第5話
『タケト様? いかがしましたか?』
少女の声で「――ハッ!」とわれに返る。
「あ……いや、なんでもない」
『そうですか――それにしても見事な戦いでした! さすが軍神様です!』
「…………」
見事な戦い?
確かに圧倒的な戦いだった。相手は地球国家連合の主力
なのに、この深紅の機体は十機の人型兵器を圧倒した。スゴすぎる!
だが、これは『見事な戦い』と言ってイイのだろうか――
『タケト様、もう敵の姿はありません。どうか、お戻りください』
(敵の姿? そうだ――)
タケトはレーダーを確認する。しかし、何の機影も表示されていない。
「ふう……」と息を吐き、機体を反転させた。
最初にいた場所に戻ったタケトは改めて辺りを見回す。さっきは敵が迫っていたので、しっかり見ていなかったのだが、この一帯にはギリシャのパルデノン神殿のような石の柱が立っていた。それも無数に。やはり遺跡なのだろうか――
純白の修道服を着た少女――さきほどは高台にいたのだが――は下に降りて、タケトを待っていた。聖職者の服を着た男性、数人も一緒だ。
彼女たちのそばに機体を止めて、降機する。ポールのような昇降機を使用する降機スタイルもAFと同じだった。
地面に足をつけたところで、ヘルメットを取る。
(解放軍のパイロットスーツはそのままなんだな……)と、自分の姿を見て苦笑いする。
ナタリアと名乗った修道服の少女と男性たちが近寄ってくるのが見えた。そちらへ歩く。
自分を見て男性たちが驚いているとタケトは感じた。ビックリしているというより、なにか
(パイロットスーツが珍しいのだろうか……)
ちょっとやりづらいなぁ——と思ったが、あえて気づかないフリをする。
「タケト様、私たちを守っていただきありがとうございます」
ナタリアがひざまずき、頭を下げる。男性たちも同じようなしぐさをした。
「守る――って、ボクはただ無我夢中で戦っただけだよ」
それが本心だった。いきなり、十機の敵から攻撃を受けたら応戦するしかない。誰かを守ろうなんて意識はそこになかった。
「それでも、私たちを救ってくれたことには変わりありません。本当に『軍神』らしい戦いでした」
彼女のその言葉がやはり馴染めない。
「悪いけど、『軍神』という言い方はやめてもらえるかな?」
そう言うと、ナタリアや男性たちは互いの顔を見合わせる。
「――わかりました、タケト様。お疲れでしょう。どうぞ、こちらへ」
彼女がそう言って歩き出したので、自分もそれについていこうと一歩踏み込んだ。すると、バランスを崩して倒れてしまう。ヘルメットがコロコロと転がった。
「タケト様! 大丈夫ですか⁉」
「ハ、ハ、ハ。緊張から解放されて、チカラが入らなくなったみたい」
タケトが座ったまま、へつら笑いをする。ナタリアは少しビックリした表情をしたあと、同じように笑った。
「ヨカッタ……なにも悪いところはないのですね。タケト様でもそんなふうに緊張することがあると知って、少しだけウレシイです」
そう話す少女の顔はまだ幼く、本当にカワイイ。この三年、戦闘訓練校の学生だったタケトは、同年齢の異性と会話する機会は皆無だった。なのでヘンに意識してしまう。
「と、とにかく、ちょっと待って。少し休めば、すぐに動けるようになるから」
考えてみれば、AF戦のダブルヘッダーをやったことになるのだ。さすがに疲れが出た。
まあ、初戦は途中KO、降板だったのだけど――
すると、ナタリアがタケトの手を取る。
「――えっ?」いきなりのことで、ドキドキする。
「あれだけ激しい戦いをしたのです。疲労もあるでしょう。お待ちください」
ナタリアの手が輝くと、自分の全身が軽くなった気がした。
「なんだ、これ? 気持ちイイ……」
「タケト様の体内にマナを送り込みました。だいぶラクになったと思いますがいかがでしょう?」
マナを送る? そういえば、さっきも同じようなことを言っていたような――
ナタリアの手を取りながら、立ち上がる。
「あ、本当だ。疲れを感じない。気分がイイ!」
「マナは生命エネルギーなのです。マナが不足すると疲労感や
だからマナを送ることで、そういう症状もなくなるのだという。
元気になると、今度は空腹感が表に出てくる。タケトのオナカが『クゥ』となった。
「フ、フ、フ――それでは、お食事を用意しますね」
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