第18話

「次の授業、サボりたい」

「なん? どうしてん?」

「シスター(教頭)に嫌われてる」

「宗教教育か、何かあったん?」

 泉は去年、クラスの奴らと学校内で二十四時間耐久かくれんぼ大会をして、チャペルに隠れたら丁度良い箱があって、中に隠れてたら寝てしまったらしい。

「シスター(教頭)に見つかって、烈火の如く怒られた」

「かくれんぼやなくて、遺骸ごっこしとれば、そうなるやん」

「俺の事、博愛の対象から外すって」

「それはそうや。それだけの事をしたんや」

 その箱は、真の神、イエス・キリストの遺骸を納めた棺。日本でいう棺桶だと教えてやった。

 かくれんぼやなくて、死体ごっこしとったんやと。

「シスターの多くは、イエス様と結婚してるって言って、独身を貫く方が多いんや」

「イエス様と結婚?」

「独身を貫いてでも、自分の夫と認めた、イエス様の教えを広く伝えようとしているんやな」

「……悪い事しちゃった」

「次から気を付ければええ」

 高等科からの編入になる泉に、宗教教育に抵抗を持っていないか聞いてみた。

「宗教って聞くと、怖いイメージあるやろ?」

「うん」

「海外ではな、自分の思想を表明する為に、自らすすんで宗教に入信する人もいるんや」

「どういう事?」

 日本には、思想の自由というものがある。人間、誰でも、心の中ではどんな事を考えていてもよいとする事であり、それを口に出してよいとするのが表現の自由という説明をした。

「まず、思想というのは、こころの中で思っている事だから相手には分からんよな?」

「うん」

「だから、自分と同じ思想を持つ宗教に入信する。それが自分の思想を表明する手段になるっていう事や。私は、このような思想を持っています! と皆に表現する。その人自身の決意表明みたいな感じやな」

 学校の宗教教育は無理に勧誘したり、洗脳する為にあるのと違う。キリスト教にスポットを当てて、こういう思想の人もいますよ、っていう事を選択肢の一つとして教えている科目だ。

「だから、無理に聞く必要もない。だけど、熱心に聞いている人を否定してはいけない。それだけ、分かって欲しい」

「……わかった」

 泉は暫く逡巡した後に、口を開いた。

「先生! 俺、森谷教をつくりたい!」

「はあ?」

「森谷先生って人が、この世にいますよ、っていう事を広く伝えたい。俺にとって森谷先生は神様みたいな存在だから」

 何を言い出すのかと思えば、と思っていた矢先。

「それで、森谷先生と結婚したい!」

 ……はあ? 何言ってるん?

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