源義経黄金伝説■第6回
源義経黄金伝説■第6回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
Manga Agency山田企画事務所★you tube「マンガ家になる塾ー漫画の描き方★「マンガ家になる塾」★
言うが早いか、弁慶は、背中から引き抜いた薙刀を一閃していた。
普通の人間ならば、真っ二つである。
が、弁慶の薙刀には、手ごたえがない。
目の前にあるはずの、血まみれの体も残ってはいない。
「はて、面妖な」
「ふふっ、ここじゃ、ここじゃ」
弁慶の後ろから声が聞こえて来る。
すばやく、背後を見返すと、橋げたのうえにふわりと牛若が乗っている。
まるで、重さがない鳥のように、それは乗っているのだ。
「貴様は、飛ぶ鳥か」
「ふふう、そうかも知れぬぞ」
不敵な笑みが、牛若の顔から漏れている。
「鞍馬山の鳥かもな」
その声音は、完全に人を食っている。
牛若は、自分の力を他人に見せるのが、うれしく、楽しいのだ。
「お前は、平氏のまわし者か」毅然と、牛若が言う。
「何を言う。平氏など、物の数ではない」
そう答えるが早いか、弁慶は橋を蹴って、欄干のうえに薙刀を数振りする。
その刀の動きは、常人の目には捕らえられぬ。
とはいえ、明かりなどない夜中である。誰もそれには気付かぬ。
ただ、野犬が、恐るべき力の争いに驚き、鳴き声をあげている。
「どうした、弁慶。この私を捕まえることができぬか」
にやりと笑う牛若の顔に、弁慶は、憎しみを倍加させる。
西行と鬼一法眼は橋の影からのぞいている。
「どうじゃ、遮那王様の動き」
「よかろう。あのように成長しておられるならば、奥州の秀衡殿の手元にお送りしても、十分役にたつだろう」。
「秀衡殿もお喜びであろう」二人笑い会う。
「西行殿、後はお任せるぞ」
「何をこしゃくな」
が、弁慶の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。
「弁慶、止めるのじゃ」
突然異形の老人が、弁慶の前に姿を現し、争いを止めようとした。
強い、この男は、
弁慶はこの男を見て毛穴がひゅつと閉じるの感じた。
「なぜですか、鬼一殿。この若造を殺せというたは、お主ではないのか」
弁慶はこの老人にくってかかる。
「もうよいのだ。お主もこの若者の力がわかったであろう」
「そうであればこそ、なおさら許せぬ。俺の力を見せねば、気が済まぬ」
「そうだ、鬼一。止めてくださるな。この大男に負けたと言わせるまでは、
私も気が済まぬ」欄干の上にいる牛若が、答える。
「こやつ、いわしておけば」
背中より大槌を引き抜いて、弁慶は打ってかかる。
ズーンと大きな音が響き、バラバラと橋げたが川中に崩れ落ちる。
「おお、何をする。橋を壊すつもりか」
「橋が壊れるが早いか、お主が死ぬのが早いか」
騒ぎを聞き付けた検非違使たちが六波羅の方から駆けつけてくる。
「いかぬ」
弁慶はそれにきを取られる。
「ぐぅ」
思わず弁慶が叫び、気を失う。牛若の高下駄が蹴りを弁慶の天頂に加えてい
た。「やれやれ」
鬼一は橋のしたに用意してあった小舟に弁慶の体を隠し、鴨川を下った。
「牛若殿、もう少しお手柔らかにお願いいたすぞ」
「戦いの舞台を移そう」
「こわっぱ、どこに逃げる。怖じけづいたか」
息を吹き返し、苦しい息の下から弁慶が叫ぶ。
「何を言う。お主がそう暴れるから、そら平家の郎党が現れたではないか」
平家の屋敷に点々と灯が灯り、その灯が五条の橋を目がけてくる。
かなりの人数のようだ。牛若が跳躍する。
「おのれ、何処へ」弁慶は上を眺め、叫んだ。
「頭の悪い坊主。この京都で晴れ舞台と言えばわかろうが…」
声は天から響いた。
「くっ、あそこか。わ、わかったぞ。約束を違えるなよ。半刻後じゃ、よい
な」遠方で見ていた、西行と鬼一法眼はお互いに顔を見合わせていた。
「いかん、あやつら、まさか…」
「そうじゃ、あの寺だな」
二人は疾風となり、東山を目指している。四人が目指すは、坂上田村麻呂公の寺、清水寺である。
牛若は、弁慶の前で、清水寺の舞台で、ひらりひらりと舞っている。
「ふっ、弁慶、どうだい。おまえもこの欄干の上で、京都の町を見てゆかぬ
か。よう見えるぞ。特に平家屋敷がな。おっと、お主の体では、ちと無理かのう」
「くそっ、口のへらぬこわっぱだ。そのようなこと、俺にもできるわ」
「弁慶、止めておけ。お主の重さ、この清水寺の舞台を沈ませるぞ」
「牛若殿、もう止めておきなされ。このお方もお疲れなのだ。お主の武勇、充分
私も見せてもろうたぞ」
いつも間にかその場所に源空も現れている。
「争い事は、武士たちにお任せなるのだ」
源空の頭の中には、子供のころの自らの家の惨劇が埋まっている。
源空、後の世にいう法然は、この後、京都市中で僧坊を営み、後白河法皇、九条兼実らの知遇を得ることになる。
後に鎌倉仏教と呼ばれることになる、新しい日本仏教は、この源平争乱という武者革命と時を同じくしつつ起こった「宗教改革」だったのである。この時の源空には、まだその片鱗は見えない。
続く
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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