魔王様!配信の時間ですよ!!〜娘のガワした最強魔王様の生声配信なんてバズるに決まっている!!〜
まるメガネ
第1話 バ美肉魔王様!
「ダグラム様、魔王軍軍団長総員、御身の前に」
片膝をついて首を垂れる女の凛とした声が広々とした部屋中に響く。
「ご苦労。一同楽にするがいい」
わしは玉座に肘を置き、顎を引いて部下に労いの言葉を送る。
「して、本日はどのようなご要望があって、我々をお呼びしたのですか?」
「うむ。今日が何の日かわかるか?ニューよ」
「申し訳ございません。存じ上げておりません」
先の女は少し思案したのち、顔を俯けて答えた。
「よい。貴様らが知らないのも無理はないだろう。今日は人間界と魔界の国交樹立300周年である。わしは今日のよき日に人間との仲を深めたいと考えている。しかし、わしは老人ゆえ最近の流行には疎い。そこでお前たちにも人間との距離を深めるための案を考えてほしい。何かいい考えがあるものはいないか?」
わしが話し終えると、ニューの後ろに控えていた細身の悪魔が手を挙げて発言の許可を求めてきた。わしが頷くと、彼は恐縮といった様子で口を開いた。
「失礼ながら魔王様。なぜ人間などという下等生物と魔王様が仲良くなろうとお考えなのですか?」
「無礼者!慈悲深き魔王様のお考えが理解できないのか」
「よい、ニューよ。デミューラはまだ若い。理由が分からなくて当然だろう」
ニューはデミューラの頭を鷲掴みにしていたが、わしが諌めるとニューは引き下がり、拘束を解いた。
「よいか、お前たちよ。人間はお前たちが思っているよりずっと素晴らしい種族だ。まず賢い。わしらでは思いつかないような技術を開発し応用する高い知能がある。そして、人間は互いの手を取り合うことができる。一人一人の力は矮小だが、わしら魔族と違って協力して大きな力を生み出すことができる。何より、人間の文明は素晴らしい。奴らの食事や娯楽には目を見張るものがある。わかるな?」
わしが人間の尊さを解くとみなは畏って理解を示してくれた。
「話を戻すが、何かいい案はないか?」
「はい!魔王様、配信をなされてみてはいかがでしょうか?」
ダークエルフの少女セラがビシッと手を挙げてハキハキと意見を述べる。ハイシン?聞いたことがないな……
「ハイシン?とはなんだ?」
「配信とは記録媒体を使って、私たちの行動をリアルタイムでネットの人たちに伝えることです。最近人間たちの流行している娯楽みたいですよ。私も休憩時間によく見ています。こんな感じで」
そう言って、セラはわしに動く女の絵が貼り付いた黒い板を近づけてきた。
「セラが手に持っているその板はなんだ?」
「スマホでございます。今私が見せているのはウミというアイドルの配信映像ですよ」
「ほう……これがスマホか。30年ほど前に名前は耳にしたが、実物を見たのは初めてだ。それに、アイドルか。実に可憐だな。うむ。興味が湧いてきたぞ、配信とやらに。して、わしはなにをすればいい?」
「魔王様も配信をすればいいのです!魔王様のご威光を人間たちにも見せつけてやるのです!」
セラがグイグイと顔を近づけてくる。わしは手でそれを静止して少し考え込む。配信か……悪くない。スマホを使って配信をすれば、わしはここにいながら、人間と交流ができるわけか。
「よかろう。セラの案を採用する。異論はないな?」
「「「全ては魔王様の思うがままに」」」
「では、早速スマホを準備して配信を行うとしよう。まずは挨拶でもすればよいか?」
「お待ちください魔王様!僭越ながら意見申させてください。vtuberをなされてはどうでしょうか?」
セラの双子の妹ミラが横槍を入れてきた。……vtuber?
「どういうことだ?」
「ええと、人間の中には魔族に恐怖を覚えるものも少なからずいます。いきなり魔王様のご尊顔をお見せすると、みな驚いてしまうのではないでしょうか?」
「お前の考えはわかった。わしは人間を怖がらせたいわけじゃない。では、そのvtuberとは何だ?」
「先ほどセラが見せたあの動く絵のことです。アバターという自分の動きとリンクする立ち絵を使って顔を隠しながら配信できるようですよ」
「それは面白い!よかろう。わしもそのvtuberというものになってやる」
「では、まずは立ち絵を作りましょう。機材は私が揃えますので」
ミラは嬉しそうに手を合わせて、虚空にゲートを開き、パソコン機材を取り出した。随分と用意がいいな。
「魔王様のご要望を申してください。私が立ち絵を作りますので」
そうだな……人間ウケを狙うなら当然立ち絵も人間がいいか。いや、それでは魔族と人間の仲を深める目的を果たせない。ではイケメンか?……いまいちだな。人間にも人気が出そうで、わしの分身となるものか……
「……ヒメちゃん」
「「む、娘様ですか!?」」
わしが愛娘の名を呟くと、ダークエルフ姉妹が困惑の声を上げた。
「そうだ。ヒメちゃんだ!あの愛くるしくてキュートでプリティーな目に入れても全く痛くないヒメちゃんならきっと人間にも慕われるだろう!」
「「そ、そうですね。魔王様がよろしいのなら」」
2人の反応は芳しくないが、わしが軽く睨むとミラは黙々とパソコンで作業を始めた。ものの数分で立ち絵が出来上がり、画面を見せてきた。
「素晴らしい出来だ!ミラよ!この大きいパッチリお目目も絹のように滑らかな肌の質感も小柄で可愛いヒメちゃんの全てを忠実に再現している」
「お褒めいただき光栄です。魔王様」
わしが立ち絵の出来を褒めちぎるとミラは頬を赤らめて一礼した。うむ。ヒメちゃんの元がいいからな。
「アカウントも作っておきました。こちらの配信開始のボタンを押すと配信を始めることができます」
「でかしたぞ!セラよ。では、早速配信を始めようではないか!」
「「おまちくださ……」」
2人から静止の声が聞こえた気がするが、わしはヘッドホンをつけてすでに開始のボタンを押してしまっていた。
『みなのもの初めまして。我がの名はダクラム・ウリュ・ル・ファースカシム・バレットである。人間と仲良くなるべくこの度晴れてvtuber デビューを果たした!わしのことはヒメちゃんとでも呼ぶがいい』
掴みは完璧だ。今のわしはヒメちゃん。可憐にして苛烈にして果敢なわしの自慢の愛娘。ヒメちゃんの可愛さを全人類に見せつけてやるのだ!
その後もわしの武勇伝やらヒメちゃんの可愛さやらを語り倒したわけだが、一向に視聴者は増えずに10人あたりをうろうろしている。
「セラよ!どうしたらもっと視聴者を増やせる?」
わしは配信をよく見ているという先達セラにアドバイスを求めたが、肝心のセラは口をパクパク、足をバタバタ動かすばかり。
「ミラはどうだ?何かいい案はないのか?」
「今配信中ですよ魔王様!この問答も全て聴かれています」
「何だと!?わし聞いたことあるぞ。ゼンセバレだったか?前にデミューラが『ヒカリちゃんが前世バレして辛いので有給休暇を申請します』と報告してきたな」
「覚えていたのですか、魔王様……」
「して、なにが問題なのだ?」
別にわしの名など広く知れ渡っているのだから、バレたって問題ないではないか。そう思っていると、さっきまでアワアワしていたセラがついに口を開いた。
「まずは配信をお切りください魔王様!これ以上私たちの話を流しては視聴者が混乱してしまいますっ!」
咎めるような剣幕で捲し立てるセラに気圧され、とりあえず配信を終わらせることにする。
『では、今日の配信はここまでだ。みなのもの楽にするがよい!次回の配信を首を洗って待っているがよいわ!』
相変わらずコメントがつくことはなく、11人のファンに向かって終わりの挨拶をして配信を切る。
「お疲れ様でした魔王様」
わしが一息ついて玉座に深く座ると、ニューが水の入ったペットボトルを差し出してきた。
「ニューはやはり気がきくな」
「いえ私は配信には疎いので、これくらいしか役に立つことができません。それにしても素晴らしい配信でしたよ。これで人間どもにも魔王様の崇高なお考えが伝わったことでしょう!」
「そうか。しかし、初配信だから仕方ない部分はあるが、今日はあまり人が集まらなかったな。セラが見せたウミと言ったか?ヤツの同接は30万だったぞ」
人間との仲を深めるためにはせめて10万人くらいには見て欲しいものだ。
「そのー魔王様。ボイスチェンジャーというものをご存知ないのですか?」
わしが知らないというとセラが説明してくれた。
「今の魔王様は視聴者からはヒメちゃんに見えてるわけです。しかし、声は魔王様のままです」
「それがどうしたというのだ?」
「「つまり、あの配信は彗星級ド美少女ヒメちゃんがバリトンイケオジボイスで自らを魔王と名乗るトンデモ配信だったというわけです!!」」
「な、なんだと!?!?!?」
双子ダークエルフが息ぴったりに突きつけてきた衝撃の事実に椅子からずり落ちてしまった。
「でも、わし魔王だから声を変えるなどという姑息な真似はできぬぞ!堂々と王者の威厳を見せつけてこそ統治者に相応しい振る舞いというもの。それに、声を変えてしまっては、わしが人間と仲良くなることができぬではないか」
「「「それはその通りなのですが……」」」
ニュー以外の三人から憐れみの目を向けられてしまう。
「とにかく次こそいんふるえんさーになって人間どもからチヤホヤされて見せるのだ!!」
わしの決意に満ちた叫びが城中に轟き、わしの華々しいvtuberデビューの狼煙となった。
この時まだ彼らは知らない。ネットの
_______________
あとがき
こんにちは。まるメガネです。ここまでお読みいただきありがとうございます!
この作品は評価次第で続きを書くか決める、そんな息抜き作です。
続きが見たい!という方は是非⭐︎3つと♡をお願いします
ではあとの2話も引き続きお楽しみください!
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