BOOKING

社畜のシャーチ

プロローグ

第1話 BOOKING

 ■ ■ ■ ■ ■


 2024年1月1日。

 世界各国の主要都市上空に美少女のホログラムが出現する。


「明けましておめでとう~。K.T.社広報担当アイドルのRiNだよ~」


 RiNの登場に世界中の人々が歓喜する。

 世界的大企業K.T.社。あらゆる分野で高い技術を持ち、中でも現実世界と仮想世界を融合させる技術〝XR〟の分野においては100年先の技術力を持つと云われている。

 そんなK.T.社は、毎年元旦に新商品を発表する。

 K.T.社が発表する新商品は、従来の商品の見た目を少し変えた程度の代物ではない。時代に影響を及ぼす画期的な商品だ。

 そのため世界中の人々が注目する新年の一大イベントになっている。


「今回の新商品はなんと。 K.T.社一? い~や世界一の技術力を持つ!我らが社長直々に手掛けました!」


 RiNの発表に人々の歓声はさらに大きくなる。

 社名に刻まれたイニシャル以外全てが謎に包まれている社長。

 しかし、社長自ら手掛けたと宣伝された商品は、時代に影響を及ぼすどころか時代を変えてしまうことは全ての人が知っている。


「それでは社長! 商品説明をお願い致します!」


 RiNの隣に新たなホログラムが現れる。

 頭から足まで全てが霞んだ人物、K.T.社社長K.T.だ。

 世界的大企業であるK.T.社の社長という肩書と高度な技術知識を持つK.T.は、裏でその身に莫大な懸賞金が懸けられているため、姿を決して見せない。


「今回の商品は、私と出版業界の合作です」


 K.T.がXRの技術を用いて土台と骨組みを創り、出版業界が持ち前の物語構成能力で肉付けを行った。


「その名はBOOKING」


 BOOKINGは例えるなら宇宙。

 その宇宙に星のように沢山の本が存在する。

 それらの本の中でただ一冊、物語がない真っ新な本がある。


「メインストーリーとなる舞台であり、名のある登場人物となる方々にゼロから物語を築いてもらいます。そして物語の主人公の座を競っていただきます。見事、主人公の座に座られた方には、K.T.社がその方の望むモノを何でも一つプレゼントします」

「主人公の座を手に入れるための力はこちら!」


 RiNの頭上に一冊の本が出現する。


 出現した本の表紙にタイトルは無く、パラパラ捲られるページには一文字も記されていない。


「この本は魔導書だと思って下さい」


 地球での歩みはプロローグとして記され、BOOKINGでの歩みは第一章一節から記される。

 そして節が終わると挿絵が入る。

 文章は呪文。挿絵は魔法陣。呪文と挿絵が合わさると、それに相応しい力が発動する。


「この魔導書はメインストーリーの登場人物、主人公候補になる方々に渡されます。主人公候補は総勢十万人! 各出版社にスカウトして頂きます。もし十万人に達しなかった場合は、一般募集を行いま~す!」


 人々からブーイングが沸き起こる。

 世界人口八十億人に対して、十万人は少なすぎる。

 ブーイングが起きるのも仕方ない。

 しかし、物語の名のある登場人物は誰でもなれる訳ではない。

 何かしらの特徴が無ければ務まらない。


「お、落ち着いて下さ~い。第一章は十万人ですが、新しい章が幕を上げる都度新たに十万人を追加いたします!また、物語のツアーや物語の住人体験、BOOKING専用チャンネルの開設などなど様々な参加方法をご用意しています!」


 RiNの説明で誰でもBOOKINGを体験することが分かると、ブーイングは多少収まりを見せる。


「主人公の座に座る方法は二つ。魔導書を持つ者全員に自分が主人公であると認めさせる、もしくは年に一度行う章の主人公は誰かの投票で得票率を十割獲得することです」

「随分と厳しい条件ですね。おっと、社長、残り時間がわずかです!それではあと二つ。K.T.社に届いている質問で多かった二つの質問にお答えください」


 K.T.とRiNが商品の説明をしている間、K.T.社には全国から質問が寄せられていた。

 その中で最も多かった質問は、BOOKINGの死の概念についてだ。

 前述した通りBOOKINGは現実世界と仮想世界を融合した世界。

 BOOKINGでの死は、現実の死なのかゲームのような死なのか。


「当然、BOOKINGでの死は仮想の死です。BOOKING内で死ぬと、強制的に地球に転送されます」

「デスゲームでは御座いません!続いて質問が多かったのは、どうすれば新しい章は幕を上げるのですか、です」

「主人公であることを認めさせる。得票率十割。それられが達成されない場合、章が幕を上げて十年経過すると強制的に新たな幕を上げます」

「じゅ、十年!?長いですね」

「一時代、一物語を築くには短いくらいですよ」

「ほへ~、そうなんですね。時代を動かしてきた社長の言葉には説得力があります。では最後の質問です。BOOKINGでの死は現実の死ですか、という質問です!」


 現実と仮想を融合した世界であるBOOKING。

 そんなBOOKINGで死んだ場合、本当の死なのかゲーム的な死なのか。

 寄せられた質問の中で最も多かった。


「BOOKINGでの死は仮想の死ですので御安心下さい。BOOKINGで死ぬと、強制的に地球に退場となります」

「ここで注意点が一つあります!主人公候補になられた方は、死んで地球に戻って来た場合、原則BOOKINGに戻ることは出来なくなります!」

「それでは皆さん。来年、皆さんとBOOKINGで会えるのを楽しみにしています」

「また来年、お会いしましょう!」


 こうして発表を終えた一年後の2025年。

 BOOKINGメインストーリー第一章が幕を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る