12

「おはよう」と目を覚ました秋に私は言った。

「……うん。おはよう」と寝ぼけた顔で秋は言った。

「人生にはある時期になると孤独になる必要がある」秋は言った。

「誰の言葉?」

「お父さん」秋は言う。

「秋のお父さんってどんな人?」

「私の絵の先生。画家をしている。それから私に人生のいろんなことを教えてくれる人」秋はソファの上で体育座りをして丸くなる。

 アトリエには私の絵が置いたままになっている。絵の続きをすぐに描き始めるのかと思ったのだけど、秋が「まだ次の線が見つからない」と言って、絵を描き始めることはしなかった。(それは秋にとっても珍しいことであるらしかった。秋は難しい顔をして私の絵を見つめていた)

「孤独ってなに?」

「一人になること。社会から一時的に離れて自分一人になって、自然の中で暮らして、そこでいろんなことに気がつくこと」

「お父さんがそれをしろって?」

「そうだよ。絵を描くためにも、大人になるためにも必要なことだって言ってた」秋はじっと私を見る。

 私は学校の制服を着ている。秋も制服を着ている。(秋は今、高校を休学しているらしい。画家として生活していくために、もしかしたらもう高校には戻らないかもしれないと言っていた。そんな秋は少しだけ寂しそうな顔をしていた)

 秋は自分の服装や場所によって自分の行動を変えたりしない。さっきから足をあぐらにしたりあげたりして、下着がちらちらと見えている。私が「下着が見えてる」と言っても「別に下着くらい構わない。ここには私とあなたしかいないんだから」と言って気にする様子もまったくなかった。

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