両手で救える人3

 しかし山賊たちもただではやられない。

 反撃で傭兵の中にも切りつけられる人が出てくる。


「ハニアス、そっちを!」


「分かりました!」


 怪我をした人は素早く下がり、テシアたちが治療する。


「こいつを頼む!」


「うぅ……すまない……」


「すまないと思うなら口を閉じてろ!」


 仲間に引きずられるようにして胸を大きく切り裂かれた傭兵が運ばれてきた。

 このまま放っておけば助からないだろうがテシアがいる。


 テシアが傷口に手をかざして治療を開始する。

 傷口が温かな光に包まれてゆっくりと塞がっていく。


「この野郎!」


「危ない!」


 神官の存在は山賊たちにとって大きな邪魔となる。

 無理矢理傭兵たちの間から抜けてきた山賊がテシアに襲いかかる。


 キリアンが素早く間に割り込んで山賊の斧を防いだ。

 そしてそのまま山賊を切り捨てる。


「大丈夫ですか?」


「もちろん、助かったよ」


「テシアさんのことは俺が守ります! なので治療に集中してください!」


「分かった。そうさせてもらうよ」


 キリアンは強いし傭兵も山賊を押している。

 身の安全はキリアンに任せることにした。


 山賊の人数は少なくなってきたが完全に目が覚めて山賊の動きも良くなってきた。

 さらに残っている山賊は先に倒された山賊たちよりもまともな人も多く、少なくなってきたとはいえ油断できなくなった。


「おらっ、前でろ、お前ら!」


「あれは……」


 家の中から数人の山賊が出てきた。

 それを見てテシアは顔をしかめた。


 1番最後に出てきた大きな山賊以外は明らかに若い。

 幼さすら残っているような子たちが質の悪そうな剣を持たされて脅されるように前に押し出されている。


「キリアン」


「なんですか?」


「あれ、前の子供たちは殺さず制圧して、後ろの男を倒せるかい?」


「やります!」


 少しばかり無茶なお願いであるが、他でもないテシアの頼みである。

 キリアンは力強く頷いた。


「支援するよ」


 テシアが祈るように胸の前で手を組んだ。

 体が一瞬柔らかな光に包まれて、湧き起こるような力をキリアンは感じた。


「チッ、戦え!」


 山賊が大きな声を出すと剣を持たされた若い山賊たちはびくりと震える。

 そして迫り来るキリアンに剣を向けた。


「使えねえなぁ!」


 全く剣を習ったこともないような乱雑な攻撃。

 キリアンはわざと剣を当てると若い山賊の手から武器が飛んでいってしまう。


 握り方も甘く、まだまだ力も弱いので全くキリアンに敵いもしない。

 粗末な剣なので折られてしまったり、斧の柄を切られてしまったりと殺さないで制圧できるように戦う。


「使えないならせめて壁にでも……」


「良い大人が子供を盾にしようとするのは感心しないな!」


 怯えた目をする若い山賊にトドメを刺すこともなくキリアンはそのまま駆け抜けて、若い山賊に命令する山賊の目の前に迫った。

 キリアンが剣を振ると山賊は防ぐことすらできずに首を刎ね飛ばされた。


「君たち、そのまま抵抗するのは止めるんだ」


 指示を出していた山賊がやられて、武器も失って若い山賊たちは動揺している。


「抵抗しなければ君たちを傷つけはしないよ」


 そこでテシアが降伏を促す。

 若い山賊たちは顔を見合わせて、持っていた武器を捨て始めた。


「うん、それでいいよ。動くと勘違いされるかもしれないから動かないでね」


 気づけば山賊も大体制圧できている。

 不利な状況と見るや逃げ出した山賊もいくらかいるけれど問題にならないぐらいの人数なので追いかけもしない。


「重傷の人から治療するよ。軽傷の人は悪いけど自分で応急処置手当てでもしてくれ」


 日が昇り、朝霧が消える頃には戦いは終わった。

 決して楽な戦いとはいえなかった。


 山賊たちの激しい抵抗もあって怪我人は多く、テシアとハニアスは治療に追われた。


「テシアさん、ハニアスさん助かりました。おかげで死者もなく戦いを終えることができました」


 1番前で激しく戦っていたジャミルだが彼自身はかすり傷の一つもなかった。

 周りの仲間をフォローしながらも戦っていてベテラン傭兵の力にテシアも感心した。


 逆にジャミルはテシアとハニアスの力に感謝をしている。

 2人がいなければ危なかった人が何人かいた。


 最初は何人か死者が出ることすら覚悟もしていたのでジャミルは深々と頭を下げた。


「いや、みんながよく戦ってくれたからだよ。それと神の祝福だろう」


「ええ、機会があれば教会にも赴いて感謝を捧げようと思います」


 戦場に生きる傭兵だからこそ神に無事を祈ることもある。

 神官を遣わしてくれた神の導きにジャミルも感謝の気持ちを持っていた。


「そして……彼らはどうなさるのですか?」


 ジャミルが視線を向けた先にはテシアが降伏させた若い山賊たちがいる。

 邪魔にならないように1箇所にまとめられ、他の討伐隊に監視されていた。


「彼らを救うおつもりですか?」


 テシアが降伏させたのだから処遇はテシアに任せようとジャミルは思った。

 山賊な以上は手を下してしまうべきだと意見する人もいるがジャミルはひとまず監視だけを命じていた。


「彼らは口減らしです」


 ひとまず重傷の怪我人の治療を終えたテシアは立ち上がった。

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