第7話 「恋愛ごっこ」のゆくえ

次の月の最終水曜日に二人はまた民宿へやって来てラウンジのカラオケを楽しんだ。それから翌朝は早起きをして二人でドライブを楽しんだ。オーナー夫妻は僕たちに便宜を図ってくれた。


今日はドライブの方向を前回とは逆方向、時計回りとは反対回りにしてみた。同じところを反対回りに走るだけだが、別の場所を走っているみたいに景色が違って見える。だから、降りてみようと思った場所も違っていた。


「反対回りだとずいぶん景色が違って見えますね」


「反対の方向から進行方向を見ているからね」


「同じ人でも見る人が違っていればまた別の性格が見えるものなのでしょうか?」


「難しい質問ですね。本人は変っていませんから、見る人によってどんな性格に注意が行くかどうかということだと思います」


「注意して見ないところは気にならないところなのでしょうか」


「意識しないと気づかないところはあると思いますが、気づかないところがあとで気になってくることはあるかもしれません」


「でもそれが気にならないとか許せるとかもあると思います」


「そうなると、それは相性の問題と言えるかもしれません」


「相性が良いとはどういうことでしょうか? 具体的に言うと」


「お互いの性格が気にならないということではないでしょうか? あるいは短所が気にならない、許容できるということかもしれません。いや短所をむしろ長所と思えるのかも知れません」


「短所と長所は裏腹だと?」


「お互いの見方によっては短所が長所に、長所が短所にもなりえると思います。もっと相性をポジティブに言うと、一緒にいて楽しい、話していて楽しい、癒されるということではないでしょうか?」


「気が合うとも言いますから、同じような考え方をする、考え方ができるもの同士とも言えるのではないですか?」


「僕たちの相性はどうですかね?」


「そうですね。一緒に話していて、心が和むといいますか、癒される気がします。相性はよい方だと思います」


「お話しているうちにお互いに影響し合って、同じような考え方になってきたようにも思います」


「でも、それって、相性が良いからではないでしょうか」


「気が合うということかもしれません。同じですかね」


「話しているうちに分かり合えたような気がしてくる。錯覚かもしれませんが」


「錯覚ね、確かに注意しておく必要はありますね」


「後からあれは錯覚だったと気づくことになるかもしれません」


「そうですね。あまりお互い入れ込まない方が良いかもしれません。ここまでにしましょう」


二人が話すことは良いことだ。お互いの理解が進む。語り合ったという思いを持って戻ってきた。そして駐車場で別れた。またそれぞれの生活に戻った。

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