地獄で働くことになりました。
露傘
#0
「
淡々と語られる事実。
確かに背中には大きな力で押された感覚が残っている。
そして、気が付いたころには目の前に車があった。
そのあと目をぎゅっと閉じたことまでは覚えている。
目を開けたら真っ暗の空間にスポットライトが当たった、どことなく懐かしさを感じるような、そんな空間にいた。
って、待ってよ。私、死んだの?
「はい。即死だそうです。残念ながら、犯人をお伝えすることはできません。」
特別問いかけたわけじゃないのに割とすぐに返ってきた答え。そういえば声だけ聞こえて、この空間には私一人。この声は一体どこから聞こえてくるのか。
「私たち導き人は皆様にその姿を見せることはございません。音声のみで皆様のこれからの生活をご案内いたしております。尚、あなたの思っていることはくみ取れますので、声に出しても出さなくても構いません。」
それなら納得。
心の声が聞こえるタイプの、目に見えない人と話しているんだ。私は。
いや、つっこみどころありすぎじゃない⁉
これがアニメとかでよく見る、いわゆる「死後の世界」ってやつなのか。
それにしてもアニメのまますぎる。世の中の異世界系アニメ作者は一回ここに来たことがあるのか。
「そんなことはございません。」
「っすよねー。」
「紗々谷明華様。あなたには人生をやり直す権利があります。」
「本当に、死んじゃったんだ。」
「はい。残念ながら。」
死んだ。それが現実に起こったことであると、ようやく頭が理解を始めた。
新卒で、希望した出版社に就職を決め、社会人デビューしてからまだ二年目。
もうすぐ三年目に突入するこんな時期。
ようやく楽しみ方を覚えたこの職場でまだまだ社会人楽しみたかったのに。
どっかの誰かに勝手に幕を下ろされた。
遅れてやってきた怒りに怒鳴りそうになる私を、導き人だと名乗ったその声が優しく止める。
「本当に今回はお気の毒でした。代わりにというのも少し変ですが、あなたには選ぶ権利があります。」
一息おいて、声は私にこう言った。
「多少の条件はございますがその体と記憶はそのままに、異世界転生をするか、地獄で職員として働くか、はたまた記憶も体もリセットして現実世界に生まれなおすか。もちろん、気のすむまで天国でのんびり生活するということもできます。しかしこちらはあまりお勧めしません。」
と。
これではまるでファンタジーだ。
「ごめんなさい。あまり理解できなくて。」
「簡単に言うと、あなたのような若くて、生きる意欲のある方に案内しております死後の人生プランがあるということです。」
そういわれたって理解が追い付かない。
とりあえず、私には選択肢が4個あって自由に選べる特典がついてきた、ということ。
これはしっかり考えて選ばないと、後悔することになってしまいそうだ。
「天国はなんでお勧めできないの?」
「天国にいる方は寿命を迎えてお亡くなりになり、健康な体でのんびりと自由気ままな生活を送るお年寄りばかり。あなたのような若者には少し合わないと思います。」
なるほど。
ということは選択肢は三つ。
「異世界に行くってことは、もしかして、、」
「その通りです。魔王軍を倒すために戦っていただくことが条件です。最近は戦いたくないとの声が多く、正直なことを言いますと人手不足となっています。異世界に転生する際には強い能力を与えることを約束します。」
いくら強い力を得たって、戦うのは怖いし、嫌だ。誰が好き好んで命を懸けた旅に出るのか。
「ごめんなさい。戦うのは嫌です。」
「わかりました。」
これで二択。
かといって現実世界に生まれなおすのも面白くない。
となると、選択肢は一つだけ。
「地獄職員について、聞かせてくれる?」
「わかりました。実は異世界転生よりもこちらの方が人手不足でありまして、、。」
聞いた話を簡単にまとめると、地獄職員とはこういうもの。
・地獄へ落ちてきた者の管理をする仕事。
・職種は様々あるため、具体的な仕事内容は言えない。
・自分が地獄を体験することはほぼなく、希望すれば住民の刑執行に立ち会わない職場に配属可能。
・4月1日が新人地獄職員の仕事始めとなっているため、3月の間しか募集していない。
・一度就職したら五年間の勤務が義務である。そのあとは一年単位で続けるか、退職して生まれ変わるか選択可能。
「という感じになっております。秘密情報のため、ここで説明できないことが多いうえに地獄に勤務なんて嫌だと言われやすく、人気がないですがいい職場です。行って後悔したという方は今まで一人もおりませんでした。」
条件だけ聞くと微妙な感じ。
五年間の勤務が義務ということは、もし自分に合わないと感じても五年間は居続けなければいけないということ。
もしそうなってしまえばそれこそ地獄だ。
人手不足というのも頷ける。
ただ、地獄に勤務という強すぎる言葉がどうも私にとっては魅力的で。
異世界に転生して冒険者やるよりも、現実世界に生まれなおすよりも、天国へ行くよりもずっと興味があった。
「どうなさいますか?」
「決めた。私、地獄職員になる。」
「行先は地獄職員ということででよろしいですか。」
「はい。よろしくお願いします。」
「わかりました。それではこれから到着します電車に乗車してください。そのあとのことは現地の職員が説明してくれますので。」
「電車…?」
「大丈夫ですよ。地獄に近づいていくにつれてちょっとずつ暗くなっていくだけですので。」
「は、はあ。」
「では、頑張ってくださいね!応援しています!」
急に辺りが明るくなった。
目の前に駅ができて、電車が止まった。
これに乗れば地獄に行くというのは感覚的にわかる。
「地獄は終点にあるので終点まで乗ってください。では、行ってらっしゃい!」
「行ってきます!」
声と同時に電車が発車した。
行先は、地獄。
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