隠れてラブコメ小説を書いている俺、なぜか自分の高校生活がラブコメになっていました(リメイク前)

霜月葵

第1話 始業式

「いってきまーす」

そう言いながら俺、水無月みなづき真人まさとは家を出る。唯一の同居人である妹は先に出かけたため、家の中から返事はない。

今日は俺の通う私立暁高校の始業式である。

いつもよりも少し早めに家を出たため瞼が重い。が、流石に歩いている途中に目を瞑るのは危ないため、なんとかこじ開けながら登校する。

ぼーっとしながら歩いていると浅江あさえ蒼汰そうたが話しかけてきた。こいつは中学校からの友人だ。

「お、真人じゃん。今日は早いな、明日は雪でも降るのか?」

「うっせ。2年初日から遅刻してたらやべーから久々に早起きしたんだよ」

「ま、確かになー。てっきり新入生で可愛い子でも探すために早く起きたのかと」

「なわけあるか。お前じゃねーんだから」

「誰が女好きだよ。………あ、あの子可愛くね?ほらあそこ」

「ほらそういうとこだぞ……まあ確かに可愛いとは思うが」



そんな感じで他愛もない話をしながら20分程度歩くと、学校の正門が見えてきた。

うちの学校は一応進学校だがかなり校則が緩く、校内でスマホを触っていても特に教師からの注意はない。流石に授業中にスマホ触ると怒られるけど。

そのため蒼汰は正門に立つ体育教師を気にすることなく俺にスマホの画面を見せてきた。

「あ、そうだ。見てくれよ、如月きさらぎ先生の新作の短編小説が投稿されたんだよ」

画面に写っているのはある小説サイト。作者は如月ツキと書いてある。

「いやー、徹夜で読んでたんだけどやっぱ最高だよな、如月先生が書く小説は!」

「そういわれても俺読んだことないんだが……」

如月ツキ。彼(彼女?)は三年前から活動している小説家で、去年漫画化とアニメ化がほぼ同時に行われ大ヒットとなった"根暗な義妹をイメチェンしたら何故か俺にベタ惚れになった(通称:いめほれ)"の作者で、現在最もアツいと言われている人だ。ちなみに性別は不明なのだが、ネットでは女性説が有力である。

こいつは見ての通り如月ツキの大ファンだ。よく小遣いとかバイト代をこの人が書く小説を買うために使っていて、今見せてきているサイトも有料だったりする。


(ま、読んだことないのは当たり前なんだけどね。俺が書いてるし)

そう、実は如月ツキとは俺のネットでの活動名である。中学の頃趣味で書いてた小説を適当にネットで投稿していたら気付けばこんなことになっていた。


「ほんともったいねぇよなぁ、お前。如月先生の小説読んだことないなんて」

「いーだろ別に。この人が普段投稿してるの有料サイトだから手が出しづらいんだよ」

というより自分の小説読むとかなんというか気が引ける。

「そんなことより新しいクラス張り出されてるぞ。ほらあそこ」

「おいそんなことってなんだよ。まあとりあえず確認するけど」

張り出されている場所にはかなりの人だかりが出来ており、喜ぶ声から叫び声まで様々な声が聞こえてくる。………うん、叫んでる奴大丈夫か?

「今年は蒼汰と同じクラスになりませんように同じクラスになりませんように...」

「おい!ひでぇな!」

「ははっ、冗談だって」

人が多い割には人の流れがスムーズで、すぐに俺らの番が回ってきた。

「えーっと……2年B組か」

「いいよなお前。出席番号早めで。………あ、俺もB組だわ」

「これで5年連続同じクラスだな!」

「そっか俺らもうそんなに一緒なのか」

蒼汰とは中学一年の頃からクラスがずっと一緒だった。恐らく教師たちも俺ら2人は常に一緒でいいと判断されているのだろう。まあこいつは話してると面白いから一緒なのはありがたい。



下駄箱で靴を履き替え、3階にある教室に向かう。

「はぁ、なんで教室が3階なんだよ......めんどくせぇ......」

「いいだろ、この階段で筋トレしてるって思えばさ」

「お前みたいになんでもポジティブに考えられねぇんだよ......」

やっぱり階段はクソだ。そんなことを考えながら教室の中に入る。蒼汰は他の友達が居たようでそっちに話しかけに行く。俺は蒼汰のように友達がすごく多いわけではないので自分の席に向かう。その時、

「あ、真人じゃん。今年は一緒だね~、よろしく~」

と、少し気の抜けた感じで話しかけて、こちらへ向かってくる女子が居た。

整った顔立ちとうっすらと茶色がかった髪が印象に残る。

青葉あおば陽菜ひなだ。

「ん、陽菜か。1年間よろしくな」

「うん。そいえば今日は珍しく早いね。彼女候補でも見つけるため?」

「お前なぁ………蒼汰とほぼ一緒のこと言ってくるんじゃねぇよ……」

「あ、そだ、借りてた本返すね」

「お、さんきゅ」

『ねぇ、おにいちゃん、今日の晩御飯私が作るね』

陽菜が本を渡しながら自然な仕草で俺の耳元に近づき、そう囁く。幼馴染とは対外的な関係であり、本当の俺たちの関係は実の双子の兄妹だ。なぜ苗字が違うのかと言うと、俺と陽菜が幼稚園児の頃、父親のイギリスへの転勤がきっかけで母親と揉め、俺が父親に、陽菜が母親に引き取られたからだ。それからしばらくは会っていなかったが中学生の時に再会し、高校進学のタイミングで同じ高校だということで俺たち2人で同居することになったのだ。

『了解、楽しみにしてるよ』

「いやー、その本面白かったね。続きって今借りれる?」

「すまん、今は持ってきてないんだ。また次でいいか?」

「うん、それでいいよ」

ちなみにだが陽菜が渡してきたのは俺の本ではなく陽菜の本だ。恐らく晩御飯のことを伝えたくて持ってきたのだろうが……周りの目が痛い。陽菜は誰もが認める美少女だ。あんな距離感だったら俺が嫉妬の目で串刺しにされる。普通に連絡先知ってんだからメッセージで伝えてくればいいのに。まあ陽菜はただ俺と話したかっただけなんだろうなぁ……



そのまま陽菜と談笑していると、担任が入ってきた。うーんと今年は………あれー?見覚えがあるなー?具体的にはちょうど去年の今頃に初めて会った人だなぁー?

「皆さ〜ん、席に着いてくださ〜い」

うーん、こののんびりとした口調、1年間ぐらい聞いたなぁ。

『おにいちゃん、後でね』

『ああ、後でな』

そう言って陽菜は俺の席を離れると自分の席に着く。

「B組の皆さん、おはようございます。五十嵐いがらし明美あけみと言います。1年間宜しくお願いしま〜す」

「「「おねがいしまーす」」」

やっぱ緩いなこの先生。ちなみに五十嵐先生は1年の時の俺の担任だった人だ。ちょっと名前だけだと中年っぽいがまだ26歳で結構美人で優しいため、生徒からも人気がある。

「とりあえず軽い自己紹介しますね〜。年齢は26歳、独身なので彼氏募集してまぁーす。好きな物はお酒、嫌いなものは仕事で〜す」

新しいクラスということもあり、若干緊張気味な空気だったが、先生お得意のほんわか(地味に面白い)トークでかなり弛緩した雰囲気になる。

「私の自己紹介も済んだので、みんなの自己紹介に移ろうと思います。出席番号を適当に当てていくので当てられた子から自己紹介してってね〜」

最初に来たらキツいが………まあこのクラスは35人ぐらい居るからな、流石に35分の1は当たらんだろ─────


「はーい、じゃあ27番の子〜」


…………ん?

俺の聞き間違い、もしくは覚え間違えであって欲しいが………

27番、俺なんだが。フラグ回収早すぎるだろ。

周りに出てくるやつも居ないし………行くしかねーか。

「はい」

「あ、真人くんだったのね〜、じゃあ前へどうぞ!」

マジかよ。自分の席が良かったぁあああ………

「えーと、水無月真人です。誕生日は6月15日、血液型はAで、好きなものは醤油ラーメンと辛い物…あとカルボナーラ、趣味はラーメン屋巡りと読書、ゲームです。あ、ゲームはFPSとオープンワールドが好きです。よろしくおねがいしまーす」

パチパチパチ……と、まばらに拍手が起こる。まあ、全く反応されないよりはマシか……

終わったはいいものの緊張が抜けきらないまま席に戻ると、先生が次の生徒を当てていた。

………なぁ、先生。あんたやってるだろ。

俺の次が蒼汰とか狙ってるとしか思えねーぞ。

そう思いながらチラッと先生の顔を見ると目が合い、ニコッと笑ってきた。うん、やってたわ。

そんなことをしている内に蒼汰の自己紹介が始まった。

………片目を手で隠し、妙にもったいぶった感じで。

「フッ………俺の名前は浅江蒼汰………いずれは魔王になる男………!」

勿論クラスは静まり返る。こいつ、ツッコミ上手いんだから無理にボケるなよ………

流石に反応ゼロは可哀想なので反応してあげることにする。

「ワースゲー、パチパチパチ〜」

「おい真人!棒読みじゃねーか!!」

俺のボケに蒼汰がノリよくツッコみ、笑いが起こる。




そんなこんなで順調にホームルームは進んだ。笑いも起きたりで終始緩い感じで、今年は楽しい1年になりそうだなと思えるくらい面白かった。勿論今日は始業式のため、昼前には下校となった。

この学校の良いところを挙げるとすれば、始業式や終業式がほぼないことだ。多少の校長からの話(撮ってあるもの)を聞いて、担任からプリントを受け取って終わり、という形だ。

しかも校長からの話は精々5分ほどで、かなり楽である。

ちなみに何故このような形を取っているかと言うと、校長が長話をするのがあまり得意ではないのと、ずっと聞いていても飽きてきたり、寝てしまう生徒が出てくるかららしい。初めてこのことを聞いた時、この学校への好感度爆上がりしたよね。だって校長の話は学校で憂鬱な時間ベスト3には入るし。

「やっと終わったな〜。あ、真人〜、この後ゲーセン行かね?」

「わりぃ、俺このあとファミレスで飯食ってから帰るから。誘ってくれてさんきゅーな、この埋め合わせは今度するわ」

「やっぱりか。埋め合わせ楽しみにしとくよ。世界一周旅行でよろしく」

「行けるかバカ。ま、首洗って待っとけ」

「それなんか使うとこ違くね?」

そんな会話をし、蒼汰は別のクラスの友達の元へ行き、推し如月ツキの話をしながら帰っていった。

蒼汰が出て行ってすぐに俺も教室を出て、そのまま学校の外に出る。


目的のファミレスは学校から歩いて2分ほどの距離にあり、うちの生徒には結構人気な場所だ。

俺は店内に入り、いちばん奥のあまり人目のない席に座る。

店員さんからおしぼりとお冷を受け取り、メニューを見ていると、俺の横に誰かが座った。

陽菜だ。

「ねね、おにいちゃんは何頼むの?」

俺の持っているメニューを覗き込みながら話しかけてくる。多分これ周りから見たらただのバカップルじゃないか………?

「ん-、そうだな。俺はこの"モッツァレラチーズのカルボナーラ"を頼もうかな」

「おにいちゃんほんとカルボナーラ好きだよね~。まあ気持ちは分かるけど」

「んで、陽菜はどうするんだ?」

「うーん……"きのこのバター醬油スパゲッティ"にしようかな〜」

「お、美味そうだなそれ。あ、すいませーん、注文いいですか?」

手の空いている店員さんを見つけ、注文する。

「なあ、友達とかから一緒に遊ばないかって誘われなかったのか?」

「ん?誘われたよ?」

「おいおい、断ってよかったのかよ」

「いーの。それにおにいちゃんだって蒼汰くんの誘い断ってたじゃん」

「見てたのか……まああいつとはちゃんと埋め合わせしてるし。というか狙ってるか分からんけど毎回タイミングが悪い」

蒼汰はたまに遊びに誘ってくれる。くれるのだが……

今日のように予定が入っている時に誘ってくる。

仕方ないといえば仕方ないし、蒼汰も「そんなこと気にしねぇよ。親友だろ?」と言ってくれてはいるが、やっぱり申し訳ない。

と、そこで、

「よ、真人」

と声をかけられた。

「お、冬馬とうま。今年はクラスが違って残念だったな」

「ほんとだよ。なんでお前らだけが一緒なんだ」

綾風あやかぜ冬馬とうま。眼鏡をかけていて、切るのがめんどくさいと言わんばかりに伸びた髪……所謂陰キャと言われる部類の外見だ。

しかし、頭はとてもいいし話してみると割と話しやすく、面白い。

彼とも中学からの付き合いだ。

外見に全く気を使わないのはちょっと勿体ないと思うが…本人がいいなら大丈夫だろう。

「んで、兄妹仲良くてランチしてるんだな」

ちなみに冬馬は俺と陽菜が兄妹だということを知っている。偶然陽菜と出かけているところを見られ、兄妹だということを伝えた。

「まあ、そんなところだ。お前も一緒に食べるか?」

「うーん……お言葉に甘えさせて貰おうかな。僕も昼ご飯にするつもりだったし」

そう言いながら俺たちの対面の席に座る。

「お待たせしました~、"チーズたっぷりカルボナーラ"と"きのこのバター醬油スパゲッティ"です」

「ありがとうございます」

店員さんが注文した料理を運んで、俺たちのテーブルに並べたあと。

「あ、すみません、注文大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「え~っと……じゃあ、"青唐辛子マシマシペペロンチーノ"でお願いします」

え……なんだその興味しかそそらない美味しそうなものは……

「以上ですね、かしこまりました~。出来上がるまで少々お待ちください」

数分後、冬馬の分も届いたところで俺たちは食べ始めた。

冬馬は先に食べていてもいいと言ってくれたのだが、パスタは出来立てほやほやで来たからか舌を火傷しそうなほど熱々だったため冬馬の料理が届くのを待つついでに冷ますことにした。

みんな黙々と食べ始めるのだが……俺の意識は半分以上手元のカルボナーラではなく冬馬のペペロンチーノに持っていかれていた。

「真人……食べたいなら言ってくれれば少し分けてあげるよ?」

「っ…?!……いいのか…?」

「いいよ。その代わりそのカルボナーラちょっと貰うけどね」

「……それぐらい大丈夫だ、それじゃあ少し頂くぞ」

「この辺りなら口付けてないから大丈夫だよ」

「あぁ、ありがとう」

俺はそう言ってペペロンチーノを口に含む。

咀嚼するたびに青唐辛子のピリッとした舌を刺すような辛みが口の中いっぱいに広がり、言いようのない快感が訪れる。。

それを堪能していると、陽菜がジト目で言う。

「おにいちゃん、辛い物好きすぎない……?」

俺と陽菜は双子ということもあり、かなり食べ物の好みは似通っているが、辛い物だけは真逆だった。

冬馬はというとどちらかというと好きでたまに俺と一緒に激辛巡りに行くこともある。

「そうか?結構普通だと思うけど」

「隔週で激辛食べにいく人は普通ではないと思うけどね」

「冬馬まで?!」

仲間だと思ってたのに……

そんな感じで周りの迷惑にならない程度で雑談しながら昼食を食べた。



会計の後。

「僕はもう帰るけど、2人はどうするんだ?」

「私は帰るけど……」

「俺はこの後はカフェでゆっくりするかな。軽く勉強でもしながら」

「そっか。それじゃあ2人とも、また今度。クラスが別だからって仲間外れにしないでくれよ?」

「するわけねーだろ。じゃあ、またな」

「またね、綾風くん」

冬馬が手を振りながら帰っていく。その背中を見ながら、俺たちも歩き始める。

「じゃ、あとでね、おにいちゃん。カフェで食べ過ぎないようにね、私の手料理が待ってるから」

「あぁ、後でな。もちろんほとんど何も食べないつもりだ。流石にコーヒーとかは飲むと思うけど」

カフェへ向かう道と帰路の分かれ道で陽菜と別れ、俺は一人でカフェへと向かう。



歩くこと2分。少し昭和レトロ?というのか分からないが、古風のカフェに辿り着いた。

「こんにちは~」

と入っていくと、カウンターの奥のキッチンから元気なおじいさんが顔を出し、俺に満面の笑みを向けながら、

「おぉ、真人くんか。いらっしゃい」

と声をかけてくれた。

このおじいさんは朝霧あさぎり浩二こうじさんといい、このカフェのオーナーさんだ。

浩二さんはうちのじいちゃんの将棋仲間で、じいちゃんちに行くとよく会ったこともあり、身内のように接してくれる。そのおかげで俺も第二のじいちゃんのように感じている。

「今日もいつものでいいかい?」

「はい、ありがとうございます」

中学の頃から勉強するときや今日のように小説を書くときなど、集中したいときはこのカフェに通っていたから、大体注文もいつもので通ってしまう。

いつもの席に座り、スマホやネタノートを取り出す。

流石に授業中にスマホは触れないのでノートの隅っこに思いついた小説のネタを書き留めていたのだが、「これ、それ専用のノート作った方がよくね?」となりこのネタノートを作った。

そんなネタノートを広げながら次に投稿する予定の小説の執筆を進めていく。

その合間にSNSアカウントを動かしたり、編集者さんとメッセージで会話したりしていく。

正直大変ではあるが、自分の書いた小説を読んで皆が面白いと感じてくれていることが嬉しいし、楽しいから続けられる。これが趣味じゃなかったらとっく辞めているだろうと思う。

そうしているうちに、蒼汰からメッセージが送られてきた。


ソウタ「最新版の暁ミスコンの結果が出たぜ!おまえにも共有しておくぞ!」


その一文とともにメッセージアプリの投票機能の結果のスクリーンショットが1枚添付されていた。

「はぁ、特に興味もないんだがなぁ。あと早すぎでは?」

うちの高校では始業式の前日に入学式が行われる。つまり、今日から1年生が居るわけだが……

流石に早すぎではないか。こういうのってどれだけ早くても1週間はかかるやつだろ。

興味はないとはいえ、見てないと確実に明日蒼汰から何か言われそうなので、見ておくことにした。


1位 青葉 陽菜 (2年)

2位 荒川あらかわ なずな (3年)

3位 古田ふるた 芽衣めい (1年)


陽菜はこのミスコンで入学以来ずっと1位を取り続けているため、そこまで驚くことではない。

そして、2位の荒川先輩もずっと変わらずなので、特に顔ぶれも変わらないなぁ、なんて思った。

とりあえず上位の女子は俺では基本的に知り合うことはないだろう。


……フラグになるわけないだろう。絶対。

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