転生レッド、乙女ゲー世界を救うヒーローとなる

ムネミツ

第一部 邪神調伏編 第一章:転生レッドと魔法学園編

第一話:マッカ、燃え立つ

 俺は今、森の中で平屋サイズの黒蜘蛛の魔物と戦っていた。


 時間は昼間だが、森の木々が光を遮り景色は暗め。


 デカい口をモゴモゴと動かして、黒蜘蛛が俺へと糸球を吐き出した。


 「おっと! 糸を吐くのは見切ったぜ!」


 何とか回避できた。


 一瞬だけ目を向ければ、さっきまでいた場所の後ろの木にはべっとりと雲の糸がこびりついてる。


 学園の制服の上に、訓練用の革鎧しか装備してないんで避けるしかねえ。


 赤い複眼の黒蜘蛛が牙を剝き唸り、また糸を吐き出して来た。


 「今度は伸びる糸か、バーンブレイド!」


 俺は敵が吐いた糸攻撃を避けつつ、右手の剣に炎を灯して振るい糸を切る。


 左手はラグビーボール大のオレンジ色の卵を抱いて守ってる。


 炎属性を剣に付与したから蜘蛛の糸も怖くない!


 糸の次は、鋭い爪付きの足がこっちを襲って来る。


 「やべえ、まだ足攻撃があったのか!」


 俺の命も卵の命も渡さねえ!


 更に足での攻撃が来るのを、避けつつ反撃で切りつける。


 こちは二本足だってのに、これだから部位多い奴は嫌いなんだ。


 だが、蜘蛛の足攻撃を避けた所でチャンスが来る。


 蜘蛛野郎は自分の糸に足が絡まり、腹ががら空きになった。


 「やってやる蜘蛛野郎、バーンスライディング!」


 仰向けに寝そべり、背中から炎魔法を爆発させてロケットダッシュ。


 「ケツはもらった! 焼け死ね、マッカキ~~~ック!」


 前世の親友、バイクキッカーの技を真似て敵のケツに炎の剣を蹴りで突っ込む。


 巨大な蜘蛛の怪物は、火炎魔法と自分の体内のガス爆発で木っ端微塵となった。


 「決まったぜ♪ そして無事にゲットだ、ベイビ~♪」


 オレンジの卵を抱きしめ、笑顔で勝利の余韻に浸る。


 この卵に宿るフェニックスこそ、俺のこれからの相棒。


 両腕で愛情を込めて抱きしめ、卵に魔力を注ぎ暖める。


 早く元気に生まれて来てくれ♪


 この森の主っぽい蜘蛛もいなくなった。


 周囲には人の気配もなし、ならっここで一気に孵化させる。


 帰りの道中で卵を盗まれるとかでロストとかしたくない。


 孵化させた聖獣と魂を繋げれば、盗難問題は回避できる。


 「感じるぜ、お前の命♪ 元気に生まれておいで、一緒に生きよう♪」


 この世を生きて行くのに孤独は辛い、一人は嫌だ。


 友達とかいないわけじゃないが、固い絆で結ばれた存在は欲しい。


 「……お♪ 鼓動が伝わる、魔力注入だ♪」


 俺はありったけの魔力を卵へと流し込む。


 魔力の所為か、卵がラグビーボールより大きくなったか?


 卵にひびが入り、中から出てきたのはオレンジ色の火の鳥。


 百五十センチほどだよ生まれたてなのに。


 「おっしゃ♪ ハッピーバースデー、マイバディ♪」


 火の鳥と目が合い、俺の心臓に焼けるような熱さを感じる。


 そして、俺の胸と火の鳥の胸が金の光の鎖で繋がれる。


 「契約完了だな、宜しくヒヨちゃん♪」

 『宜しくお願いします、我が主♪』

 「いや、ヒヨちゃんしゃべれるの?」

 「念話です、主以外の方とも設定すれば念話で対話可能です』

 「凄いな、流石は聖獣♪ 何はともあれ宜しくな♪」


 俺の前で恭しく羽を動かして一礼するフェニックスのヒヨちゃん。

 

 だが、ヒヨちゃんは突如燃え上がると子犬ぐらいに縮まってしまった。


 「どうしたヒヨちゃん? 魔力が足りないのか?」

 『いえ、これは主の日常生活に支障をきたさない為の措置です』

 「マジか、俺の事を考えてくれるとは可愛い♪」


 良い子だな、大事にしよう。


 『ありがとうございます、日常で召喚された場合はこの姿です』

 「戦う時は大きくなるか、良いね♪」

 『はい、それでは異界へと戻らせていただきます』

 「ああ、じゃあまた後でな♪」


 ヒヨちゃんは虚空の中に姿を消した。


 こうして俺はフェニックスの力を手に入れた。


 魔法で速度を上げて迷宮の森を駆け抜ければ、まだ日は高かった。


 「よし、これなら寮の門限迄には間に合いそうだな」


 今日明日は休みとはいえ、郊外で宿に泊まるゆとりはない。


 「行きの馬車代をぼったくられたのが痛かったな、そうだ♪」


 俺は早速、ヒヨちゃんの力を借りようと思った。


 「聖なる不死鳥よ、我に大空を舞う炎の翼を貸し与えたまえ!」


 俺の背中から、風車の羽板ほどの大きさの炎の翼が生まれる。


 フェニックスの炎の熱が生む揚力で浮き上がり、空に至る。


 「よし、学園まで飛んで帰るぜ♪」


 俺は炎の翼を羽ばたかせ、空をジェットの如く飛んで行った。


 俺の行動は騒ぎにならない。


 この街の人達は、学生が魔法で飛ぶのを見慣れてるから。


 おかげで俺は住民に気にもされずに、学園の敷地内へと着陸した。


 「ふう、夕食の時間にはまだまだ余裕があるな♪」


 俺は寮の自室迄行き、防具を外してクローゼットにしまう。


 学園の寮は一人一部屋、のんびりライフだ。


 「ああ、青春って良いなあ♪」

 

 ちょっと、ベッドに寝転がり一休み。


 二度目の人生は異世界で、こちらも中々いいもんだ。


 「さて、ちょっと小腹を満たしに行くか♪」


 冒険の成功の一人祝いだ、食堂で菓子でも食おう。


 俺は姿見で赤のベストやグレーのスラックスの汚れの有無などを確認。


 軽くブラシなどを使い、身だしなみを整える。


 前世の黒髪とは違い、短い真紅の髪に碧眼の少年を見つめる。


 乙女ゲームの攻略対象かギャルゲーの主人公な容姿だよなこの顔。


 いや、今の俺の姿がいわゆる乙女ゲーム世界の住人なんだ。


 部屋を出て同じ制服姿の少年達がいる廊下を通り抜けて食堂へ行く。


 金や緑に青にピンク、前世で着てたヒーロースーツを思い出す色の髪をした少年少女達。


 俺も含めて、誰もが貴族やらお偉いさんやらの子弟で満ちた食堂。


 クリームパフェを注文しカウンターで受け取り空いている席に着く。


 「やあ、マッカ♪ 相席しても良いかい♪」


 俺を見かけた金髪に緑の瞳の美少年が、笑顔で此方に近づいてくる。


 「レオン殿下、どうぞ♪」


 美少年ことレオン殿下に同意すれば、彼はショートケーキを受け取り俺と相席する。


 「君はもう少し、僕に心を開いてくれても良くはないかな♪」

 「いやあ、クレインやバッシュ達のように殿下と幼馴染レベルではございませんので」

 「あの二人は呼び捨てなのかい? 僕は君の事も、大切な友人だと思っているよ♪」

 「ありがとうございます殿下」

 「僕の事も、遠慮なくレオンと呼んで欲しいな♪」

 「では、レオン」

 「何だい、我が友マッカ♪」


 いや、何か好感度上がった?


 こちらに明るく微笑む、金髪の王子レオン殿下がヤバい。


 何だろう、攻略対象の中の人気一位的な人に言われると背筋が冷える


 あっちはこっちに好意的なんだが、どういう事だ?


 俺はヒロインじゃないから、そう言う笑顔はヒロインに見せろよ。


 乙女ゲーム世界に生まれ変わりはしたが、乙女ゲー仕草にはなじめない。


 「ところで君はクラブ活動は決めたのかい♪」

 「いえ、まだですが?」

 「良かったら、僕の手伝いをしてくれないか? 民間伝承研究会を作りたいんだ♪」


 いや、文系か!


 この王子様、マニアックな部活考えるな?


 容姿端麗で、文武両道って感じのキャラなのに。


 まあ、魔法学校らしい部活ではあるな。


 「わかりました、俺で良ければ入部させていただきます」


 まあ、王子様の機嫌を損ねるってのもあれだし入るか。


 「良かった、これで規定人数が達成できたよ♪」

 「お役に立てたなら幸いです♪」


 王子と話しつつ周囲をチラ見すると、女子達が目を輝かせて男子が嫉妬してる。


 おやつを済ませ、俺は急いで食堂から立ち去った。


 ちょっと魔法で空を飛び、ヒヨちゃんをゲットした森へ入る。


 「さて、一丁変身して見るか! 聖獣武装アーマメント!」


 森の中で一人になった俺はフェニックスを召喚し、武具として身に纏う。


 炎の中、ヒヨちゃんが俺を背後から抱きしめるように包み込み俺は姿を変える。


 炎が消えると、俺は全身を火の鳥を模した真紅の甲冑に包んでいた。


 「うん、これが俺のヒーロースーツか♪ 良いなこの感じ、これだよこれ♪」


 変身後は昔の仲間のメタル刑事に似てるが、変身ヒーローは最高だぜ♪


 俺は一人、ポーズを取ったりして遊んでみた。

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