第七章◆トンデモ転校生【side 早弥】

 翌朝、制服に着替えた僕たちを、手を振って見送ってくれた寳來ほうらいくん。


 途中、隣のクラスのナルシスト・河合結弦かわいゆづるに会ったけど、ガン無視する。

 自惚じぼれしてるあいつのことを気にかける必要はないから……。


 4―Dに着くと、いつメンがそろっていた。

 無論、蒼汰君そうたくんはいない。


早弥さや! 霊弥れいや!」

 大希たいきに名前を呼ばれ、挨拶代あいさつがわりに手を振り返す。

 みんな元気そうだな……。


「そういえば、蒼汰無事でよかったな!」


 しゅんの言葉に、乾いた笑みがこぼれる。

 無事なのかな……?

 発見したときはとんでもないケガを負ってたから、なんとも言えないな……。


「霊弥と早弥、昨日……あの……あいつ……」


 何か言いたげな琉雅りゅうがくんの方に、皆向く。


「寳來くんのこと?」

「そ……そう! なんか、名前クソ長えやつ!」

五龍神田ごりゅうかんだ


 まあ、漢字六文字だしめったに聞かない響きだし……早口で言ってた気がする。

 今思えば、よく聞き取れたな。


「うん。昨日は寳來くんと一緒にいたよ」

 どうやら、昨日の町探検まちたんけんが目撃されていたらしい。

「アイツ、私服だったよな?」


 いえあれは、変装なので……なんて言えるはずもなく、乾いた笑みがこぼれる。

「あはは……」


 不自然極まりないけれども、誰一人としてそこに触れなかった。

 ある種助かったかもしれない……あはは。


 ホームルームの時間になった。

 男子校らしく(雪学は高等部まで男女別学)、奔放に席に着いたクラスメイトたち。

 全く、いい加減だなあ……。


「突然だが、今日このクラスには、転校生が来る」


 ……は?

 自分らしくない言葉がこぼれるくらいに、この担任の言葉を、僕は理解できなかった。

 転……校生?

 ここ、私立大学との附属校ふぞくこうだよ?

 普通、転入なんてない。


「さぁ、入ってくれ」


 担任の一声で、転校生が入ってきた。

 教室のドアがガラガラッと開いて、きれいな新品のローファーがまず目に入った。

 えっ……!?

 僕は驚きのあまり、立ち上がった。

 何せ、その転校生は――。


五龍神田寳來ごりゅうかんだほうらいです」


 ――寳來くんだったから。


◇ ◇ ◇


 お昼休み。いつメンと班の形になって、弁当を食べる。

 無論、量は多い。

 僕は三百グラムくらいの弁当箱二つとデザートとスープだから……?

 何グラムだ?


 ちなみに霊弥れいやくんも、見た目はほっそーいのにたくさん食べる。

 多分僕より食べる。

 さすが剣道部……と言わざるを得ないような、ものすごい食べっぷりだ。


 寳來くんも、負けじと大きな唐揚からあげを、パクリ。

 も一つ、パクリ。

 ……大食い競争じゃないんだから……。


「あのさ、寳來」


 突然話し始めた結十ゆいとの方に顔を向ける。

 寳來くんに、何の話……?


「寳來って……どっから来たの?」


 結十の問いかけに、きっと全員がうなずいただろう。

 寳來くんは――突然、現れた。

 その出生は誰も知らなくて、気づいたら彼の存在は当たり前になっていた。


「あー、ええっと、話すとスゴく長くなるんだけど……」


 なぜか冷や汗をかき、こめかみの辺りをかく寳來くん。

 話すと長い?

 どれだけ話のある出生なの?


「地球の結構遠くの……異星いせいっていう星」


 寳來くんは、平然と答えた。

 え、えぇ? イセイ?

 ぼくは目玉をギョッと見開いて、苦笑いを浮かべる寳來くんを見た。


「君は……まさか、宇宙人なの?」

「まあ、そういうこと。簡単に言えばね」


 ……どう見ても、ガーリッシュな人間にしか見えないけど……。

 でも、トンガリ耳が、違うと教えてくれる。

 ええっと、なんていうんだっけ……あ、悪魔あくまの耳!


「でも、父親が日本人だから、混血こんけつなんだ。人間と龍神りゅうじんの」


 ……ほへぇ……。

 僕には、とうてい理解が追いつかないや……あはは。

 人間と龍神の混血だなんて……まさかね……。


「ちなみにさ、みんな」

 今度話題を切り出したのは、寳來くんだった。

「みんな、〝あやかし〟って何か、知ってる?」


 あまりに簡単すぎる問いに、思わず吹き出す。

 あやかしなんて、今さら聞かないでよ?


「妖怪でしょ?」


 僕が笑って答えると、今度は寳來くんが吹き出した。

 え? 何か……おかしなことがあった?

 首を傾げる。


「違う。あやかしは異星の生物全般を指していう言葉。妖怪はその中で、悪事をする集団」


 ……そ、そんなふうに区別するの……?

 知らなかった……。

 無意識に、あやかし=妖怪 と思ってたから、ビックリした。


 そう思って、特大唐揚とくだいからあげを、パクリ。

 も一つ、一口でパクリ。

 女子部では見ない光景だ。


「寳來って、すげぇよな」


 大希の言葉に頷く。

 寳來くんは……スゴい子だ。

 僕たちとさほど年も変わらず、体格の差異はほぼ全くないのに……僕たちの年代じゃとうていに考えられないことも考えている。

 そこで、精神年齢の差を感じた。


「そんなことないよ。だって、俺の知らないこともみんなは知ってる。そういうの個性だと思うよ。何を知ってて何を知らないとか、違いがあって当たり前だから」


 寳來くんは、ご飯を口にしながら言った。

 だから、そういうのが……。

 だけど、寳來くんの言っていることは、ものすごく当たり前で、ものすごく大切なことだった。


 この子……同調圧力とか知らなそう。

 ……いや、僕たちが同調圧力まみれの世界で育ったわけじゃないけど……。


 どうしてこんなに違いがあるんだろう。

 生まれながらに? それとも、育った環境の違い? いや……元々の能力の高さ?


 考えても考えても、僕の脳内では処理ができなかった。

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