第六部 フラマリア国編

第184話 実地調査と鶏たち。

今回から第六部ですが、まあ最初は例によって、いつもの城塞スタート。

―――――――――――――――――――――――――


 王都から研究者の人たち数人がやってきたのは、イードさんの報告から、三日ほどしてからだった。


「成程?確かに鶏が魔力を持っているね……」

 想定していたより魔力量が多いな?と呟くのは、新緑のような色にメタリックなきらめきのある、短いけどド派手な髪を綺麗に撫で付けたスタイルの、銀縁眼鏡のぱっと見インテリ系のお兄様。

 この人は今回の研究者たちのリーダーのエスティレイドさん、イードさんの、だいぶ上の方のお兄さんね。普段は王城で文官として仕事をしてるんだけど、今回は魔力視があったほうが便利だから、と駆り出されたそうだ。お疲れ様です。

 キャンプ場の方の村へは、別の一団が既に到着していて、調査開始しているらしい。

 そちらにはエスティレイドさんの同腹兄弟のエルネストさんが行っている。遠話を使ってリアルタイムに情報交換をするためだそうだ。

 魔力視はあたしができるのに、なんでこちらにエスティレイドさんが?と思ったら、魔力視に限らず、スキルや技能の発現や内容には個人差が結構あって、特に異世界人相手だと、思ってたのと違う、とかよくあるんだそうで。

 なので最初にあたしとエスティレイドさんが同じものを見て、相互の違いを確認してから、エルネストさんと入れ替えで村の方に行くんだそうです。でないと報告の時にずれが発生して正確な調査とは言えなくなっちゃうからね、と言われて、ついでで聞いてたサーシャちゃん共々、納得した。


「そういう調査の時の基準決めとかも割とちゃんとしてんなあ……」

 サーシャちゃんが感心している。彼女も魔力視に近い何かのスキルを持っているようだけど、今回は野次馬オンリー!と爽やかに宣言していた。

 なお、実際に三人で魔力視で見えるものを鶏たちで確認したら、見え方はともかく、あたしの語彙力が割と悪い意味でヤバいことが発覚してしまった……


「ねーちゃんの語彙はなんていうか……擬音が少ないのに翻訳システムが困るやつだね……」

 野次馬とか言いながらもあたしの表現の解釈を手伝ってくれたサーシャちゃんによれば、知識が偏っているのと、科学現象系の単語の固有名詞の多さがネックだそうだ。意識してなかったけど、あたしの世界の用語って人名絡みがとにかく多いのだそうだ。

 まあ科学事象関連はうちの世界でも発見者の名前が付きがちだったから、そこはしょうがないけどさあ、とサーシャちゃんは諦め顔だ。

 というか、調査という側面を意識しすぎて、科学事象で説明しようと意識しちゃっていたあたしのミスですハイ!

 あとそういえば、あたし、魔力自体は見えるけど、量を測れないんだった、というのを思い出す。まあそれはシエラにやって貰えばいいような気はするんだけど……


《……むしろ貴方が見たものを私が表現して、それを話して貰う方が無難な気がしますね?》

 そういえば、その手がありますね……

 その後の擦り合わせはまあなんとかなった。言い換えに思いのほか時間が掛かるのに焦って、ちょいちょい覚束ない感じの言い方をしてしまって、ちょっと周囲に心配されたけど、多分、大丈夫のはず……


 じゃあ早速、と、ミントグリーンのボディに新緑色のメタリックな鬣と翼の細長い龍に変じて、エスティレイドさんが飛んでいく。事前に遠話で連絡をしてあったようで、推定できる所要時間の半分ほどで、今度はこれも細い体形だけど紫色のこれもメタリックな龍が飛んできた。

 化身を解いた姿は、紫色の金属系の光沢のある短い髪をツンツンに立てた、これまたド派手なお兄さんに。はい、これがエルネストさんですね。


「また派手だなあ……龍の王子様ってみんなこんなの?」

 サーシャちゃんはまだあまり彼らに会ってないので、ややびっくり顔だ。


「こんな、が、どの部分に掛るかにもよるな!髪の光沢加減はまあ皆似たようなもんだと思うが、流石に髪の毛全部立ててんのはオレだけだね!」

 うん、正直にいうと、インテリ風のエスティレイドさんと比較的静かな雰囲気のエンブロイズさんの同腹兄弟だってのが、いまいち信じられない程度に、性格とか雰囲気が違う。いやまあ彼らにしたところで、ごはんの時には揃って野生化するんだけども。

 ちなみに全部、と指定があるのは、少なくとも、ファガットルースさんが前髪だけ立ててるからですね。流石に王族全員はあたしもまだ把握してないよ!


「強いて言えば、一番地味に見えるのはマグナス伯父上ではなかろうかね、魔力の黒だから、強く反射しない感じだろう、カーラ嬢もややそういう傾向があるが」

 イードさんが少し考えてから、そんなことを言う。まあ確かに、色合いという意味ではそうね。

 ただ、あの方は体格と顔立ちで、違う意味で滅茶苦茶目立つけど。


「地味?マグナス伯父上が地味?どこが?」

 案の定エルネストさんが首を傾げた。気持ちは判らなくもないけど、その話はもういいから仕事しよう仕事!



 鶏二羽をためつすがめつ。ついでに城塞の生き物たちもあれこれ確認して回る。

 丁度都合よく、賢い狼ズも来ていたので、彼らもチェック。まあ実際に魔力を測ってくれてるのはシエラだけどね!


「思ったより皆の魔力にばらつきがありますね……ってそうか、スタンピードの時に結構雑に治癒ばら撒いたわね、あたし。じゃあとりあえず皆さん、あたしの治癒魔法を受けたことある子は西に、ない子は東に別れてー!」

 意思疎通スキルを意識しながら話すと、だいたい通じるので、ほんとスキル様様ですわ。

 案の定、同族より魔力が高い子が西に偏る。ミモザも当然西側だ。ただ、東側にもそれなりに魔力の高さの合わない子がいる。

 聞いてみたら、他の聖獣さんやサクシュカさんに治癒を貰ったことがある子だった。それと、ジャッキーからもね。

 そしてそのジャッキーは、二つの集団の間、その真ん中にいる。なんでよ?


【治癒じゃなく、護法の場合は どっち?】

 ぴこ、と片耳を下げて首を傾げてそう尋ねるジャッキー。あーそういえば、そんなこともありましたね!


「というか君は他に同族がいないから、比較対象がいなくないかしら」

 そう返事をしたら、あ、と一言言ってあたしの足元に移動してきました。可愛い奴め。


(そーいやそうだよね、アルミラージの皆とは元々魔力量違うっぽいしね、おれ)

 そう言うと、ジャッキーはあたしの横にちょこんと座った。


 取りあえず、回復系の魔法をかけた場合に魔力の蓄積が発生していると仮定して、試しに東側の集団の、特に健康状態に問題のない子に、〈治癒〉を掛けてみたけれど、何も起こらない。

 じゃあ護法はどうか、と、〈瘴気抵抗強化〉を掛けてみたら、ちょびっとだけ魔力が増えたのが観測された。これは何か?効果がスルーされると蓄積も発生しないということ?

 そのまま観測して貰ったら、護法の効果終了と共に増えた分も消えちゃったけど。


「もしかして、治癒系統で身体的に補修を受けると効果が固定化される?」

 そういや、魔力って何処に溜まるんだろうね……と思いつつ、一旦そう結論付ける。怪我してる子が居ないから、これ以上〈治癒〉の方の試験が出来ません。わざわざ傷をつけて貰って、なんてのは、あたしのポリシーに反するし、研究員さん達も提案しないのでなしです!


 魔法側の効果を一応とはいえ確認したので、今度は彼らの食料の調査だ。

 ここの動物、幻獣たちの食事は、基本的に自分でなんとかするスタイルだ。アルミラージなんかの草食勢は裏庭や近隣の雑草食べてたりするし、肉食系だと基本的に城塞近くの安全な森――通称がこの『安全な森』だ――で、狩りをしている。

 この安全な森というのは、境界線の城壁より内側にあるけれど、基本的に人間は立ち入り禁止の、幻獣たちの為の森だ。自然災害や魔物の襲撃で荒れた時だけ人間が手伝って手を入れている場所ね。グリフィンのハイウィンさん達の本来の塒もこの森の西の端にある山の上だ。まあハイウィンさん達は魔の森でも狩りをするらしいけどね。超級聖獣つよい。

 なので、変化があった以上は、原因があるのは、草か、それが生えている地面だよね、と言う話になる。鶏たちに聞いても、賢い狼ズに聞いても、ここいらのごはんはちょっとちがうね、という返事が来ることであるし。他所より美味しい、とも言っていた。


 対する例の村の方はというと、これも環境としては似た感じだ。あのキャンプ場は、例の村にも続いているごく普通の森の、但し村からは離れた場所で営業している。

 距離が空いているのは、放牧地に他所の人が入り込む事故を防ぐためだそうだ。そうね、牛とか脅かして踏まれたら、洒落にならないもんね。

 この間の発端になった魔物騒動の時も、重傷だったのはびっくりして逃げだした牛に踏まれて骨折した人たちだったからね。


 そういえば、人間には治癒魔法をかけても魔力の変化は起こらないわよねえ?

 という事は、単純に食べ物だけの話でもないのだろうか?いや、人間は元々それなりに魔力があるから、そこまで影響されないとか?

 ううん、判らん……

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