第12話 「恋愛ごっこ」をアパートでしてみた!

紗恵のアパートは市街から少し離れたところにあった。あれからすぐにアパートの住所を知らせてくれた。地図でおおよその場所は調べておいた。駐車スペースもあると言うので誠を連れて車で行った。


スーパーに立ち寄って子供たちのお菓子と飲み物とフルーツなどを買った。もう辺りは薄暗くなっている。アパートの駐車スペースに車を置いて、誠の手を引いて2階の203号室へ階段を上る。手にはお泊りのためのバッグを持っている。


ドアホンを鳴らすとすぐにドアが開いて紗恵が迎えてくれた。足元に小さな女の子がいた。


「美幸ちゃん? 紘一です。よろしく」


美幸ちゃんはすぐにママの陰に隠れる。目のパッチリした可愛い女の子だった。僕の後ろにいた誠を紹介する。誠は僕に似て人見知りだ。促されて中に入った。


持ってきた手土産を紗恵に渡した。部屋のつくりは1LDKだが広い感じがする。リビングのテーブルに料理が並んでいる。


「誠ちゃん、美幸ちゃんと遊んでくれる? おもちゃは隣のお部屋にあるから」


紗恵は保母さんをしているから子供の扱いに慣れているみたいで、誠は美幸ちゃんの手を引いて隣の部屋に行った。もうおもちゃを取り出して遊び始めている。


「美幸はイケメンの男の子が好きだからついて行ったわ」


「誠が美幸ちゃんに嫌われなくてよかった。誠も面食いで可愛い女の子が好きなんです。僕に似たのでしょうか」


「兄妹みたいに仲良くしてくれれば良いのですが」


「兄妹でも必ずしも仲良くありませんが、これも相性がありますね」


「子供たちが落ち着いたら食事にしましょう。子供たちにはオムライスを作りました。先に食べさせてから私たちにしましょう。紘一さんにはお酒のつまみになるものを3品ほど作ってあります。一緒に飲んで食べましょう。それから炊き込みご飯があります」


「ありがとうございます。準備が大変だったでしょう。でもこうして会う方が落ち着きますね、子供の心配をしなくても良いから。明日は4人でドライブして遊園地でも行ってみますか?」


「そうですね、美幸が喜びます」


「落ち着いた良いお部屋ですね」


「もう1年位になります。二人なら十分な広さがありますし、誰にも邪魔されませんから」


「お姉さんのところとは近いんですか?」


「歩いて10分くらいなので、何かあった時には頼りになります。ここを選んだのはそれもあります」


「今度は僕の家へ美幸ちゃんとお泊りにきませんか? 場所は旧市街にあって道は狭いですが、駐車スペースは十分あります。部屋はいくつもありますから」


「お母様は?」


「2年前に亡くなりました。妻がいなくなってからしばらくして誠と実家へ引っ越しました。母と息子の世話をするには一緒に住んでいた方が都合よかったので。今は二人だけです」


「じゃあ、一度お邪魔させていただきます」


誠と美幸ちゃんはお腹が空いたとこちらへ来た。それで二人にオムライスをそれぞれが食べさせる。僕も一口食べてみたがおいしくできている。誠もおいしいと見えてよく食べている。


ようやく食べ終わった。子供たちはまた向こうへ行って二人で遊び始めた。僕と紗恵は二人隣り合わせに座ってビールを飲み始めた。その方がお互いに近づけるし話しやすい。紗恵の作ってくれたつまみがおいしい。ビールを飲み終えると水割りにした。お酒が進む。


「会いたかった。でも我慢できた。この前はずいぶん愛し合ったから」


「今日は子供たちがいるけど可愛がってください」


「もちろん、でも静かにね」


紗恵の手を握ると握り返してくる。言葉より手の方が情感が伝わるような気がする。触れ合うことは気持ちを伝え合うには大切なことだ。紗恵が身体を持たれかけてくる。良い感じだ。


「美幸ちゃんが眠たがっている」


誠が教えに来てくれた。もう寝かせる準備をしなければならない。僕が二人をお風呂に入れることにした。お風呂はもう沸いていた。紗恵はお布団を二組寝室に敷いている。


僕がお風呂に入ると子供たちが入ってきた。かけ湯をしてバスタブに二人を浸からせる。まず美幸ちゃんの頭を洗って身体を洗う。女の子を洗うのは初めてだから慎重に洗う。洗い終えるとすぐにバスタブに浸からせる。それから誠を洗う。


美咲ちゃんを上がらせると紗恵が受け取ってくれる。誠をバスタブに浸からせる。僕が自分の頭と身体を洗う。誠を上がらせると紗恵が受け取ってくれる。やれやれ、今度は僕がバスタブに浸かる。


ようやく僕はお風呂から出てきた。紗恵がバスタオルを渡してくれた。身体を拭き終わると水のボトルを渡してくれた。二人も入れたから少し疲れた。冷たい水がおいしい。


美幸ちゃんはもう布団で眠っていた。同じ布団に誠が寝かされている。僕がパジャマに着替えて、気が付いたら誠も眠っていた。それを見届けると紗恵がお風呂に入った。


僕はリビングのソファーに腰かけている。紗恵がお風呂から上がってきた。長いTシャツを着ている。ノーブラなのがすぐに分かった。下着もつけていないだろう。紗恵が明かりを落として僕に抱きついてきた。二人はそれからソファーで愛し合う。リビングのソファーが僕たちを高揚させる。


◆ ◆ ◆

ソファーでもたれ合って眠っていた。肌寒くなって目が覚めた。紗恵を揺り起こす。目が覚めた紗恵は僕に抱きついてきた。


「身体が冷えてきたみたいで、少し寒くなってきました」


「布団に入ろう」


「布団の中でもう一度お願い」


二人は布団に移った。隣の布団では誠と美幸ちゃんが静かに眠っている。布団にもぐって愛し合う。音のしないように静かに愛し合う。紗恵は声を押し殺している。でも強くしがみついてくるから昇り詰めているは分かる。子供たちのそばで声を出せないので後ろめたい気がして、かえってそれが情感を増しているみたいだった。身体が温まるにしたがい快感の深みに落ちていった。


◆ ◆ ◆

キッチンの音で目が覚めた。紗恵はもう身づくろいを終えて朝食の支度にかかっている。子供たちも目を覚まして動き始めている。


「おはようございます。今日はお天気が良いのでドライブ日和ですね。お弁当を作っています」


紗恵の声が弾んでいる。僕は身づくろいをして洗面所へ行った。それから布団を上げて子供たちに着替えをさせた。紗恵が美幸ちゃんの衣服を出してくれた。


「すみません。助かります」


「いや、慣れているから、それよりお弁当ありがとう」


それから4人でロールパン、ホットミルク、カットフルーツ、卵焼きの朝食を食べる。紗恵は美幸ちゃんに食べさせている。誠はもう一人で食べられるから手がかからない。芳江と僕と誠の朝食が思い出せない。落ち着かないけど楽しい朝食だった。


誠と美幸ちゃんはまたおもちゃで遊び始めた。あの二人も相性がよさそうだ。仲の良い兄妹に見える。二人で遊んでいてくれると手が掛からない。紗恵は朝食の後片付けをして、出かける準備を始めている。僕は持ってきた衣類をバッグに片付けるだけで良い。


「せっかくだからバスルームの掃除をします」


「私がしますから」


「出発の準備をしていてください」


僕はバスルームへ入って、バスタブを洗う。いつものことでなれている。こういうことを芳江にはしてやれなかった。後悔してもしようがない。すぐに掃除ができた。


リビングに戻ると紗恵がソファーに座っていて、お茶を入れてくれた。


「二人でいると何かと便利ですね」


「誠と美幸ちゃんも仲が良くてよかった」


「どこへ出かけるたら良いかネットで調べてみましたが、ここから30~40分くらいの遊園地へ行きませんか? ペットショップもあって動物もいるみたいだから」


僕の車に4人が乗って出発した。美幸ちゃんのためにチャイルドシートを取りつけた。予定どおりに遊園地についた。4人で歩き始めるが、美幸ちゃんは手を繋ぎたいと言って僕のところへ来た。誠は紗恵と手を繋いでいる。美幸ちゃんは父親がいなかったので僕と手を繋ぎたかったのかもしれない。誠にも同じことが言えるかもしれない。


それから4人で遊具に乗って遊園地を満喫した。お昼はベンチに座ってお弁当を食べた。それからペットショップを見て歩いた。いろいろなペットがいて動物園みたいだった。


美咲ちゃんが疲れてきたみたいなので帰ることにした。帰りは後部座席で紗恵、美咲ちゃん、誠がぐっすり眠っていた。疲れていたが満足した眠りだったと思う。楽しかったアパート訪問の「恋愛ごっこ」はこうして終わった。

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