【300PV突破! 御愛顧有難う!】妖冥鬼神伝 〜誰一人知らない高校生の青春は人一倍命がけで、それでも彼らは戦い続けた〜
月兎アリス@天戦記参加中💪
過去
序章◆記憶【side 霊弥】
暗かった窓の外から、少しずつ光が差し込んでくる。
それは暖かく柔らかく、しっかりと辺りを照らす。
真っ白な壁に染み付いた、赤い液体。
不気味に垂れていて、ゾッとするほど生々しい。
俺、
淡く光に包まれた視界は、輪郭を
向こうには、俺と瓜二つの少年――双子の弟の
何が起きたんだったか。
そうだ……。
早弥と、茶を飲むために、夜中に下に下りたんだったっけな。
そうしたら電気が点かない。
どうしてか、とカチカチと電源を押していた。
そうしたら。
『痛い!!』
悲鳴と共に、早弥は倒れた。
早弥の耳には、三本の赤い線が入っていて。
その痛々しさから、多分切り傷なんだろうというところまでは、わかった。
けれども、辺りを見回しても、早弥以外は真っ暗闇で見えなかったと思う。
不注意からか、自分の肩に咬み傷ができていた。
夜目で見える限りでは、傷の中は深い崖のように黒く、その深淵の長さは測れまい。
放っておけば、手がもげてしまいそうなくらいだ。
痛いと思った。確かに。
でも、泣かなかった。
何だか昔より、痛く感じなかった。
台所から包丁を探し出して、いろんな方向に向ける。
しかし、目に映ったのは――、
暗闇で金色の目を光らせる、化け物だった。
叫んで、部屋に戻った。
怖かった。
早弥を肩に抱いて、ナニカが追い付かない間に階段を駆け上る。
部屋に入って扉を閉じて、鍵を固くかける。
早弥はぐったりと倒れていた。
しかし、何とか耐えようと、頑張るそぶりを見せている。
それから三時間ほど経った。
下からは、ガラスや陶器が割れる音、物が倒される音、斬られる音が響く。
全部、ぐちゃぐちゃだった。
残酷な物音が、全部合体して、ぐちゃぐちゃな音になって、俺の耳に届く頃には、不協和音になっていて。
聞いたことのない音たちが、絶える間もなく響き続けるのだ。
親父、お袋――。
部屋の鍵を、そっと外す。
足音を立てぬよう、一歩一歩慎重に、階段を下った。
そのためか、いつもは鳴ってんのか鳴ってないんだかわからない心音が、嫌というほど聞こえてくる。
息がしづらいほどの重い沈黙が、喉に詰まる。
リビングの前まで来る。
ドアの硝子から、向こうが透過して見えた。
血しぶきがあたりに舞い。
家具も雑貨もめちゃくちゃに倒され。
落ちた食器や陶器やガラス製品が粉々に割れ。
親父なのかお袋なのか判別できない、骨や筋肉や内臓が剥き出しになった屍が倒れていて。
黒いナニカは狐のような細い顔をしている。その顔や顎の動きから、何かを喰っているように見える。
噛み切ると、ナニカは屍に顔を突っ込んだ。肝臓だ。肝臓を喰っている。
ナニカの金色のツリ目が俺を
「ガキは
低くざらりとした、冷たい、重い声だった。
聞くだけで、胃が痛む。
ナニカは一歩ずつ俺に近寄る。
その差し脚といい忍び足といい、この世の者なのかと疑る。
壁の柱につかまる手が、小刻みに震えている。
少しでも声を出したら――想像するだけで身震いがする。
「テキトーに殺――」
ナニカが跳んできた――
やけに風景はゆっくり流れる。
きっとアイツは……ドアを壊せる。
それで俺を殺して放棄するつもりだ――そして次の狙いは――。
この世の終わりを見た心地。
諦めて目を閉ざした、その瞬間。
ブシャッ!! 鮮血が飛び散った。
ナニカが頸から血を流している。
「
血の色をした蝶が、優雅に宙を舞っている。
不気味だがなぜか美しく儚く、可憐な気さえ――。
眼の前には人がいた。
輪郭などはぼやけて確かめられない。かすかに浅葱色の服をまとっているのだろうか――。
俺の意識が戻ったときには。
もう、俺たちには――俺と早弥しかいなくなっていた。
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