両手で救える人5

 セルディアナに事情を説明するとすぐさま少年たちに会って様子を確認した。

 会話をしてどこに適性があるのかを考えて簡単な手伝いから任せることにしたのである。


「それにまだまだここでは支部を起こしたばかりなので人手が足りていないこともありました。上手く彼らが仕事を覚えてくれれば私としても助かります」


 ビノシ商会はさらに手を広げようとしている。

 真面目に働いてくれる子がいるのであれば歓迎はする。


「実は私も彼らと似たような境遇ですので気持ちは分かります! ただしだからと言って甘くするつもりはありません!」


「ふふ、それで構わないよ」


「あとは教会に行きたいという子たちですね」


「ああ、これが僕の書いた紹介状だ」


 この辺りには教会がない。

 しかしテシアたちが子供を連れて行くこともできないのでビノシ商会に任せることにした。


 テシアが懐から教会に子供たちを引き取ることをお願いするようにしたためた手紙をセルディアナに渡した。


「肉体派の神官がトップの中堅どころの教会がいい」


「分かりました。お調べして子供たちをそこまでお送りします」


 他の派閥でも受け入れてはくれるだろうが後々面倒な問題になるかもしれない。

 肉体派はこうした子供たちの受け入れにも寛容であるし、テシアの所属している派閥なので問題も少ない。


 さらに肉体派は健康的で活動的なので大きな場所から外れた中小の教会を任される場合も意外とあるのだ。

 子供が暮らすにも環境は悪くないはずだ。


「それとあのジャミルっていう傭兵は中々良さそうだ。今後も関係を築いておくといいかもしれない」


「実はこちらでも目をつけていた人物なのです。黒いコインの貴人のお眼鏡にもかかったようですね」


「いつの時代も有能な人物は欲しいものだからね」


 テシアはセルディアナの目を見て笑う。

 目をつけていたジャミルをあえてリーダーにした。


 一種のテストのようなものも兼ねていた。

 噂に聞く実力だけでなく本当に使える人物なのか、リーダーとして適正な人なのかを見たのである。


 だからリスクをより減らすためにテシアに協力をお願いした。

 人を見る目もある。


 いい人物が支部長を任されたのだなとテシアは思った。


「お話どうでしたか?」


 子供たちを殺さずに制圧し、高圧的に命令を下していた山賊を華麗に倒したキリアンの評価は子供たちの間で高かった。

 受け入れてもらえるのかやや不安そうな子供たちの面倒をキリアンに見てもらっていた。


 セルディアナとの話を終えたテシアを待ちながらもキリアンも少し不安であった。

 テシアが商会を斡旋してくれるというが商会が本当に受け入れてくれるのかという話はまた別である。


 さらには教会まで連れて行くこともビノシ商会に任せるのでそこも心配だったのだ。


「ビノシ商会で引き受けてくれることになったよ」


「ああ、よかった!」


 キリアンはほっと安心して胸を撫で下ろした。

 商人という相手は普通の人とまた違って一筋縄ではいかない。


 テシアの正体を知らないキリアンにとってはテシアがしたお願いはかなり無茶なものだったからこそ話を通してしまうことがすごいと思っていた。


「…………」


 ビノシ商会から宿に戻る最中に子犬のキラキラとした視線を感じるとテシアは思った。

 テシアから見るとできることが分かった上での行動だった。


 しかしキリアンの視点からするとテシアは無理をも通すすごい人に映っている。


「テシアさんはすごいですね」


 なぜか尻尾を振って見えるようなキリアンはしみじみとつぶやいた。


「そんなことはないさ」


「そんなことありますよ! テシアさんはまるで……」


「まるで?」


「アントニアス様のようですね」


「アントニアス……あの大聖者様のですか?」


 ハニアスは無表情のまま首を傾げた。

 アントニアスとは過去にいた大聖者と呼ばれる聖職者であった人である。


 教会で歴史を学ぶなら何度も名前を聞くことが絶対にあるような偉業を成し遂げた。


「そうです。アントニアス様も世直しの旅をしていらっしゃったと聞きます」


「……僕はそんなんじゃないよ?」


「当人にそのつもりがなくてもテシアさんがやっていることは人を助け悪を正す、世直しだと俺は思います」


 アントニアスもテシアと同じく巡礼をしながら人を助けていた。

 そして今では世直しの旅をしていたと評されている。


 西に困った人がいれば助けに行き、東に祈りを求める声があれば祈りに行く。

 悪を許さず多くの人を助けたことから聖者となり、晩年には功績を認められて大聖者となった。


「いやいや……」


 そんな相手と比べるのもおこがましいとテシアは困ったように笑った。

 大聖者と呼ばれるような人と比べられるようなことなどしていない。


「僕はまたまた目の前にいる人、僕の両手が届く範囲の人を助けているだけだよ」


 話に伝え聞くアントニアスのように困った人を助け回っているのではない。

 行く先にそうした人がいれば手助けするが、それほど積極的なつもりもない。


「それでも両手を広げて手を伸ばしているではありませんか。自分の両手の範囲でも人を助けて世の中を正しているなら世直しだと俺は思います」


「それは私も同意です」


「ハニアスまで……」


「きっと私一人で巡礼に出ていたらこんなことはしていなかったと思います。テシア様がやっておられるのはただの巡礼ではなく、小さな世直し旅だと言ってもいいです」


「……そうかい」


 世直し旅だと言われると否定したくなる。

 なんとなく納得はいかない。


 でもテシアがいくら言おうとも2人が世直し旅だと思っているのなら2人の認識であり、それを変えようもない。

 もしかしたらアントニアスもこんな居心地の悪さを感じたこともあったのだろうかとテシアは空を眺めた。

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