越し入道を引き受ける旭と、ソラとモニカを空へ押し上げるパーシーは必要不可欠だった。
完全に旭に意識が向いている見越し入道を、ソラは見下ろす。見越し入道を倒すためには、その巨大化した体躯をどうにかしなくてはならない。ソラは、その役を引き受けた。空高くから、大きな声で言い放つ。
「見越し入道、見越したりです!!!!」
今にも地面に叩きつけられそうだった腕は、ピタリと止まり、見越し入道の身体が震え始める。すると、見越し入道の身体がみるみる小さくなっていき、空を覆うほどの巨体は人間大まで縮んでしまった。
自由落下の体勢のまま、モニカが星を見る。先程まで見越し入道に隠されていた空が煌めいて見えた。上から降ってくるソラを見事にキャッチして、地面との距離を確認する。下ではパーシーが着地をサポートするために待機していた。準備は万全。これほどまでお膳立てされて、失敗する訳にはいかない。モニカは今までにない緊張を跳ね除けて集中する。
モニカは星の光を束ねる。眩しすぎる光に目を細めながらも、標準を合わせる。
(”
念には念を。モニカは「奇跡」を使って保険をかける。そしてモニカが放つのは、パーシーにも見せたことのない魔法。ソラと考え、編み出したモニカだけの必殺技。星の奇跡を重ね、一点に集中させる。光が折り重なる。
「”
眩い光が空を別つ。暗闇は光輝の光によって切り裂かれ、微かな光がノーチェスの大地に差し込んでくる。辺りは一瞬真っ白になり、誰もが目をくらませた。計り知れない威力の魔法が、遥か遠くまで飛んでいく。唖然として人々は空を見上げる。
「だーれーかー!!!!」
「あっ! モニカ!」
モニカが空から落ちてくる。魔力切れになったのか抵抗すらせずに頭から真っ逆さまに落ちてくる。しかし、既にパーシーの魔力もすっからかんだ。多少の衝撃を和らげることは可能だが、あの高度からの衝撃は抑えきれない。
「”
ほんと少しだけ、落下してくるモニカの速度が遅くなる。だが、それだけだ。依然としてモニカの落下速度は収まらず、それどころか早くなっていく。会場にいる誰も、落ちてくるモニカには気がついていない。モニカを空に飛ばしたパーシーしか、この緊急事態に対応することはできない。
パーシーの魔力は先程の魔法で使い尽くした。もう見ていることしかできなかった。そして、パーシーがとるのは最善の行動。現状で、凄まじい速度で落下してくるモニカを受け止められる人物。
「騎獅道旭!」
「……ん?」
「上! モニカ!」
瞬時に言葉を受け取る旭。上を指さすパーシーの意図を即座に汲み取り、空へ駆け昇る。焔が紺青の夜空を染め、流れ星のように降ってくるモニカの元へと飛んでいく。星の奇跡に導かれて、2人は出逢う。暗闇を切り裂く奇跡の光と、絶望を飲み込む恩讐の焔。
「”
旭が数匹の紅い蝶を操り、モニカを支える。
「危っっねぇ……!」
「あっはは〜良かった〜!!!!」
「呑気に笑ってんじゃねぇよ!」
モニカを抱き抱え、旭は徐々に高度を落としていく。
「ちょ、ちょっと! どこ触ってんの!」
「……落としてやろうか」
旭の瞳に、モニカの顔が映し出される。一旭の目に見えたモニカは、まるでこの世の希望をが集まっているように見えた。水彩銀河のように透き通る琥珀色の瞳、内側に緩やかに巻かれた黒髪。アクセントのように、黒に紛れた茶髪が光って見える。爛漫に笑う表情。一目惚れ、などでは断じてないと言うことができないほど、旭は魅せられてしまった。モニカと目があった瞬間、逃れようのない何かが始まってしまった気がした。
「……? どうかした?」
「いや、なんでもない」
モニカによって見越し入道が倒され、実技試験は終わりを迎える。地面に降り立った旭とモニカを、受験者と獄蝶のジョカが迎えていた。魔力切れでぐったりとしたモニカを、パーシーが奪い取り旭を睨みつける。本能とでも言うのだろうか、普通は感じ取れない何かを感じているようだった。そして、獄蝶のジョカが締めの挨拶をする。
「よくやった、若き魔法使いたち。これで今回の実技試験は終了となる。結果はまた後日、楽しみに待っているといい!」
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