第2話「名前だけ」

「フェイシスか。どうして俺のベッドの中に?」

「?」


 少女は首をかしげる。ここでようやく落ち着きを取り戻してきたリィドは質問を投げかける。


「じゃ、恐らく事故かで飛ばされたここに落ちたと思うんだが、何をしたんだ?」


 天井に穴が空いてるのは、恐らく天から振ってきて少女が落ちて突き破ったからだろう。


「分らない」

「ん?」


 言葉の真意を探る。


「言えないじゃなくて、分らないのか?」

「名前以外……覚えてない……」


 純粋無垢な瞳。信じるしかなかった。


「きっと衝撃で記憶を失ったのかもな。と、とりあえずギルドに行こうか」


 ギルドに向かうまでにさんざん絡まれた。あのリィドが見知らぬ美女を連れていると。


「なるほど。一応行方不明届けは出てないようです」


 身なりが綺麗で所作も丁寧なのでどこかの国や貴族の血筋で事件に巻き込まれたかと推測が外れた。


「行方不明はさすがに昨日の今日じゃ出されないかもしれませんが、指名手配はされてないようです」


 小声で受付が伝える。

 行方不明届けがもし出たら知らせてくれとお願いし、街唯一の病院に向かった。


「お嬢ちゃん名前は?」

「フェイシス」

「記憶がないのか。じゃ、これは何だ?」

「ナイフ?」


 医者はナイフを手に取りフェイシスの前に出す。


「これは?」

「ボロ」

「お前は黙っとれ」

 使い込まれた鍋を出す。

「?」


 フェイシスは首をかしげる。


「記憶と一部知識の欠如か。見た限り外傷もない。原因は分らんな」

「やぶ」

「次、怪我した時治療してやらんぞ?」

「ごめんなさい、街一番の名医様」

「ったく。魔術で見てみたが、脳みそも恐らく問題はさそうじゃ。あくまで、ここの設備で見れる範囲での診断じゃがの。都で見てもらえば詳しく分ると思う」


 様子見ということで落ち着き一旦家に戻ることにした。


「ごめんなさい」

「え?ああ、別に大丈夫だ。この間の嵐の時のせいで屋根がちょっと弱くなってたしな」


 リィドはひとまずベッドの木片を片づける。


「まぁ、フェイシスは怪我人なんだ。それに、きっとあれも事故だし、気にしないで」

「直るの?」

「まぁ、あれくらいなら俺一人でできるな」


 リィドは外に出て、屋根に上がる。

 言葉に嘘偽りはなかった。突然の出来事すぎで感情がついてこなかたのもある。

 それに、ここまでの美少女はそうそうお目にかかれない。日頃の行いが良かったのかと屋根を直し始める。


「すごいね」

「う、うわ」


 いきなり背後で声がしたので落ちそうになった。


「どうやって屋根に?」


 リィドは梯子を使って屋根に上ったわけではない。なので目の前にいるフェイシスも梯子以外の手段で上ったはずだ。


「ジャンプした」

「そうか。危ないから、少し離れていて」

「私のせいだし手伝う」

「……じゃ、その板を固定してくれないか?」

「うん」


 フェイシスに手伝ってもらい屋根の修理を終え、ご飯にすることにした。

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