第617話 元・創世神の御座。

 さて、創世神の御座であった場所というのは、そこそこ標高の高い場所にある。

 といっても、急峻な岩山とかそんなものがあるわけではないのでそこは安心だ。


 道なんてもうどこにもないけど。

 いや、これまでの道程でも、マトモに道だった場所を通ったのってモルタニスまでだけど。


 それすら山をある程度越えてからだったし、クレリア以降は道も更地も判らん、くらいにただの荒野でしたからね。


 歩きやすくはあったよ?地面以外なにもなかったからね。

 しいて言えばカルマルフェッタの砂まみれがちょっと怖かったけど。滑るんだもの。


 そういえば浄化の後の方が歩きやすい気はする。

 雪の近くでも、温度だけは下がっていても、湿度がないから砂が固まっているとかではないんだけど……


「この辺砂が少ないな。氷雪エリアからの風で飛ばされたかな?」

 歩きながらサーシャちゃんが言っていたのが多分正解かなー?



 創世神の御座であった国の跡も、すっかり砂まみれだった。

 そして、カルマルフェッタの時にサーシャちゃんが言っていたのと同様に、雪の周囲だけ、砂が少ない。


「遺跡すら残らないのかぁ。この世界、考古学とか育たなさそうだな」

 アスカ君の感想には首を傾げる。


「そうはいっても、聖獣の長命種や神々が存在するから、歴史の証人には事欠かないんじゃないかしら、この世界」

「ここいらみたいにそれらが殲滅されちゃうと、って話だよ。

 まあこれ以上そうならないようにしに行くんだけどもさ、今のオレ達」

「どっちの言うことも真理だな。モルテットがいるから、ある程度の過去は拾えてると思いたい、くらいの話でいい奴?」


(限定的ではあるけどねー!神の事は把握できてるが他国の民や聖獣までは情報が足りてないからなあ)

 サーシャちゃんがあたしとアスカ君、双方の言葉に頷き、モルテット氏もほぼ同意する。


 ここも地図はあるのだけど、ケット・シーのそれが妙にスカスカしている。

 どうやら彼らはこの国にはあまり来た事がない、らしい。


 真龍版の古地図の方はそれなりにきちんとあれこれ書かれているけど……

 旧王都らしき場所に関する記述が、これまた少ない。


(奴が本拠地にしていた頃は、狭義の人族以外は出入り完全禁止だったからな、この王都。

 獣人と亜人種の奴隷はいたし、召喚契約で使役されてる幻獣程度ならいたはずだが。

 じゃないと社会が回らんそうだからな、奴の思想だと)

 珍しく吐き捨てるような物言いのモルテット氏の発言に、全員が苦々しい顔になったのは、まあしょうがないだろう。


 要するに旧サンファン国の末期の状態と似た感じ。

 但し、サンファン国は聖獣がいない国ではなかったけど。


 その、曲がりなりにも聖獣がいたサンファン国ですら、旧体制時の奴隷階級の魔力搾取、労力搾取は悲惨を極めていた。


 動乱時に保護された子供たちの中には、本来なら至れるであろう魔力限界の種族的下限すら満たせないまま成人した子がいるレベルだと報告を受けている。


 エルフだと元の魔力限界が高いので、そこまで酷い事になった子は現状ではいないらしい。

 割を食ったのは獣人の子達だ。


 それでも日常生活には支障がない程度の魔力量はあるから、希望者にだけ、魔力量総量の回復が可能かどうかの研究に付き合って貰っているそうだ。


 人間だと、魔力のあるものを良く食べて回復魔法を貰う、なんてことしても魔力、増えないからなあ……あれ、動物と幻獣だけの仕様らしいんだよね。


 逆に、フレオネールさんちの子になった獣人の子二人は、運よく本来の魔力量程度にはなっていたけど、その分身体の成長がちょっと遅れている、と聞いている。

 

 ただ、そちらは寿命が少し伸びた結果、なので別に悪いことではない。

 一年分くらいずれる程度の話らしいしね。


って、すっかり思考がずれてたわね。


「それでどっちの地図もややあやふやなのか。主要な建築物の存在は書かれてるだけマシ?」

「そうねえ、上から見た座標が参照できるから地図に追記するわね」

「……ねーさん、まるで情報衛星抱えてるみたいな言い方だけどそれ」


 サーシャちゃんが首を傾げているので、天の声経由で貰っている座標情報をケット・シーの地図に書き込んだら、アスカ君からクリティカルな疑問がお出しされた。


「あたしの知識をもとに、召喚補助機構が観測衛星っぽい魔法を開発しました。

 ライゼル本国以外は見えてる感じ……あら?」

「何その激やばチート……って何かあった?」

 今いる人間勢は非魔法文明系異世界人だけで余分な解説は要らないので、さくっと説明したらおののかれた。


 そして、その仮称観測衛星のデータが、モヤっているところがある。

 座標的には……元大神殿、狭義の『創世神の御座みくら』ね?


「……つまり、そこにだけは奴の何かが残っている?」

 事態を伝えたら、サーシャちゃんを筆頭に、全員が嫌そうな顔をした。


「むしろ残ってない方がどうかしていると思うけど?」

 あたしの答えはこうだ。


「御座……この世界を創造した時に最初に創られ、かつ、最初に仮称ズボラが降り立った地、って事か?」

 そしてアスカ君にそう問われたので頷く。


 そういえば地名の由来は説明してなかった!

 いや、神殿の書籍や地誌を閲覧してたら、存在した事だけは書いてあるしいいかなって……!


「本体は居ないんだよな」

「完全消失したって聞いてるけど……うん、消えてる」

 サーシャちゃんの確認に答えたら、技能判定が入った。


 ズボラの本体は完全に消失している。

 これは堕落反転直前に運悪く召喚されていた異世界人が、相打ちの形で討伐したものらしい。


 ……ガチの勇者が召喚されたんじゃねそれ?


(あんときはぼくらの方にも堕ちた本体側の情報が結構流れてきていてね、当然国民どころか神官達にも伏せざるを得なかったんで人類は知らないんだけど!

 なんか、異世界の光の神の欠片を宿した人間だったらしくて、その欠片と本体を相殺処理して、自分は空間の歪みをこじ開けて帰ったらしいよ……!)

 な、なんだってー!?


 そう言われてみれば、本体の完全消失に至る経緯ってあんまり知らなかったなあ。

 ズボラは元本体の場所を見ようとすらしなかった、ってのだけ聞いているけど。


《モルテットさんの仰った事がほぼ全てだそうですよ。

 ただ、自力で空間の歪みをこじ開けたのではなく、相殺処理でできた空間の歪みを通じて、光の神自体がその少年を連れ戻したのだそうです。

 メリエン様の推測では、血の繋がりのある身内だったのではないか、だそうですわ》

 シエラが詳細な解説をくれる。


 へえ、この閉じ気味の世界にも、そんな形で干渉する事ができたんだ。

 ……でも正直言うと、これはアスカ君の参考にはならなさそうだなあ。


「勇者より厄介なモン呼んでるの草」

「サーシャも充分そのカテゴリに入りそうだけど」

「お前ほどじゃないぞ多分。神の残滓を無手で磨り潰すなんて、到底できんもん」

 サーシャちゃんとアスカ君がまたじゃれあっている。仲いいね!


「大丈夫、どっちも逸般人!」

「ねーさんに言われたくない」

「ねーちゃんがそれ言うの?」

 断言したら二人から秒でブーメランが飛んできた。事実ではあるからまあ残当ではある。


「そもそも今のパーティ逸般人しかいない」

 そしてカナデ君が自虐めいた口調でそう述べたので全員で顔を見合わせる。


「残念ながら、事実でございますわねえ。仕えるあたくしどもとしては鼻が高うございますが」

【うむうむ、主たちは立派であるよ。ワシらも仕え甲斐があるというもの】

 カスミさんとマルジンさんが口々にあたし達を励ましてくれたので、全員でにひゃ、っと妙な笑いになって、お互いの顔を見て、今度は全員で大爆笑した。


 いやー、全員で変顔って意外としないもんなんですよ!



 笑いが落ち着いたところで、消失時の詳細を教えたけど、案の定アスカ君が、何の参考にもならねえ!ってぼやいていた。ですよねー。


「ヤグスの場合、最初に召喚されたという世界からもう一度召喚要請があればワンチャン、というところでございましょうか」

 休憩場所というか寝床にするために掘った雪洞を整えるために化身姿になったマルジンさんがそう指摘したものの……


「いや、二度と魔王は現れないっつーから、じゃあ召喚術も二度と使うなよ、って念押ししてきちゃったからさあ……」

 アスカ君は自分でそのルートを潰しておりました。


 いやまあ当然だとは思いますよ?

 普通、こんな何度も召喚されたり漂流したりは想定しないですよね、人間!


――――――――――――――――――――

なんかいるかも、とか言ってるのに寝る支度してるこいつら。

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