第175話 寄り道は王都観光!
レメレのフェアネスシュリーク様の御宅に一泊した翌朝。
速攻で港の朝市に繰り出してお魚購入に走る異世界三人組とランディさん。
あたしも新鮮なお魚には興味があるのでちょっと付き合うよ!
「なるほど、確かにガッケージより種類が純粋に多いな、それに鮮度もいい」
サーシャちゃんが目利きらしく、主に彼女が選んで、残り二人が購入したものを分担して収納している。
「あー、君ら異世界人かー、収納ができて時間も止められるっていいよなあ」
そういう買い方する人はだいたいそれができる人だから、挙動で判るよね、と鮮魚市場の親父さん。まあそうよね。あたしは収納自体がないから、ランディさんや三人組の買い物を基本見てるだけだけど。
「そういやカーラねーちゃんはこの手の収納は持ってねえの?」
サーシャちゃんの素朴な疑問。
「実はないのよ、空間適性自体がないらしくて。元の世界には魔法なんてなかったし、ゲームやってた時にこの世界に来たわけでもなかったしねえ」
召喚されたのがゲーム中なら、もうちょっと何かが違ったろうか?いやでもあたし最近VRはゲームじゃなくてほぼ読書と調べものにしか使ってなかったから、それは、ないな。
「異世界人って全員格納付いてるもんだと思ってたけど、違うんだね……」
こちらはこれまた朝市に魚を仕入れにきた、というか店の漁師さん勢とダベりにきたフェアネスシュリーク様。常連なので観光客が入って来れない店も案内してくれるんですよ、サーシャちゃんが大変ありがたがっていた。
「知っている限りだと、格納魔法を取得すらできない、なんてのは彼女含めて二人くらいだったと思うぞ。激レアだね、不便だろうけど」
ランディさんが酷い数字を上げる。なんすかそれ、つまりあたしが史上二例目?
後で聞いたら一例目は、例の異世界人唯一の、そして初代の聖女様でした。そんなとこだけ共通しなくたっていいじゃないの!!
お買い物が一段落したら、子供たちと合流して朝ごはんをのんびり屋台で済ませ(フェアネスシュリーク様も当然のように混ざった)、今度はまた乗合馬車の旅だ。
帰りは船便の時間に合わせるみたいな必要ももうないので、夜行は使わず、子供が増えたから、二泊する予定……だったのだけど、出発直前にフェアネスシュリーク様の所に、連絡鳥が届きました。あれ?神殿?どこの?
「あれ、これカーラ嬢宛ですね。ああ、王都に先に寄ってくれ、だそうですよ。ヘッセンからお客さんがいらしてて、待っておられるらしい」
例によって連絡鳥がビビるので、代わりに受け取ってくれたフェアネスシュリーク様がそう教えてくれる。どうやら鳥さんはヘッセンの神殿所属の子だったようです。
おやあ?あちらで何かあったかしら。まあ帰宅予定が微妙に不定だったあたしをのんびり待ってるなら、急ぎの用事ではないようだけど……連絡鳥を使うという事は、神殿関係者、聖女様周りだろうから……マリーアンジュさん辺り、だろうか?聖女様本人のセンはないし、流石にアデライード様は正規所属じゃないから、連絡鳥までは契約してなさそうだしなあ。
「じゃあ先に王都観光してしまおうか。今までの街とは趣が違って楽しいよ」
ランディさんがにこやかにそう宣言したので、全員で王都に向かうことになりました。
まあ子供たちがあまり騒いだり走り回ったりするタイプじゃないので、そこまで苦労はしていないけど、大人数ツアーの引率係化してるランディさん、楽しそうだな?
なお、人族と獣人の混ざった家族構成はハルマナート国だと珍しくもなんともないんだけど、流石にそこにエルフの子供が四人も混ざると、地味に人目を惹くらしい。いや今回は特に家族っぽい偽装とかしてないですけどね。本当の家族になる予定の人たちは含んでるけれど。
とはいえ、皆にっこにこで観光客してるので、大体の人は暫く見ただけで、ふーん、と興味を失うか、つられたように、にこにこ顔になって去っていくか、どっちかだ。
たまにあれなにーへんなしゅうだんーとか子供が指さして叱られてるけど。
言われる程、何か変なところがあるかしら、と思ったけど、そういや大人エルフがいない集団でしたね。そればかりは、しょうがない。大人のエルフには結局とんと遭遇しなかったのだし。
ハルマナート国の都は、王都ハリファ、という名称だ。どうも初代の女王様の親の名前を取ったのだという話だけど、真偽は定かでないそうな。
この世界に現存する”王都”としては、最も新しい部類に入る。国ができたの自体も一番最後だもんね。ただ、国ができるより古くからあった街だそうなので、歴史自体は充分に古い。
それでも一番新しい王都の座は揺るがないそうだけどね。まあ最初は荒野だったらしいからね、しょうがないね。
一番新しいという事は、各国から学んで、いい所を最初から計画的に取り入れる事ができるということだ。
初期の都市部、所謂旧市街は城壁に囲まれていた名残だけが、遺跡的に残された門や、王城から伸びている部分の一部だけが残された城壁に残っている。新市街部分に、区切りとしての城壁、市壁の類は存在しない。それだけ国内が安全で安定しているというのが一つと、空飛ぶ龍の王族が守るこの地で、わざわざ壁を作る意味とは?となったのが一つ、らしいけれど。
質実剛健な、どっしりした王城と国の行政施設、それに比して繊細な美しさのある王立魔術学校、通称王立学院が丘の上にあり、その下に開拓初期から存在するという旧市街。旧市街と新市街の間には、川が流れていて、渡し場もあれば、大きな橋もいくつかかかっている。都市側の行政施設や司法施設は新市街側だ。兵舎と軍学校はさらにその郊外に纏めて存在している。旧市街も新市街も、基本的に道路は碁盤の目のように整備された構造になっている。舗装が綺麗で、馬車が走っても全然揺れないんだよね、この国の主要道路って。
「わーでっかい街だー!」
「人がいっぱーい、あ、ふくやさん、きれい!」
「ほんとにひとぞくとじゅうじんが、みんないっしょにいるねえ」
「わんこのひとだーかわいーい」
「あ、エルフのひといるーおとなだー」
子供たちは初めて見る王都クラスの大きな街で、すっかりはしゃいでいる。
ただ、大山猫の獣人のキャトレちゃんだけは、びくびくした様子で、フレオネールさんにべったり張り付いている。
「キャット、どしたん?」
兎の子、コルケラ君がその様子に気付いて首を傾げている。
「ここ、こわいひと、いない?」
ああ、そういえばキャトレちゃんは、明確に虐待を受けた跡があったな、身体の傷は全部魔法で治して消しちゃったけど、心はまだ、治せてはいないんだ。
「いないわよ、ご先祖様達がいっぱい頑張ったからね」
フレオネールさんがそう言って、キャトレちゃんの頭を撫でている。ようやっと、ちょっとほっとした顔になるキャトレちゃん。
子供たちは皆、レメレでお買い物をして、ハルマナート国風の服装に着替えている。ええ、山がち、かつやや北方寄りのマッサイト式のお洋服だと、ちょっと暑くてですね!もうすっかり夏だし!
はい、あたしたちも夏物に着替えております。滅茶苦茶暑いとか湿気が酷い、というほどではないけど、他所より暑いし、どうしても汗をかくから着替えの分の出費ががが。
「じゃあ、後お願いしますねー、合流できるようだったらサイ君飛ばしますので」
あたしは王城にお伺いしないといけないけど、他の皆にその予定はないので、ランディさんとフレオネールさんに全部おまかせだ。ちなみにお迎えの馬車とかないよ!基本王城の出入りは徒歩かたまにハイウィンさんに乗っかってだよ!
……そういやあたし、ここの王城、顔パスなんだよなあ……よく考えたら大胆な話というか、端折って話すと誤解されそうな奴だなこれ。
まあ多分フレオネールさんも顔パス組なんだと思う。ええ、ここの王城、顔パスの基準が緩いんだわ。強さには自信があります?
まあ王城に到着したら、女王様への挨拶もそこそこに、サクシュカさんとマルロー殿下に隣の魔術学校に拉致られたんですけどね!!なお待ち人だったマリーアンジュさんもそっちにいたというオチが!正に〈回復〉の使い勝手を確認しに来たんだそうで、見事にサクシュカさんに丸め込まれてました!!
ごめん今日は帰れないー、とサイ君に伝言をお願いして、大人しく〈回復〉のブラッシュアップ案の検討に入るあたしであります。ちなみにカラドリウスのサリム先生も拉致られてた。ナカーマ。
寝る前にサイ君を呼び戻して観光組の様子だけ聞いたら、美術館とかもあったとかで、観光としては大成功だったようだ。よかったねえ。
ううん、羨ましいとか、思ってないよ?ホントだよ?
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