影道仙、少女の正体を推察するの事(その一)
二年前、というと丁度頼義と金平はここ鹿島と利根川を挟んで向こう岸に面する香取神宮の前で
神域が血で穢された結果、香取神宮の霊威が弱まり、坂東に封じられてきた百鬼夜行の群れが再びその活動を活性化し、その流れを受けて「
境内に昔仙人が植えた古木に念を込めた文字を刻みこみ、「八幡神」の神威を流し込んだ事によって再び神宮は霊的砦としての機能を取り戻したのだったが、どうやらその霊力はかの「悪路王」をこの地へ立ち入らせる事を禁じる霊験があったらしい。
そう考えると金平は過去の頼義に助けられた、という形になる。
「鹿島神宮の
彼女の言う「蛮族」の頭の一人である
「まてよ、『
影道仙がまた例のごとくブツブツと独り言を呟きながら考え事をまとめるようにその場をぐるぐると回り出す。
「で、どうするんだよコイツは、これ以上コイツが陸に上がってこれねえってのはわかったが、まさかこのままほっとくわけにも行くめえよ」
金平が上空を指さして言う。見えない壁に行く手を遮られた「悪路王」はそれでも前に進もうと何度も踏ん張ってはまた押し返されるという虚しい作業を延々と繰り返している。
「放っときましょう。あ、いや、念のため見張りの兵は配置する必要はあるでしょうが、今は避難して安全を確保する事が先決です」
そう言って影道仙はそそくさと鹿島神宮の境内に向かって歩いて行ってしまった。その間にも彼女はずっと何やら独り言が止まらない。頼義は散り散りになった兵士たちを再びかき集め、「悪路王」」を見張るための部隊を再編成した。幸い死傷者の報告は無かったため編成はつつがなく終える事ができた。「悪路王」にしてみても小さな人間を一々狙って殺して回る必要性もなく、また人間側もあえてあの巨人に立ち向かおうという蛮勇の士はいなかったと見える。
鹿島神宮の境内に入り、勝手に社務所の一室を借り受けて影道仙はすとんと座り込んで背筋を伸ばす。
「ここまで入り込めばもう安全でしょう。あ〜あ、走り回ったおかげで足がパンパンです。
「だれが金ちゃんだコラ!あと勝手に人をパシリにすんじゃねえ!!」
そう言いつつもドタドタと足音を響かせながら律儀に金平は水を汲みに手水場へ向かう。その後ろを例の少女が追いかけるようにして小走りについて行った。
「ふーむ、
立ち去る少女を目で追いながら影道仙がまた頼義のわからない言葉を駆使して呟く。
「影道仙どの、あなたは……」
「
「では
「まだまだカタいなあ、もっとリラックリラックス」
「めんどくさいなあもう。ポンちゃんは分かってるの?あの娘が何者か」
「お、いいですねえJKトークっぽくなってきたじゃないですか、私はハイスクールに通った経験はありませんが。まあ筑波に金ちゃんを送った時点であらかた予想はついてたけどね。まさか
「どういう事?」
「それは金ちゃんが戻ってきてから説明しましょう。お、ちょうどいいタイミングで戻ってきた」
金平が盆に乗せた素焼きの湯呑みを運んで来た。少女は相変わらず金平の裾を掴みながらひと時も離れず彼のそばにいる。
「ではまあ、お冷やでもすすりながら一つずつ解き明かして行きましょうか。これまでに起こった事、これから起こるであろう事、そして我々がこれから為すべき事を」
影道仙は一口湯呑みをすすってから口を再度開いた。
「単刀直入に言いますと、『悪路王』の目的はその娘自身です。彼はその子を追ってこの地にやってきたのでしょう」
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