第27話 三人はズッ友だョ。。。
「ぐーぐー(クロの寝息)」
俺はクロを背負いながら、アイリと一緒に帰路へつく。
「気持ちよさそうに寝ているわね……」
「起きたらなんて伝えるべきか……」
クロはドカ食い気絶スキル(レベル5)によって眠ったままだ。大食い選手終了後、何度も起こそうとしたが全然起きなかった。これがレベル5スキルの力なのだろうか(´・ω・`)
「クロは俺らとの生活を気に入っていたようだな……」
俺達はどうなってしまうのだろうか。アイリは住む家がないし、クロなんて1日12時間は寝ていないと寝不足で倒れてしまう。二人の今後が心配だ。それに俺も二人を心配をしていられる立場ではない。9000万ゴールドもどうやって返せばえぇんや。
現実世界に借金があったから、この世界でやり直そうと思ったのに……どうしてこんなことに(´;ω;`)
「ぐーぐー(クロの寝息)」
↑大体の元凶(´・ω・`)
「正直に言うとね、私も気に入っていたの」
「アイリ……」
アイリはモジモジと人差し指を合わせながら話す。
「一緒に買い物したり、ピクニックに行ったり、魚釣りしたり、討伐したり……今まで一人だったから仲間がいるって素敵だなって……」
俺はアイリの本音を聞いて涙ぐんでしまう。ちなみにアイリが仲間になってからすぐに大食い選手権編がスタートしたので、これらのイベント描写は全てカットされている。大食い選手権が始まる前にそういうことがあったということにしてくれ(´;ω;`)
「残った金でケーキを買って帰ろうか。短い間だったが三人で過ごした日々を祝おう」
俺達はケーキ屋に寄り、一番でかいイチゴケーキを買った。クロが起きたら喜ぶだろうな(´;ω;`)
そして、俺達は無事にタナケンハウスに帰宅し……うん? 家の前に誰かいるぞ?
「よぅ、タナケンさん。逃げたかと思ったぜ」
柄の悪い男とちょび髭が生えていてメガネをかけた和服の男が立っていた。
「誰だ、アンタ達は」
「俺らは税務署の『なにがなんでも滞納金を回収する部署』の者だ」
柄の悪い男とちょび髭メガネ和服男は身分証を提示してくる。
「待て、滞納金の支払い期限は明日だぞ!?」
「そうだ。だから夜逃げする前に回収しに来たんだ」
柄の悪い男は金出しなと言いたげに手を差し出してくる。
「いや、今払う必要はないだろ! 明日まで待ってくれ!」
「待ってくれ? 滞納しておいてそんなことが通用すると思うのか!」
柄の悪い男に突き飛ばされた俺はよろけてしまい、アイリにぶつかってしまった。その衝撃でアイリは手に持っていたケーキの袋を落としてしまい、中から出てしまったケーキが地面に落ちて崩れてしまった。
「お、おい! なにすんだ! ケーキが台無しになったじゃねーか!」
「ほう、ケーキなんて買えるほど贅沢できるのなら滞納金も返せるんだろうな?」
「うっ……(´;ω;`)」
柄の悪い男は「先生」と呼び、ちょび髭メガネ和服男が前に出てきた。
「ふむ、このケーキは地面に落ちてしまったから0ゴールドじゃな」
どうやらちょび髭メガネ和服男は鑑定士のようだ。
「チッ、じゃあ家の中を見させてもらうぜ!」
そう言って、柄の悪い男はドアを突き破った。
「お前、いい加減にしろ! 大家に怒られるのは俺なんだぞ!」
「だったら今すぐ9000万ゴールド返してもらおうか!」
「くっ……! そ、そうだっ!」
俺は背負っていたクロを下ろしてから、彼女の両足を掴んだ。そのまま逆さにして上下に揺らす。数回揺らしたところでクロの体から虹色に光るスキル玉がポロッと落ちた。
「なっ……! そのスキルは……!」
「レベル5スキルだ! これを売れば9000万ゴールドぐらい余裕だろ!?」
俺がスキル玉を見せると、ちょび髭メガネ和服男が近づいてきて、虫眼鏡で鑑定を始めた。
「ふむ、ドカ食い気絶スキルじゃな。良くて100ゴールドってとこかの」
「なっ!? レベル5スキルだぞ! そんな安いわけあるか!?」
これはクロが極限の境地まで至って手に入れた究極スキルだぞ! そんな安いはずがない!
「なら訊くが、仮にお主が1億ゴールド持っていたとして」
「はい」
「そのドカ食い気絶スキルを100ゴールドで買うか?」
「買いません」
「そういうことじゃ。つまりゴミスキルじゃ」
「そ、そんな……(´;ω;`)」
俺はちょび髭メガネ和服男に論破されて膝から崩れ落ちた。
「先生、これはどうです?」
柄の悪い男は勝手に家からちゃぶ台を出す。
「ふむ。せいぜい200ゴールドってところじゃろ」
そうして柄の悪い男はどんどん家から物を出して、鑑定士に値段を訊いていた。
「チッ、こんだけ出しても1万ゴールドにも満たねぇ! シケた家だな!」
「もうやめてくれ! お前らにはゴミでも俺らには思い出が詰まっているんだ!」
「そうよ! いきなり9000万ゴールドなんて無理に決まっているでしょ!」
「うるせぇ! こっちは少しでも回収しておかないと上に怒られるんだよ!」
ドカッ! と蹴られてしまい、俺は仰向けに倒れてしまう。
「ん? なんだこの缶は?」
「あっ、あの缶はクロが大事にしているお宝コレクション! それだけはやめてくれ!」
しかし、柄の悪い男は俺の言葉を無視して缶を開けてしまう。
「モンスターチョコシール、勇者烈伝カード、ビー玉……ガラクタじゃねぇか!」
クロの集めたガラク……じゃなかった。お宝を地面に叩きつける柄の悪い男。そのまま足を上げて踏みつけようとする。俺は「やめろ!」と叫ぼうとするが、その前にちょび髭メガネ和服男が声を上げた。
「待つのじゃ!!!!」
「!? 先生、これらはガラクタですぜ? こんなのに価値なんかあるわけ……」
「いやいや、このモンスターチョコシールは大きいお友達も集めているほどの人気があってじゃの。中には高値がつくシールもあるのじゃよ」
「はぁ……しかし、ガントバシウサギとか二重瞼コウモリとか弱そうなモンスターのシールばかりっすよ」
柄の悪い男は地面に散らばったシールを集めて、ちょび髭メガネ和服男に渡した。
「確かにクソモンスターばかりじゃが、未開封のままだし、状態は良いのぉ」
モンスターチョコシールはウエハースと一緒に入っているからシールが汚れないように透明な袋に入っている。クロは目当てのモンスターシールじゃないと、そのままポイっと捨ててしまうため、いつも俺が拾って缶の中に入れていた。だから、あの缶に入っているのはどれも未開封のはずだ。
しかし、クロの目当てであるドラゴンや魔王などのキラキラ光っているシールはすぐに開封して、壁に貼り付けてしまうため、価値のありそうなシールは未開封で残っていなさそうだ。あと「壁にシール貼るな!」って大家さんにブチギレられている(´;ω;`)
とか考えていたら、ちょび髭メガネ和服男が大きな声を出す。
「むっ! こ、こ、これは!!!!!!!!」
「先生!?」
「えっ、なんか良いシールあったの(´・ω・`)」
俺とアイリと柄の悪い男は覗き見るようにちょび髭メガネ和服男が持っているシールを見た。
それは――ガントバシウサギだった。
「……ちょっと! ただのガントバシウサギじゃない!」
「先生、驚かさないでくださいよ!」
「全くだ(・ω・`)」
しかし、ちょび髭メガネ和服男の手は震えていた。
「お主ら! 気づかないのか!?」
「へ?」
「な、なによ。ただのガントバシウサギのシールでしょ?」
「???(・ω・`)」
ちょび髭メガネ和服男は「よく見ろ!」と叫び、シールを見せた。
「これはガントバシウサギの亜種だ!!!!!」
「えっ、亜種?(´・ω・`)」
「……あっ、そのシールだけ耳が立っているわ!」
アイリは他のガントバシウサギシールと見比べて、違いに気づいた。確かに普段よく見かけるガントバシウサギは垂れ耳だが、ちょび髭メガネ和服男の持っているやつは耳が普通のウサギのように立っている。モンスター図鑑で見た記憶があるぞ、確かガントバシウサギ(トンガリ耳種)だ。
「このモンスターチョコシールにも亜種が収録されているのじゃ! しかし、封入率は極めて低く、世界に5枚あるかどうかと言われるほどなのじゃよ」
「えっ、それめちゃくちゃレアじゃないですか(´・ω・`)」
「それにメインターゲット層はちびっ子だから価値に気づかず開けてしまう場合もあるのじゃ。しかし、これは未開封で美品じゃ!」
俺とアイリは顔を見合わせて、「やった! 高く売れそう!」と喜んだ。
「喜ぶのははえぇぞ! いくら珍しくてもシールだぞ!? こんなのに9000万ゴールドの価値があるわけがない!」
柄の悪い男は面白くないのか、怒鳴り散らす。
「ふむ。大体1000万ゴールドというところじゃな」
「たけぇけど安い! 喜んでいいのか悔しがるべきなのかわからん!」
短時間で感情を揺さぶられまくった俺は取り乱してしまう。
「ま、ないよりは良かったのぉ……!? こ、これは……!?」
再びちょび髭メガネ和服男が大きな声をあげた。
「先生、またなにかあったんですか?」
「よく見ろ! このガントバシウサギ亜種が入っている袋だけ『とじ口』が2本線じゃ!!!!!」
ちょび髭メガネ和服男は亜種と普通のシールを両方見せてきた。確かにシールが入っている透明の袋のとじ口が亜種だけ縦線2本で、普通のは網目状になっている。
「先生、それがどうかしたんすか?」
「バカモノ! 大アリじゃ!」
「ひぃ!」
柄の悪い男を叱ったちょび髭メガネ和服男は解説し始める。
「普通のシールが入っている網目状の閉じ方が一般的なのじゃ。しかし、爆発的な人気で生産数が追いつかず、一時的に別の工場で刷られていたことがあったのじゃ。そのサブ工場で作られたシールはこっちの縦線2本が入った袋になっておるのじゃ」
「はぁ……」
柄の悪い男はよくわかっていない様子。アイリも何が違うのかよくわかっていない顔しているし、俺もマニアックすぎてついていけていない。
「生産数を増やしたものの今度は売れ残りまくってしまってな。すぐに生産ラインはメイン工場だけに戻ったのじゃ。だからサブ工場仕様のとじ口は短期間だけ生産されたレア物でな。マニアの間では高値で取引されているのじゃ」
「じゃあ、さらに中身が亜種なら凄い値段になるんじゃないですか(´・ω・`)」
「その通りじゃ。これは6000万ゴールドの価値があるじゃろう!」
一気に上がったぞ! いや、でもまだまだ現実的に返せる差額じゃねぇ!
「ハッ! いくら6000万ゴールドでも残り3000万ゴールド返せなきゃな!」
「ぐぬぬ( ‘ᾥ’ )」
俺と柄の悪い男で子供の喧嘩みたいなやり取りをしていると、再びちょび髭メガネ和服男が叫び出した。
「こ、これは……!!!!!!!!!!!!!!」
「先生、またですか」
柄の悪い男は呆れつつも、再び全員でシールを見る。
「裏側を見るのじゃ!」
「裏側?」
モンスターチョコシールの裏側にはそのモンスターの説明が書かれている。レアリティ、ランク、身長、体重、生息地、短い説明文が書かれており、このシールでモンスターを覚えるちびっ子もいるとかいないとか。
「普通のガントバシウサギシールには身長30cmと記載されているが、こっちは36mと書かれておるのじゃ!」
「……???(´・ω・`)」
「先生、亜種の方は耳が立っている分、身長が高くなるのは当然じゃないっすか?」
柄の悪い男は俺が思ったことを代弁してくれた。
「ちゃんと聞いておったのか! 36cmじゃなくて36mじゃ! センチじゃなくて! メートル! 明らかな誤植じゃ!!!!!!!!」
「な、なんだってー!?(´⊙ω⊙`)」
「……それって凄いことなのかしら?」
「さぁ? 逆に価値下がりそうだよね(´・ω・`)」
俺とアイリは顔を合わせて首を傾げる。
「バカモノ!!!!!!!!!」
「ひぃ(´;ω;`)」
「誤植はマニアのロマンじゃろうが!!!! このニワカ野郎が!!!!」
「舐めた口をきいてすみませんでした(´;ω;`)」
泣いてしまった俺はアイリに頭を撫でててもらいながら慰めてもらった。
「で、先生。結局そのシールはいくらなんすか?」
「ふむ。亜種、サブ工場仕様、誤植……これらを合わせて」
合わせて……?(´;ω;`)
「三兆ゴールドじゃ!!!!!!!!!!!」
……(;ω;`)
……(´;ω;`)
「「「なんだってー!!!!!」」」
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こうして三兆ゴールドを手に入れた俺達は滞納金を完済し、長者番付にランクインするほどの金持ちとなった。
それから数ヶ月後――
俺たちの城、タナケンキャッスルが完成した。
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