番外編 それは誤解です!
本日は番外編が2本です。
まずは……誤解って何の話だっけ?
時系列としては550話と551話の間のどこか。
本作では初の、主人公がそのまま喋ってる番外編です。
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サンファン国で避暑を楽しむ。
……だけじゃなくって、リミナリス妃殿下の産後の検診を担当したり、琅環氏族やアスカベ村の人達の移住に関する相談を受けたり、それに伴う土地改良計画を手掛けたり、と、忙しいなりにまったりと過ごしていたある日のことだ。
【あるじよ、随分長くここにいるが、どうしたことだい?】
この日も三人組を引き連れて、王宮の裏山の麓で土壌改良、というか土壌汚染の排除の実験をしていたんですけどね。
天馬のフェイトグリッター君が唐突に訪ねてきたよね。
空飛んでこれるからか、案外フットワーク軽いんだねえ、この子達。
天敵であるヒポグリフが居なくなった気軽さもあるんだろうけど。
現在、神罰執行され中のサンファン国ではあるけど、他国の聖獣にはそれは関係のない事だから、彼がサンファン国内を飛んでいる事自体に、問題はない。
しいて言えば、用事がないくらいだろう。
今回の場合、契約主のあたしがいるから、という立派な用事もあるわけでね?
「ここの王妃様の産後の健康管理とか、移民希望者の相談とか、土地の浄化と改良、なんて仕事を避暑がてらにやってる感じね。
今年はなんだか地元が例年より暑いらしくって」
何をしているのかは正直に答えておく。
なおそれらの合間に麒麟くんをモフったり、珍種の牛をモフってみたり、ムフ鳥を試しにモフったりなんてこともしています。平常営業です。
だけど……ムフ鳥、あれ、なんなんですかね?
りこぽん君が半魔獣化状態だった時の無反応とも、何か違うんだけど、モフっても例の念話を飛ばすこともなければ、感情が動いてる感じもしないのよねえ。
手触りは見た目以上にもっふもふで中身はむっちむちなんだけども。
余りにもへんてこな気分だったから、思わずロロさんとココさんをモフりなおしたりしましたよ、あたし……
やりすぎてロロさんに怒られたので反省はしています。
そうそう、毛並みふかふかの牛の方はさらさらもっふり、だった。
この牛は、一般的な家畜同様、魔力が殆どない生き物なので、あたしがモフっても大丈夫、らしいんだけど、懐かれはしている。
ココさんも、毛は長いけど普通の牛ですねって言ってたし。
それとは別に、前回の帰国時にやたら暑いと感じたハルマナート国は、今年は本当に、例年よりだいぶんと暑いらしい。
先月トリィを案内してた時はそこまででもなかったんだけどなあ。
農業に支障がちょっと出るレベル、具体的に言うとししとうが辛くなる事故がとうとう発生したけど、猛暑や水不足のせいか、先祖返りか判らんという報告を貰っている。
【そういえば、南方は今年はいつもより暑いそうだね。
渡りをする鳥の幻獣に聞いたよ。人族にも暑いのだね……】
「そうなのよ。秋の嵐が来る頃には、平年通りの気温に戻るだろうという話だけどね」
話というか、これは技能判定ね。
自分の技能で天気予報までできるとは思わなかったけど。
「あれ、天馬のがいる。ねーちゃん、丁度いいから例の件聞いちゃえば?」
挨拶ついでに天気の話をしたところで、足りないものを取りに行っていたサーシャちゃんが戻ってきて、そんなことを言い出した。
例の件?
「ほら、ケンタウロイのおっさんが言ってたあれ。
俺は正直半信半疑なとこあんだけど、否定もしきれんっていうか」
【ケンタウロイですと?あやつらまだ我らの妙な噂を流しておるのか!?】
あー、と思ったところで、なぜかグリッター君がぷんすこ!と怒りの仕草だ。
といっても仕草だけで、本気で怒ってるんではなさそう。
「妙な、って……あの異種族の異性にも惹かれるっていう奴?」
【はっ、はい!いえ!それは誤解です!
いや、異種族に惹かれることが全くないわけではないですが!
いくらなんでも一般的人族は、契約相手を含めて流石に恋愛では対象外ですとも!】
思わずどストレートに確認したら、なんとも絶妙に歯切れの悪い部分のある回答が戻ってきおった……口調がですます調になってるんだけど?
って、照れ隠しっすねこれ。愛い奴め。
ただまあ、一番確認しておきたかった部分はきっちり完全否定ですね。
ってことは、グリッター君撫でてて妙な心地になってるのは、なんなんだ?という新たな疑問が確定してしまったわけですが……
ま、それはもう今更だ。実害はないんだし、気にするのは止めておこう。
「……もしかして、ケンタウロイの女なら判らんとかそんなやつ」
【ええ、残念ながら、そこばかりは否定しきれません。
彼女らのしなやかで美しい尾も、可憐でありながら豊かで艶やかな尻も非常にげふげふ】
サーシャちゃんの問いに思わず本音を漏らし、あたしとサーシャちゃんの視線に慌てるグリッター君。
いや別に悪いこっちゃないわよ?
ケンタウロイ族の腰から下は、あたしの目から見ても、紛れもない馬のそれだし。
「……馬っ気出すほどじゃないんだな?」
そして、心持ち引いた顔のサーシャちゃんの確認が地味に酷い。
その単語、天馬に通じるんですかね?
いや翻訳だからむしろどストレートに変換されてる?
あたし側の変換が丁度いい単語を拾ってるだけ?
その辺どっちなんだろうなあ。自動翻訳の機能は割と謎なんだよねえ。
特にサーシャちゃん達三人組の自動翻訳は、出処があたしのと違うから、時々挙動が違うのよね、地元言語と並行で聞いてないと判らない程度だけど。
《貴方のその翻訳前と翻訳後が同時に聞こえるのもちょっと意味不明らしいんですけど。
上によれば、本来そういう機能じゃない、そうですよ?》
え?そうなの?
あ、でも最初は翻訳されたものしか聞こえなかったから、多分それはあたしが地元言語をちゃんと覚えたせいだと思うわよ?
【流石にそういう気持ちとは違いますね。
美しい方を見るのは心が浮き立ちますし、個体によって挙動不審になる者がいるのは確かですが、繁殖相手になりえないのは我等とて、ちゃんと判っていますからね……】
ようやっと落ち着きを取り戻したものの、相変わらずいつもと違うですます調のグリッター君による説明は、そりゃそうだよね、という感じ。
異世界生まれ同士でも、異種交配禁止法則が発生する事があるのは、ケンタウロイ族の二部族の例でも判っているけど、どうやら天馬とケンタウロイ族の間のそれは、それ以前の問題、という気配がする。
多分あれだ、観賞用。
美しい異性、ではなく、美しい生き物枠。
あたし達が天馬を美しいと思うのと、そこまで激しくは違わないやつ。
元世界でも、スラング的な意味合いだろうけど、馬を評して、美しいではなくエロいっていう人、いたもんなー。
まあ要するに、異種族懸想の噂は、ケンタウロイ美女のお尻にうっかり鼻の下を伸ばした事例が誤解された結果、だということね。
天馬達の方が脚こそ細めだけど、体格自体がやや大きいし、妙な態度を取られたケンタウロイ族的には、誤解はさておき、脅威に感じるというか、警戒する気持ちは判らんでもないけども、ね。
ついでに車を牽く話をしてみたら、二輪戦車は神話めいていて面白そうですが、実用車両は余り気が乗らないですね、という割と美意識高め?な回答だった。
「なるほど、映え重視」
「確かにチャリオットに天馬って、絵画的ではあるわね」
【でしょう?流石にこの世界でそういう事をする者はいなさそうですけれども】
ふたりと一頭で、この瞬間完全に意見が一致した、そんな気がちょっとだけしたぞ?
「ケンタウロイ族が一時期軽車両を牽くのにハマってて、二輪戦車も骨董品ならあるって言ってたぞ」
【いや、彼らのおさがりはちょっと】
サーシャちゃんの提案に、軽く引いた顔のグリッター君。
確かにおさがりって言えるか……
「……新造ならいける……?」
【主がお望みであれば。
ですがあれは割と乗りこなすのにも技量が必要ですよ?
特に我らの場合、空を飛びますからね】
そしてうっかり新しいのならいいのかと聞いたら、割とガチめに訓練しないとだめじゃね的な回答で、確かに言われてみれば誰が乗るんだよ、でしたよね……
あたし?無理。
二輪戦車の構造は知ってるけど、あんなのに乗ったら、多分進んだ瞬間に後ろに転げ落ちると思う。
「二輪戦車ってそもそも車両を制御する専任の御者と主が乗る形式だから、主以外運びたくない天馬にゃ合わんよなあ、そういえば」
【そうですね。ご理解いただけて幸いです】
そして別の問題点に気付いたサーシャちゃんに、言葉遣いが戻らないままのグリッター君が頷いている。
ひとしきり質疑応答やら言い訳やらで謎の交流をしてから、グリッター君は帰っていった。
いつも通りちょっと撫でたけど、前程うっとりモードにはならなかった。なんでだろ。
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というわけで、話の流れ的にどうしても本編中に入れると変になるので番外に追い出された、天馬のヘキ誤解解消編でした。
本日はもう一本更新がございますよ。
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