【新】“異人狩りの夏”。※ボリュームアップ
崔 梨遙(再)
第1話 夏、真っ盛り。
もう、30年くらい前の話になるのか……。
18歳の夏。僕は失恋して凹んでいた。車の免許の合宿で、僕は北陸へ行った。僕は現地の短大生、保奈美に一目惚れ。保奈美の女友達に付き添ってもらい、思い切って告白しに行ったら、男と一緒だった。話を聞くと、“昨日から付き合うことになった”ということだった。保奈美のバイト先の旅館の離れでの出来事だった。保奈美の女友達は僕を放ったらかしにして、新しい彼氏を質問攻めにして盛り上がった。僕は話に入るわけもなく、部屋の隅でボーッとしていた。鼻水が出たので、ティッシュで鼻をかみ、ゴミ箱にティッシュを捨てようとゴミ箱を覗いたら、使用済みのゴムが入っていた。僕は完全に戦意を喪失して大阪に帰った。
そして、その日、免許の合宿で知り合った友人達と、繁華街のコンビニの前でたむろしていた。片手に缶コーヒー。僕、モンちゃん、ヤマさん、ダイサクの4人。僕は何もせずにボーッとしていた。何をする気も起きなかった。
「おい」
「……」
「おい! 崔」
「……ん?」
「崔、まだアカンかぁ?」
「うん、まだアカンなぁ」
「今、どんな感じや?」
「何もする気が起こらへん」
「崔、フラれてから何日経つねん?」
「モンちゃんはええよなぁ、彼女がおって」
「俺のことはええやんけ。見てみろや、通行人を」
「ん? 見たけど、何?」
「カップルが大勢歩いてるやないか」
「うん、歩いてるなぁ」
「ほんで、それを見て崔はどう思うねん?」
「うーん、羨ましい!」
「羨ましかったら、どうすんねん?」
「どうもせえへん」
「なんでやねん、“俺も負けずに彼女を作ってやる”とか思わへんのか?」
「うーん……思わへん」
「アカンな。ほな、あれを見てみろや」
「何?」
「あのマッチョな白人と黒人、2人で女4人もはべらせてるで」
「ほんまや-! はべらせてる」
「あれを見て、どう思うねん?」
「ムカついて来た!」
「ムカつくんやったら、崔もあいつ等に負けずに彼女を……」
「モンちゃん、僕、めっちゃ腹が立ってきたわぁ」
「よし、ほなどうすんねん?」
「制裁を加えたるわい!」
「って、崔、どこ行くねん?」
「うおおおおおおお!」
僕は走って、手前にいた白人マッチョの腹に跳び蹴りを決めた。次に、凄んできた黒人マッチョを背負い落としで投げ飛ばす。だが、そこまでだった。白人マッチョの鉄拳制裁、頬に喰らった。一撃で吹き飛ばされそうになる。僕は飛ばないように踏ん張った。続いて前蹴り。スゴイ! 一撃の破壊力が全く違う! 格闘ゲームに例えるなら、僕のパンチは弱パンチ、マッチョ白人のパンチは強パンチだ。そのくらい違う。途中で気付いたが、体格も全然違う。僕は169センチの58キロだが、白人と黒人は180センチを軽く越えている。次に、起き上がった黒人の回し蹴りで、僕は派手に吹っ飛んだ。“あ、もうアカン”と思った時に、モンちゃん達が乱入してくれて助かった。
「お前は、一体、何がしたいねん!」
ファミレスで、モンちゃんは大怒りだった。
「いやぁ、迷惑かけて、ごめん、ごめん」
「ほんま、崔、洒落にならんで」
「あ、ヤマさん、いつも通りクールやけど、内心怒ってる?」
「怒ってないけど、あれはアカンやろ」
「俺達も巻きこまれたしなぁ」
「あ、ダイサクまで。でも、スカッとしたで」
「スカッとしたんか? あれで。お前、ボコボコにされるところやったんやぞ」
「いや、モンちゃん達が来る前に、2,3発ええのをもらってるから」
「ほな、痛いだけやんけ。白人も黒人もピンピンしてたぞ」
「だから、ええねん。弱い者イジメはアカンけど、強い者イジメはええやろ?」
「崔、何を言いたいねん?」
「ヤマさん、相手が強いからおもしろいんや、僕、スーッとしたわ」
「俺、崔が何を言うてるんか、わからんわ」
「そう言うな、ダイサク。なあ、みんな、やろうぜ、異人狩り!」
場が、シーンと静まりかえった。
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