12 離宮の競売場


 しばらくすると階段の音がして、先ほどの護衛騎士達が商人らしき男をふたり連れて牢の前に来た。

「5人ですか」

「そうだ」

 オレ以外にも売られる奴がいるらしい。騎士が奥の牢から4人を連れて来た。見ると2人は知り合いだった。一緒に食事をしたレスリーとローランだ。こいつら真面目だったのに、どういう選択なんだろう。

 向こうもびっくりして、少し暴れて騎士に殴られている。ひでえな。


 オレ達は手枷に鎖を繋がれて、ぞろぞろと裏口から神殿を出て、待ち構えている荷馬車に乗せられた。商人は護衛をたくさん連れて来ていて、神殿の騎士と入れ替わって馬車が出発する。


 馬車は王都に向かった。レスリーが不安そうな顔をする。指で床に『売られる』と書くと顔を顰めた。泣きそうな顔をする奴もいる。オレも泣きたい。


 逃げる前に取っ捕まるとか。間が悪いのか? それとも時系列系に弱いのかな。


 馬車は王都の広場を右に曲がると、どんどん郊外に向かう。やがて、王都パルトネの城門を抜け出たようだ。

 王都を出た馬車は、森を抜け整備された道をひた走る。陽の傾く頃に、王宮みたいな華美な建物に着いた。何処だここは。

《エール河畔離宮、ヴィラーニ王家所有の離宮、劇場併設。競売、闘技場、遊興に使用。エール川河畔》

 王家所有の離宮とか、こんな所で奴隷の競売をするのか。王家もグルなのか。


 建物を回り込んで馬車は裏門から中に入った。離宮の裏口のような所で馬車から降ろされて、中に入ると地下に下りる階段がある。

 階段を下りると広い部屋があった。中にはオレたちと同じように手枷口枷をした10歳から20歳くらいの子供たちが集められていた。


「よし、始めるか」

 オレ達が到着すると、そこに居た護衛と商人たちが無造作にオレ達を選り分けて行く。オレとレスリーはローランと別れて、違う部屋に連れて行かれた。


 レスリーが青い顔をしてオレにくっ付いた。こっちは先ほどの部屋よりきれい目の子供が多い。まさか、奴隷は奴隷でも性奴隷……。

 オレがこっちに入るとか、異世界の奴らは見る目が無いらしい。



 オレの不安はすぐに現実になった。

 手枷を外され服を脱がされて床に俯せに転がされる。

「おい、押さえていろよ。いいお尻をしているじゃねえか」

 裸の尻を撫でられて寒気がした。男の尻を撫でるとか止めろ!

「うっうっ!」

 押さえ付けられて、お尻の中に座薬のような物を入れられた。痔の薬じゃないんだろうな。

「うっうっうっ!」

(何をするんだ!このヤロウ!)

「暴れると痛い目に会うぞ、酷い所に行きたくないだろう?」

「むっ!」

(酷いとこって何処だよ!?)

「兄い」

「何だ」

「こいつ買えないかな」

「そっちは神官だからダメだ」

「何でだよ。こいつ、この瞳でキャンキャン睨みつけて来るんだぜ」

(ひとを犬みたいに!)

「神官は多少痛めつけても回復できるから高く売れるんだ」

(な、な、なっ、多少痛めつけてもって何だよ……。オレの飛行練習みたいなこと言ってるんじゃないぞ!)

「あ、涙目になってやがる。可愛いー」

「構ってねえで、サッサと次行け!」

「へいへい」

(くっそー!)

 こんな事なら司教の部屋で暴れればよかったけど、すぐ処刑されるだろうし、その前にあのハルバードで殴られて死ぬか。

 奴隷になって逃げ出せるだろうか。隷属の首輪とかあったら終わりだな。


「手のかかるお嬢ちゃんだな」

 そう言いながら男たちは嬉しそうに、後ろに大きく穴の開いたフリルの付いた水着のような変な衣装を着せてくれる。また両手に手枷を嵌められ、長い鉄の棒が付いている台座に乗せられ、両手を上げて固定された。



 会場の騒めきが楽屋裏まで聞こえる。客は大入りのようだ。熱気のようなものが楽屋にいるオレ達の所まで届く。


 カンカンカン!と鐘が鳴り響いて、オークションが始まった。

「わーーー!」

 見ている奴らも酒が入っているのか歓声がすごい。

 どこから集められたのか、奴隷候補も多い。買い手がないと最後に皆に安値で慰み物になるらしい。オレは見てくれが悪いからソレだろうか。


 先に他の場所から連れて来られた奴らが次々と舞台に引き出されて、競りにかけられ、神殿組のオレ達は最後に回された。

 レスリーと顔を見合わせて涙目になる。薬が効いてきたのか頬が熱くて身体が熱を持って膝をこすり合わせる。

 口枷のせいか祈れない。魔法が使えない。辛い。無詠唱魔法の練習をしとくんだった。今の状態だと心が乱れて難しいかもしれないが。


 オレの番が来て、台座ごと舞台に引っ張り出された。

 大勢の飢えた男たちの前に、変な衣装を着たオレが晒される。恥ずかしい。


「さあーー、お次は、神殿の神官見習いですー。珍しい黒髪ですー、瞳の色は紫だー、さあどうだ!」

「よし!大金貨100枚で買おう」

 太った魔獣みたいな奴が名乗りを上げた。イヤだ。全力で拒否したい。

「うっうっ!」

「よし、俺が買う!大金貨120枚」

 浅黒い肌の見るからに残虐そうな男が名乗りを上げる。もうイヤだ。こんな奴ばっかりか。

 他にも前2人の男と大して変わり映えのしない2、3人が手を上げて競りになった。

 カンカンカン!

 ああ、売れてしまった。屈辱だ。

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