第610話 自称守護神の残滓と勝利の欠片。
至聖所ってどこの国でも地下だから、神本体が居ないと全体に画面が暗くなるイメージ。
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さて、隠し神殿の内容だけども……
暗かったので〈灯〉をいくつか灯して判ったけど、やけに通路が長い。
というか、我々が入った場所自体も、どうも通路の途中のような雰囲気だ。
(入り口は数か所設定されていて、必要に応じて一つ開けるシステムだねぇ。
今生きているのはここだけっぽいけど。
流石に魔力すら残ってない場所では稼働させられないよねー)
モルテット氏の解説は今回もいい感じに知りたいところを教えてくれている。
「つまり別に嫌がらせでこんな端っこを選んでいる訳ではないと」
ワカバちゃんはいま現在もご立腹なので言葉には棘がある。まあこれは仕方ない。
「マップが更新された。
そもそも旧国境沿いの他の入り口は悪用されないために埋めました、となってるな」
サーシャちゃんが宙を睨んでそう教えてくれる。
「ほんとね、ズボラ側がここの存在を知らないとは考えにくいけど……」
「この国が健在な当時に来たことあるけど、双神神殿は存在自体は知られていたけど、その正確な所在地はこの国の王族すら知らなかったはずだよ」
どうなんだろう、と口にしたら、アスカ君から過去時点での情報が。
さいこうしんかん しか しらないばしょ なぜ あなたが
そして、か細い声のクリス・リーア女神の残滓らしき音声が、アスカ君に疑問を投げる。
「招かれたけど断わったんだよね」
そしてアスカ君の回答は、予想外……でもないなあ。
現状を知ると、これまた残当な気が……
「招かれる条件は超級護法師……だけじゃなさそうだけど」
カナデ君は自分には一切接触がないからそうじゃなさそう、と結論付ける。
ほしいのは けんじゃではない
男性の声がここでやっと聞こえるようになる。
なるほど、超級でも賢者候補は要らない、か。理屈は一応通ってる?
でも、アスカ君も魔法構成自体はカナデ君に近いのよね。
召喚魔法があって治癒魔法がないけど。
……元、とはいえ、治癒魔法のない勇者って、なんかイメージと合わないなあ?
「治癒術が使えると対象外ってのが良く判らねーんだよな。
オレはこの世界に適応する治癒魔法は使えないからノーカンって言われた覚えがあるが」
あ、そういうことか。
技術ツリーが違うと適応対象外になるあれ。
つまり他所の魔法文明由来のスキルや魔法知識のあるテンクタクト氏やレンビュールさんが、この世界の攻撃魔法を全部は使えないのと同じ奴。
「アスカ君、元は治癒術系統も使えたのね?」
「流石に治癒能力なしで無補給連戦は無理だと思うんだ。
蝙蝠のおっさんのお陰で再生能力もちょっとはあったにしてもさ」
質問を投げたら、来歴は知ってるだろ?と返された。
確かにそれはそう。
【役には立っていた、かね】
「そもそもあんたの眷属化がなかったら、魔王城吹っ飛んだ時に致命傷喰らってたからな、助かったし、その後だってずっと役に立ってたに決まってる」
マルジンさんは、かつて同意を得ずに眷属化を行った事にちょっと後ろ暗い思いがあったようで、恐る恐るそんな確認をしているけど、アスカ君の方はあっさりしたものだ。
そんな風に話しながら通路を進むと、終着点と思しき場所に到着だ。
これまで見た神殿の至聖所より、狭い空間。ほぼ人族が使う建物程度の広さだ。
恐らくこれは二人の神が、人類サイズの分体で使用するための場所だから、だろう。
内装の方はシンプルに白い、謎素材っぽさのある壁。
ここも暗いままなので、〈灯〉を数か所に散らして全体を明るくする。
飾り気のない四角い部屋の真ん中に向かい合う二つの石造り、恐らくこの空間にあった岩盤を掘りながら削り出して作ったと思われる、飾り気のない椅子と、その間には、やはり同様の石の、応接間にあるような低いテーブル。
そのテーブルの上に、白く光を反射する、盾らしきものが置かれている。ヒーターシールドって形状かな?
上辺が平らで、全体は五角形に近い形、下半分は緩く弧を描いて尖った先端に達する、そんな、紋章学触ってるとおなじみのカタチ。アイロン盾って言い方もあったかも。
「……盾の形状自体は無難ですね」
ワカバちゃんの感想はこれ。表情は相変わらずの塩全力モードだ。
確かに無難感はある。騎乗でも徒歩でも使える万能型といえなくはない。
我々今回は一切騎乗する予定、ないけど。
「確認するわね」
魔力視と巫女技能を全力で回してみる。
なるほど、この盾自体はクリス・リーア女神の欠片を込めた、彼女の神器。
それを何故かクルガール神の残滓が我が物顔で乗っ取っていて、女神の欠片の神力を使いながら自分が顕現しようとしている……なんだこの害悪ムーブ。
「あ、ねーちゃんが光った」
サーシャちゃんの声。
はい、裁定者称号、発動です。
女神を食いつぶすアホは討滅対象になりました!
「そりゃあ、こんなの見たら上も激おこだわよ」
今のクルガール神の残滓は、妖異に憑かれていた頃のテンクタクト氏と同じね。
自分以外が守護者たることを許さない、それは本体を喪った残滓でしかない現状では、ただの傲慢だ。
「自分こそが守護者たらんとするあまりに、道を踏み外した、神の残滓。
最早残滓に過ぎぬ身にありながら、己が陪神だからと、必要だからこそ遺された神の欠片を消滅間際まで追い込むその愚鈍と傲慢を、裁定者が許すことはあり得ません」
かみを ぐろうするか!!
怒りの声が聞こえるけど、だって、残滓ってもう神じゃないし。
「カーラお姉さんの言う上って……境界神様じゃないよね」
ここで今更な疑問がカナデ君からお出しされる。まあ説明はしてなかったとは思うけど。
あー、そうか。
どこかでこいつに、召喚補助機構に本物のライゼリオン神の欠片が存在してるのがバレたから、こいつ、それを真似ようとしてるんだな?
まあメリエン様の助力がない状態でそんな事不可能なんだけど。
そもそも大前提としてですね、ライゼリオン神の場合、乗っ取られ、歪んで壊れて穢されてはいるけど、本体そのものは残存してるんですよ、ズボラの器としてだけど。
なので、実はズボラ討伐は、ライゼリオン神の権能も大幅に削ぐのが確定している。
つまりどうなるかというと、[裁定者]の称号を戴くのは、あたしが最後だ、ということだ。
成り行きでとはいえ、あれこれやってきたから、最後の裁定者として恥ずかしくない功績はちゃんと積んでいるつもりだけど、別に歴史にそうそう名や活動が残るもんでもないらしいしなあ、この仕事。
だって、大体の場合、国の恥部を記録する事になっちゃうからさ……神殿の奥に禁書扱いでしまわれる類の書類にしか書かれない奴よ、それ。
そして、ここは大事な所だけど、ズボラごと本体を討滅したからといって、ライゼリオン神の欠片が消滅するわけではない。
これはここまで回収できた残滓や欠片を見ても判る通り、ね。
それに、
なのでライゼリオン神の欠片は、防衛機構としての召喚補助機構の運用者としては今後も存続するのだ。
ただ、地上への干渉手段は失われる。それだけの話ね。
(裁定はホンモノのライゼリオンの権能だねえ……
まあ、巫女ちゃんの思うようにしていいんじゃねーの。
技能の選択でミスったことなさそうだしこの子)
モルテット氏が軽い調子で謎のお墨付きをくれる。
そっかな?ないかな?ないかもな?
「そこで自覚の一切なさそうな顔するのがねーちゃんだよな」
「自覚してねえ、だと……ねーさんのメンタリティどうなってんの」
サーシャちゃんとアスカ君になんか言われているけど、この世界の巫女技能に関してはなあ……
「この世界の巫女技能に、自覚とかあんま関係ないんで……」
とくにあたしクラスの各種補正が入りまくってると、余計に。
「ところで神の残滓ってどうやったら消えるの」
素朴かつ根本的な疑問が、サーシャちゃんからお出しされる。
そうねえ、確かにここまでの流れだと、残滓を消すほうの作業が入るの、想定外ではあるよね。
「……んー……力押し?」
そしてあたしの回答はこれだ。
「へえ、じゃあこんな感じか」
そして、あたしの言葉に真っ先に反応したのは、何故かアスカ君だった。
元勇者が、闇の魔力を濃厚に纏う。
なっ ゆうしゃが やみだと
動揺するクルガール神の残滓。
「元だ、現勇者じゃない。そもそも勇者判定に属性値とか全然関係ないけどな」
【そうかー?ワシが干渉する前は光全振りじゃなかったか其方ー?】
アスカ君の訂正風のキメ台詞に、空気を読まないマルジンさんが突っ込む。
でもマルジンさんの発言もなんか不正確だな。
それだとこの世界で混沌属性が発現する理由が……ってそうか、光闇両方持ってたらそうなるしかないわね!
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遺されたもの全員が素直に協力するなんて一言も言ってません☆
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