写らないんです

 写真を撮るのが好きだ。遠出して有名な景色を撮るのも、日常の様子を撮るのも好きだ。一眼レフで凝った写真を撮るのも、ふと思い立ってスマホで撮影するのも好きだ。とにかく、写真とカメラが大好きだ。


 ある日、懇意にしているカメラ屋に寄った。店の中を歩いて回ると、見慣れないカメラがあった。気になったので、店主に尋ねてみた。

「このカメラ、何ですか?」

「この間買い取ったカメラでね。古い型のカメラみたいなんだけど」

「見たことないですね」

「私もだよ。メーカーも型番も分からないから、値段をつけるのに苦労したよ」

そんなこともあるんだなあ。


 俺はそのカメラに妙に惹かれていた。古くさいカメラだしちゃんと写るのかも分からないが、ひょっとしてとんでもないお宝かもしれない。店主に買う旨を告げ、代金を支払った。


 家に持ち帰り、早速使い心地を試してみることにした。フィルムをセットして、適当な物を撮ってみるか。そう思い立った俺は、家にあった家具や食器なんかを撮ってみた。ふむ、悪くないな。現像してみないとちゃんと写ってるかは分からないが、使えないことはない。


 ふとベランダに目をやると、一羽のスズメが来ていた。ああ、いつもベランダに来てる奴だ。そうだ、コイツを写してみるか。俺はそっとベランダに出て、スズメの写真を撮った。


 その後、外に出かけて何枚か写真を撮った。間もなくフィルムを使い切ったので、俺は現像を頼みに行った。どれどれ、どんなのが写っているか楽しみだな。


 だが数日後に返ってきた写真を見ると、ほとんどが黒くぼやけていた。なんだあ、期待してたのになあ。がっかりしながら写真の束を適当にめくっていると、一枚だけしっかり写った写真があった。ベランダで撮ったスズメだ。なんでこいつだけうまく写ってるんだろう?よく分からん。


 ある日、カメラの手入れをしながらテレビを観ていると、都市伝説の特集をしていた。今どき、こんな都市伝説なんて流行るのかねえ。そういや、カメラにも都市伝説とか迷信ってありがちだよな。心霊写真とか、そういうの。でも、一番有名なのは「カメラで撮られると魂が抜ける」ってヤツだろうな。そんなことあるわけないけど、昔の人はそう考えてたんだろうな。


 さて、次に手入れするのは……コイツか。この間買った、古いカメラ。結局、なんでぼんやりとしか写らなかったんだろうなあ。レンズにも変なところはないし、困ったなあ。


 ふと、あの時のスズメを思い出した。そういや、最近ベランダに来ないな。まあ野鳥の気分なんて分からんし、こういうこともあるだろう。まさか俺に撮られて魂が抜けたわけではあるまいしな。


 それから数日後、俺は街を一望できる展望台に来ていた。風景の写真を撮ろうとしたのだが、持ってくるバッグを間違えて例の古カメラを持って来てしまった。


 うーん、どうしたものか。まあでも、折角持ってきたなら撮ってみるか。スズメの時みたいに、うまく写ることもあるかもしれないしな。俺はカメラを手にし、街の写真を何枚も撮った。


 俺は自宅に帰った。そうだ、折角なら自分で現像してみるか。この前は店に頼んだけど、自分で現像したら黒くぼやけないかもしれないし。早速準備し、現像を行った。


 だが完成した写真を見てみると、何だか奇妙だ。風景はぼんやりとしているが、はっきりと写る小さい点がいくつもある。これ、どういうことだろうか。カメラ屋に行って、意見を聞こうかな。


 そう思った俺は家を出た。おや?何だか静かだ。さっき帰ってきたときはこんなんじゃなかったのに。不思議に思いながら、大通りに出た。


 そこにいたのは、道に臥す大勢の人々だった。まるで、魂を抜かれたかのように。

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