ラブコメディ破壊同盟。
首領・アリマジュタローネ
開幕クライマックス。
「ねーねー、徹平くん。今日は君に折り入ってお願いがあるのだよ」
午後18時。ファミリーレストラン「デンキ」。
俺が到着するなり「よっ」と手をあげ、スマホをテーブルの上で裏返した。
「お願いって?」
「まぁまぁ、その前に何食べる? 私、モンブラン食べたいなぁ〜。あ、知ってる? 今話題のムッシュマニエルのバニラケーキ。あれめちゃ美味しいらしいよ」
「金がなくて呼び出したのか? 奢らねえぞ」
「ちがうよっ! ……ちぇっ」
暖房の効いた部屋でダウンを脱ぐ。雪柳がテーブルの上で「……ケチ」と両手を伸ばしている。
邪魔だ邪魔。メニューが読めん。ええい、よこせい!
「ドリンクバー追加とからポテで」
「からポテはマスタードのマヨネーズでおねがいしまあす!」
ここは俺たちの溜まり場だ。雪柳とここに来るときの定番メニューは「ドリンクバー」と「からポテ」だった。彼女はマスタードタイプのマヨネーズが気に入っているのか、よくそれを注文している。
「ほい」
「ありがとっ」
「それで、話って?」
持ってきたカルピスをストローでちゅーちゅー吸っている。俺はコーラを飲みながら、壁際に背中をつけながら、肘をつく。
まあ大体の想像はつく。
「えっと、また
「はぁ……」
「もうそんなめんどうくさそうな顔しないでっ! 今度は本気のやつなんだからさ──」
呆れつつも、ここまで来たことを了承した時点でそんな話をされることはなんとなく理解していた。
ユズル先輩。雪柳の想い人だ。2個上の先輩で、高校三年生。高身長、イケメン、生徒会長、勉強もできて、運動神経も抜群。学園のプリンスと言っていいほどの王子様だ。サッカー部の部長をしていたこともある。
雪柳はそんな先輩に一目惚れしたらしくて、何かあれば「あ〜目の保養」とか「一回、抱かれたい……」とか呟いている。その癖、なんの行動もせずに「高望みかなぁ」「モテるだろうなぁ」と落ち込んで、それを幼なじみ兼クラスメイトである俺に相談してくる。
やれやれだ……。
「ユズル先輩ってモテるよね?」
「モテモテだ。お前の想像の100倍はモテている」
「……うっ。で、でも、彼女がいたとか浮いた話は出てきてないよねっ……!?」
「出てきてはないが、噂はたくさん聞くぞ。モデルの彼女が地元にいたり、実は有名女優とバレないように付き合っていたり、それを隠すためにわざと恋愛に興味がないアピールをしてるとか」
「……いやいや、あくまで噂だしっ」
「火のないところに煙は立たず。最近では同性愛疑惑まで出てきてて、一部のBL女子からは人気が急騰気味だとかなんとか」
「うそだよっ! 私は信じないからねっ!」
ぷくっとほっぺを膨らませているが、夢を見過ぎなのである。あの手のイケメンに彼女がいないわけがない。
「雪柳。何度も言ってるが、あの人は【ハーレム主人公】ってやつなんだ。少女漫画でいうところ、学園のプリンス。百鬼夜行みたいに女子たちを連れて歩いているのを、廊下で何度も見かけたろ? 憧れだけで終わらせろってんだ。《
「ぐぅう……ううっ……」
言い終えてからコーラを飲んだ。
コーラは今日もうまい。
「……でも、好きなもんは好きだもん。しょうがないじゃん」
「……」
雪柳がまたテーブルの上に両手を伸ばした。
こいつがさっき裏返したスマホのホーム画面には憧れの「ユズル先輩」が設定されている。
昔から好きだったのも知っている。何度も何度も相談を受けたから、本気だってこともわかっている。
でも夢は叶わない。高望みしすぎなんだ。
「ラブコメディかぁ……」
「ラブコメディだ」
「確かに色々と聞いたよ……。ユズル先輩が一年生の頃、曲がり角でぶつかったパンを咥えたツインテールの女の子がいて、その子が同じクラスになったんだよね。で、最初は犬猿の仲だったけど、委員会活動やら文化祭がきっかけて、少しずつ距離を深めて、キャンプファイヤーの日には二人でダンスを踊ったって……話も聞いたことある」
「【四天女】の一人であるツンデレ爆乳委員長の──
「爆乳って……。勝てるわけないじゃん」
確かに雪柳は控えめである。でも発展途上だ。まだ高校一年生。将来に期待しよう。
「あとなんだっけ……。大金持ちで病弱でいきなりユズル先輩にプロポーズしてきて、それを断ったらマフィアみたいな使用人が現れて『お嬢様と結婚できないなんてどんな生意気言うてるねんコラ!』って、学園で銃を連発したって人……」
「あー【四天女】の一人であるクーデレ無口系お嬢様──
「……なんでそれで二人は付き合ってないんだろう」
「あとは【四天女】の一人である泣き虫ロリ娘──
「……楽しまないでよっ! こっちは本気なのっ!」
雪柳がフォークを唐揚げにブッ刺した。
乱暴に口に運んでいる。
「……四天女だからなに? 普通の女の子と結ばれるのが一番良いに決まってるっ。私はユズル先輩のヒロインレースには参加してないけどさ、好きな気持ちは負けないもんっ。なんだよ、ハーレムラブコメディって。そんなの、認めないからっっ!!」
いつになく、雪柳が興奮している。
卒業式が近いのだ。彼女も焦っているのだろう。
「……それで頼みってなんだよ」
「ぱくぱく……ごくり……むしゃむしゃ……うまいっ。──それでだよ、
「変な語尾だからやだ」
「本当に本当にお願いっ! なんでもするから!」
「……本当になんでもするんだな?」
「あ、やっぱ……えっちなこと以外でっ」
恥ずかしそうに顔を赤くしている。何も俺もそこまでゲス野郎ではない。
「いいよ。何をするんだ?」
言うと、彼女はドヤ顔をした。
ふっふっふと笑いながら、右手を出してくる。
「──二人でラブコメディをぶっ壊すんだ。そして私をユズル先輩のメインヒロインにしてっ!」
しょうがねぇなぁ、と笑いながら手を握る。
呆れながらも俺は協力する。
わかっている。彼女の恋は上手くいかない。でも、俺は応援したい。大好きな彼女が必死に頑張っているのだから、彼女が喜んでくれるならなんだってする。例え、自分の恋心を押し殺してもーー。
結末は目に見えている。
神様が既に運命を決定づけてしまった。
雪柳 愛。残念だけどユズル先輩との未来はない。
それは俺たちがモブキャラだからじゃない。
この物語が──
雪柳、お前はーー俺のメインヒロインなんだよ。
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