第二章◆雷獣と誰かと【side 早弥】
茶色と黄色の、
何、こいつっ……。
「……ほう……ワシの雷の
幼女のようなかわいらしい声をしてるくせに、話し方はやけに
しかも、動物なのに
……いや、違う。
こいつは……動物なんかじゃない。
あのとき……六年前、僕たち小鳥遊家に押し入り、あったはずの幸せを無感情、
「ところで……この男……ずいぶん苦しそうにしとるの。少しばかり強すぎたか? ……はあ。その苦しみを解いてやろう。さあ……来い来い」
そいつの言葉で、ハッと後ろを振り返る。
破けた服の胸元あたりを握り、痛みをこらえている。苦しまぎれにゆがんだ顔は、今にも
苦しみを解いてやる。
霊弥くんには……その言葉の意味は、十分すぎるくらいわかっていたに違いない。
苦しみを解くとは……すなわち「死」だ。
自分が死の
霊弥くんだって、同じだったはずだ。
「……断る……」
必死にしぼり出した細々とした声をに、そいつが
「何が面白い!」
「ほう! ワシのお誘いを断るとは、
雷凰と名乗る雷獣が、そう言いかけた瞬間。
ブシャッ!! と血しぶきが舞った。
えっ……!?
「いい加減、
そこにいたのは、人間じゃない。
この子……人間じゃない……!!
「何をしてるの? わざわざ強い人の状態にもならず、グダグダ人間相手に
その子の持っていた、白と赤の札が、三つに
「君が生身の人間相手に暴力をふるうなら――」
ブシュッと、血しぶきが舞う。
「自分が生まれながらに持った能力を、
雷凰という雷獣は、全身をズタ
静かに歩み寄り、もう一つの札をかかげる。
「……………」
ブツブツと、何やら言葉を唱えていた。
雷凰は黄金の光の中に
「す……すごい……!!」
か……カッコいい……!!
一瞬であんな、
……あれ?
その後ろ姿には、翼がない。よく見ると、着物には柄もない。髪飾りも、ない。
「え……?」
おそるおそる近づくと、その子がパッと振り返った。
すごく綺麗な目をしていた。
目にたたえられた
「あ、あの……君は……」
「おまえ、人間か」
何? 人間かって……。
「僕はヒトだよ! 当たり前でしょ!?」
「馬鹿。おまえが
な、何……この子……!!
初めて会った人にそんな態度っ……あるわけないよ!!
「ふざけないでよ!! ねぇ!! 無視しないで!!」
僕が
だけど――その子は全然、悪意で無視をしているわけじゃなかったんだ。
「その
その怪我人って……れ、霊弥くんのこと……。
まさか……霊弥くんを心配して、気にかけて、……ってことだったの?
ぞ、存外に優しいな……。
「この傷……あやかしの雷か……よく生きれた」
感心するように言ったその子が、傷ついた霊弥くんの体に触れる。と、
シュッ
……え?
霊弥くんの、雷による傷、という傷が――な、ない!?
驚きのあまり、誰一人として声を発することができなかった。強いて言えば、霊弥くんの「はっ……」という息の音。
「図体は普通の人間とさほど変わらないのに……興味深いな。いやしかし、さぞ痛かったと思う」
何この子、つらつら
「あ、自己紹介が送れた。俺の名……」
声からしてそうだとは思ったけど……、君は男なんだよね。見た目のせいで忘れそうになるけど。
その言葉をさえぎるように、シュン、シュン! と
「この子の名前は!
耳を貫くようなかん高い声がして、キーンと云う。
な……なんて高音だよ……。
僕は芸術コースを音楽科、その中でも声楽科に所属しようと思っているから、それなりに高声には慣れているはずだけど……。
「やかましい、
そう言うと、
ブシャッ!
と、握りつぶした。
うわっ……気持ち悪いぐらいにグロテスクなことする、この子ぉ……。
「何してるの〜……」
「こいつは俺の
……なんか、スゴいねぇ。
何も知らないほんじょそこらの人間の僕たちからしたらもう、何言ってんのか、わかんないや。
妖力って何なのかわからないし、自分の力で生き物なんかつくれないし、体に取り込むとか早々に死ぬし。
ばけものなのかな、この子。
「それじゃあ、俺は早々に
え、え、待って待って!
さっき出会って助けてもらったばかりなのに……も、もういなくなっちゃうなんて!
「い、行かないでよ!」
とっさに手を伸ばしたけど、その子はもう一度翼を広げて、飛び立ってしまった。
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