エリー ヴェルヴェット公爵令嬢の絶望
エリーが学園に入学した日。
今思えばこの日からエリーの絶望が始まった。
エリーと第一王子は学園を当たり前のように同一首席で入学をした。互いに満点だった為だ。
入学式での新入生代表は第一王子であった。
この頃の第一王子は自分と並ぶ優秀なエリーにとても満足そうだったという。
エリーと第一王子の関係が変わってきたのは、学園に入学して半年程経った頃だ。
その原因となる令嬢の名前は リィルニー フラワー男爵令嬢。
元々平民だったリィルニー男爵令嬢は、教会での奉仕活動中に聖なる力を発現させた聖女様だ。
一年間の礼儀作法や教育がやっと終え、ギリギリではあるが学園に入学することができたという。
聖女リィルニーはその大きな瞳をキラキラさせて誉めてくるが
エリーは微笑みながら見ているだけ。
聖女リィルニーはその大きな瞳に涙の膜を張り、慣れない勉強も必死に頑張っているが
エリーは微笑みながら淡々とこなしてゆく。
聖女リィルニーは慣れない礼儀作法をその小さな体で必死に身につけようと努力をしているが
エリーは生まれ持った高貴さ故か何処から見ても完璧である。
聖女リィルニーはドレスを着ていたとしても困ったモノが居れば木に登り手を差し伸べるが
エリーは近くにいる使用人に伝える。
聖女リィルニーが素朴な味のするクッキーを作り皆に笑顔を届けるが
エリーは料理人が作ったモノ以外はあまり口にしない方がいいと言う。
皆はいつしか表情豊かで努力家のリィルニーから目が離せなくなった。
リィルニーが努力すればする程エリーの評価が緩やかに落ちてゆく。
それはなぜか?
今必死に努力しているリィルニーと今結果がでて完璧なエリー。
気軽に交流しやすいリィルニーと気軽に交流ができないエリー。
表情豊かで裏表のないリィルニーといつも微笑んでいて裏表のわからないエリー。
人は皆、見える努力は評価するが見えない努力や既に完成されたものに対しては時に辛辣な評価をする。
学園に入学する年齢の貴族の令息や令嬢達は悪気なくリィルニーとエリーを比較した。
大人が関与しない学園にて、それを個々に咎めるものや思考を正す者は居ないのでそういった行為が止まることはなかった。
エリーが気づいた頃には第一王子の瞳にはリィルニーしか映っていなかった。
更に半年が経った頃にエリー達は第二学年に進級した。
第一学年の時の成績順に第二学年からは高位貴族も低位貴族も混ぜた、完全学力順にクラス分けがされることになった。
エリーと第一王子は勿論同じクラスだったし、第一王子の側付き達も皆同じクラスだった。
第一王子、神殿長息子、騎士団長息子、魔法士団長息子、そして宰相の娘エリーが集まる中に…聖女リィルニーも居た。
リィルニーとエリーは第一学年の頃はクラスが違ったのだが、第二学年では同じクラスになった。
たったそれだけの事が、エリーの将来に多大なる影響を与えるなんて誰もが思っていなかった。
同じクラスになったことでエリーとリィルニーの差が明らかにわかるようになってしまった。
エリーが完璧であればある程、リィルニーが失敗すればする程、周りの皆は強く感じてしまうことになる。
エリーの可愛げの無さとリィルニーの可愛さを。
第一王子とリィルニーが一緒に行動をするようになっていた。
それをエリーが嗜めた。
第一王子とリィルニーが一緒に食事へ行った。
それをエリーが嗜めた。
第一王子がリィルニーと二人で図書室で勉強をしていた。
それをエリーが嗜めた。
第一王子がリィルニーから手作りの食べ物を貰い口に入れようとした。
それをエリーは嗜めた。
リィルニーが目の前で躓いた。
それを見たエリーが声をかけると、リィルニーは大きな瞳に涙の幕を貼りながら叫んだ。
『すみません!身分を弁えないで王子様に近づいてしまい…本当に申し訳ありません!』
意味もわからないままにエリーがリィルニーを見ていると、第一王子が二人に近づきこう言った。
『リィル。このような性悪女に近づいたら危ないよと言っただろう?ほら、こっちへおいで』
その日からエリーは悪役令嬢と学園の生徒達皆に認識される事となった。
人は、自分よりも相手が優れすぎていると相手がいくら努力していようが嫉妬心を抱かせる。
自分のことを考えて言ってくれている言葉も、相手が完璧であればある程に劣等感を抱かせる。
学園に入学した王子と側近達はエリーと毎日接するうちにエリーが疎ましくなったのだ。
第一王子達は皆『かつてのエリーも琥珀色の瞳に涙を浮かべながら努力した頃があった』そんな事も忘れてしまったのだ。
この日から エリー の琥珀色の綺麗な瞳は 酷く、濁った、色を、 しだ し た。
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