鬱蝉

双葉紫明

第1話 抜け殻

観光地であるこの寒村。

葉を雪みたいに道路に降り積もらせた唐松。

植林されたものだ。

物静かなこの時期。

煙突からは薪ストーブに火が入った報せ。

草刈り機も、しばらくお休み。

隙を突いてやってくる死神さん。

間抜けを手招き。


天然食材に拘り、渓魚を「いかん、養殖」ぶつくさと。

下駄箱みたいな郵便受け。

お引越しの戦利品。

どうです?

キマってるでしょ?


やっぱりお米を食べて欲しいと「イカン、洋食」ぶつぶつと。

未開封の郵便物の束。 

これは支払い、見たくない。

僕を好き?

またそんな御冗談を。


市民球場ラストイヤーの野球観戦の写真。

そのへんで拾った木の枝や落葉で作った工作。

学校でもらって来て庭の隅に植えた苗木。

あまりにもたくさんの、残り物。

それらをまるで煙みたいに忘れちゃうのか?

刈っても伸びる草じゃないんだ。

隙だらけだった僕ら。

間を埋める術を、知らなかった。

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