第56話「ザバラン王国」

 数日が経ち、セツナは帰ってこなかった。

 連絡もないので四人は探しに行くことにした。セツナが最後に受けた依頼の概要はティタ姉に聞いてた。

 ザバラン王国にある遺跡への護衛依頼。 

 ひとまず遺跡の中で何か手がかりを残していないか調査する。

 ザバラン王国はシェラザード王国から見て南方にある国だ。この国の国土はほぼほぼ砂漠である。

 そして気温が高い。

 遺跡の周りには仮拠点が複数あり、長期的な調査が行われているようだ。

 砂で薄汚れた遺跡の中に入る。外より涼しくひんやりとさえ感じる。


「ミケ、セツナの魔力の残滓とか辿れないか?」

「無理じゃな。大規模な魔術を使ったのなら可能じゃが」

「そうだよなー」


 そもそもセツナはこの遺跡から離れてギルドに完了報告をしているのだ。

 中にも人が何人もいるのでセツナのことを聞いて回った。


「あ、女の子でしょ?見た見た」


 セツナらしい人物の目撃証言がようやく聞けた。


「三階で見たよ。商人っぽい人達と話してた。僕たちもギルドに護衛だして貰ってるけどね。いつも男性だから」

「それは先生が女性だと恥ずかしがって仕事にならないからです」

「ま、まさか君が?」


 二人は学者と助手の関係のようだ。


「私だって女なのに……」


 リィドは甘い気配を察知し必要な情報が入手できたのですぐさま別れた。


「三階まで行くのか?」

「ひとまずな。治安は悪くはないし魔獣も多くないと思うから俺たちなら問題はないかなと思うがどうだ?」


 人がたくさんおり、護衛としてギルドメンバーも複数いる。

 犯罪者が紛れ込んでいる可能背はあるが、初対面で敵対行動をとることは危険ななので低いだろう。


「そうだな。フェイシスと私が前、リィドとミケが後で進めば問題はないかと」

「ああ」


 入口付近は調査が進んでいるので簡単に三階まで到達した。

 聞き込みによるとこの遺跡は地下に空間が広がっており、地下四階までの道のりは発見されているそうだ。

 四階より下の階が存在するらしく、現在どこから行けるかなど調査中とのこと。

 四階の調査が盛んに行われているので三階はほぼ人がいない。


「何もないねー」

「そりゃそうだ。人が調査してる遺跡だからな、罠なんて解除されてるだろうし。解除できない類は注意書きなりあるからな」


 フェイシスは頑張って罠を見極めながら進むが罠がないため消化不良のようだ。

「あ、行き止まり」


 何もない部屋に辿り着いた。


「罠もないようだ」


 エリル壁に沿って注視しながら動く。


「何もない部屋って珍しくないか?」


 リィド達は既に五つの部屋を確認していた。

 今までの部屋は机のようなものや部屋の中に柱があるなど、何かしらは物があった。

 この部屋は何もない。


「何かあったが調査のため持ち出されたんじゃないのか?」


 エリルは壁の調査を終え中央に戻る。


「ミケ何か感じるか?」

「……うっすらとな。あ、セツナの痕跡とかではないぞ」


 ミケはぶつぶつつぶやきながら床をを凝視しながら歩き回る。

 エリルは部屋の入口に戻り、通路を警戒する。

 気づけば良い連携だよなと内心リィドは思った。

 ある程度の定石ができているためいちいち声を掛け合わなくとも理想な動きがとれるようになっていた。


「罠じゃなさそうだが、魔術的な何かが仕掛けれているようじゃ。が、薄すぎてな……」

「ミケ、砂利が飛んでるから」


 ミケは床を蹴りだした。しかし、何か変化が起こったりはしない。


「くちゅん」


 爽やかな風が吹き抜けなかった。


「ミケ!」


 フェイシスがくしゃみをすると、部屋の床が光だした。

 ミケの言っていた魔術式が起動した。


「ご主人、恐らく転移系だぞ」

「みんな、三階入り集合」


 リィドは最低限伝えることができた。

 次の瞬間視界が変わった。


「誰かいるか?」


 リィドは辺りを見渡す。

 移動先は遺跡内のようだった。周りには誰もいない。

 しばらく進み、ここが四階より下の階層であることが分かった。

 一階から三階までは通ってきたので見れたば分かる。

 四階は人が多いとのことでここまで誰にも遭遇しないということは四階でもなさそうだ。

 床や壁の状態が長い間人が訪れてないように見える。


「ち」


 リィドはパプを見つけた。

 さっそくリィドは貰った剣を出す。

 パプとは掃除屋と言われる魔獣で人間にはほぼ無害な魔獣だ。

 手のひらサイズの大きさで、埃や砂粒など食べる。

 口から溶解液を出し表面を舐めるようにして食べ、環境を綺麗にするので掃除屋と呼ばれる。

 リィドが警戒したのはパプのせいではない。

 パプがいるということはパプを捕食する魔獣がいる可能性が高いということ。

 遺跡の中、パプ。可能性が高いのはマーダースレイブである。

 一体なら何も脅威ではない。

 人の出入りが一切なそうなので大群になっていた場合厄介だ。

 マーダースレイブからすればパプよりリィドの方がご馳走である。

 三体のマーダースレイブに遭遇した。

 処理し近くの部屋に避難する。


「……」


 かなり広い部屋だった。

 しかし、魔獣などの姿は見当たらずひとまず安全地帯。


「な」


 部屋の中央で突如魔術式が光る。


「悪魔か?」


 突如リィドの三倍の大きさの何かが出現した。

 低級悪魔のようだが意思を感じられない。


「……護衛か」


 リィドの知識の片隅に置いてあった情報だ。

 あれは既存の生物ではない。魔術によって作られた使役人形だ。

 条件を満たすと召喚され、条件が解除されるまで起動し続ける。

 一般的な使われ方は侵入者の迎撃だろう。


「……まだましか」 


 使役人形は大きく分けると二種類になる。

 一つは同じ動きだけを行うタイプ。

 もう一つは相手、状況に合わせて行動を変えるタイプ。

 そして、重要なのが使役人形を作っている素材である。

 多いのは鎧など元形あるものを利用するタイプ。

 次は金属や石など素材を利用し、魔術によって形作られるタイプ。

 最後は悪魔などと同じ魔力により作られたもの。

 使役人形の対処法は一番は条件を解除すること。

 しかし、こういった場合大抵侵入者が消えること。つまり逃げるか、死ぬこと。

 普段なら逃げ一択だが、これは明確な罠である。

 部屋の出入り口は魔術によって結界のようなものが貼られ出ることができない。

 なら倒すしかない。

 次は魔術式の破壊だろう。

 リィドは残念ながら魔術には詳しくない。

 するとしたら、魔術式そのものの破壊だが、使役人形と戦いながら石でできた床を破壊するのは現実的ではない。

 なら使役人形の再生、動かなくなるまで破壊すること。

 破壊しないといけないが、ここで使役人形の素材で難易度が変わってくる。

 目の前のは魔力が主で構成された魔のような器だ。

 今の手持ちだと一番ましである。


「やるか……」


 リィドは高揚していた。

 興奮ではなく、高揚である。

 フェイシスが来てから一人きりで命がかかるような場面に遭遇していない。

 一手のミスも許されない緊迫した状況。

 好きではなくてもひりつく神経が肌を撫でる。

 リィドは初手で剣を投擲する。


『ぷしゅ』


 剣は使役人形に突き刺さる。使役人形は剣に反応し腕を交差し構え、その腕に突き刺さる。


「そりゃ」


 リィドは剣を投げた直後に使役人形に近づき、素手だか腕を振り下ろす。


『パシュ』


 リィドは剣を頭の中で呼んだ。振った手には剣が握らていた。

 使役人形の左腕を切り落とした。

 左腕は床に落ち空に解けて消える。

 魔術式が再度光ると使役人形の傷が元通りになった。


「繰り返しだな」


 リィドは剣を横に思い切り振る。


「おっと」

『かっキン』


 使役人形も攻撃に移行した。

 リィドに反応したのか剣を持っている。

 動き自体は大したことはない。

 しかし、無尽蔵のスタミナ。痛みや、恐怖を感じるなどの感情がないのでやり難い。


「はぁ……疲れるが仕方ないか……」


 使役人形は剣をリィドに振り下ろす。

 凶刃はリィドを二つに裂く。

 が、剣は床に転がる。

 正確には腕が斬り落とされ、腕ごと床に転がる。

 迷わず首を跳ね、足を落とす。

 流れるような動作。斬り落とされた部位が床に触れる頃には次が斬り落とされている。


「今後は槍か」


 再生された使役人形の手には剣でなく槍が握られていた。

 極論、どれほど鋭い一撃だろうが当たらなければどうということではない。


「悪いな」


 使役人形はリィドの心の臓を一突きに槍を繰り出した。

 剣と同じ結果になった。

 槍を突く時点で詰んでいる。

 魔獣相手になら有効だが、人間相手に槍の突きはそこまで有効じゃない。

 長さの利を活かすために振り回す、叩きつけるなどの攻撃をした方が良い。


「っと」 


 槍も無駄だと判断し今度は無手で現れた。

 先ほどとは異なり異様な手をしている。太く鋭い爪に様変わり。


「剣のおかげだな」


 迫りくる手をそのまま半分に斬る。片腕が両手になり剣先は肘を駆け抜けた。

 ただの剣ならば鎧を断ち斬ることなどできない。

 ただの剣ならば、魔術を斬ることなどできない。

 この剣ならば魔術すら斬ることができる。悪魔などからすれば相性が悪い。

 それはこの使役人形にも言える。

 普段ならもう少し苦戦するが、面白いほどにすぱすぱと斬れる。


「そうきたか」


 尾が複数生えている魔獣のような姿で現れた。

 尾が一斉にリィドに襲い掛かる。

 剣で生きてきた剣士なら、清く正しくあれと律する騎士ならば果敢に尾を斬捨ていただろう。

 リィドは走り、尾を躱し使役人形の側面に移動する。

 躱された尾は伸び続け、リィドを追う。

 リィドはすぐさま剣を投げた。

 使役人形の側面に突き刺ささる。

 一部の尾が剣に向かう。すかさず減った尾を斬捨てる。

 剣が消えたことで無傷な尾はリィドを狙う。

 リィドは再度剣を投げる。


「これで最後か?」


 再生するまでかなり時間がかかった。

 現れた使役人形はかなり小型で、リィドの半分くらいのサイズしかなかった。

 リィドは笑った。

 喜びではない。

 呆れである。

 あまりにも最後は切ない。


「フェイシスのおかげだな」


 初動が速いはフェイシスとの手合わせ、協力の過程で慣れている。

 何よりフェイシスの半分の速度も出ていない。

 もちろん、慣れているから対応できるのであって普通の人間なら隙をつかれ命を落としてる可能性が高い。


「終わりか」 


 斬捨てても魔術式が発動しなかった。

 入口を塞いでいた結界も消失した。


「お、安全にうわっ」


 リィドは反射的に部屋に侵入してきた敵に剣を突き立てた。

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