召喚されたら、巨大ロボット兵器が蹂躙する異世界だった

テツみン

第一章 召喚

第1話

『おい、準備ができたら返事しろ』


「……タケト・カミカワです。ザブルグに乗りました――アイ・ハブ・コントロール」

 薄緑色のパイロットスーツに身を包んだ少年はコックピットからそう伝えた。すると、第一デッキへ向かうように指示される。彼は巨大人型兵器アーマードフレームを前進させた。


(なあに、訓練と同じことをすればイイ)

 そう言い聞かせる。


 彼、タケト・カミカワに実戦経験はない。つまり、これが初陣だった。

 多少手足に震えを感じるが、操縦に支障をきたすほどではない。


『チンタラするな! さっさとカタパルトに乗れ』


(はいはい……)と思いながら、アーマードフレームAFの両足をカタパルトの台にはめ込む。


『敵はジャス型AF三機だ。せめて一機くらい落としてよ』

「……」


 AFを一機でも落とせたら、表彰モノである。ましてや、タケトは初陣。しかも人数合わせのため、宇宙移民解放軍の訓練学校に在籍したまま実戦投入された身だ。普通に考えれば、敵三機を彼一人で相手にするなんて荷が重すぎる。


(――とは言っても、この艦にろくな人間は乗っていないしな……)

 そんなことを考え、苦笑いする。


 ヘルメットのスピーカーから『クソ――』という、つぶやく声が聞こえた。


『ただの哨戒じゃなかったのかよ。おまけにパイロットはときた。まったく、貧乏クジを引いちまったぜ』

「…………」


 タケトと通信している管制官オペレータはブルータスという男。普段から上官に隠れて、ウォッカを飲んでいるようなオヤジだ。軍在籍期間以外、自慢できる実績はない。学徒兵であるタケトを扱いして、自尊心を保っていた。


(そのに艦の命運を任せるなんて――冗談にもならないよな)

 タケトはヤレヤレとため息をつく。


「なあに、ボクも簡単につもりはないけどね」

 そう強がってみせた。


『五、四、三、二、一、射出!』

「タケト! 行きます!」


 押し潰されそうな加速力に歯を食いしばる。船外に出た瞬間、その圧迫感から解放された。


 ビュン!


 光の矢が、コックピットの前にある大型モニターに映し出されたと思ったら、あっという間に通過する。敵のビームライフルから発せられたエネルギー塊だ。


「おいおい。敵が近くにいるんだったら、忠告くらいしてくれよ」


 そんな愚痴をつぶやきながら、レーダーで敵AFの位置を確認する。


「一機だけ飛び出している。まずはあれから!」


 バーニアの出力を最大にすると同時に、両足を蹴った。宇宙空間なので、蹴る地面はないのだが、その慣性も利用して加速をつける。


 敵が慌てて、ライフルをタケトに向けるのだが――

「もう、遅い!」

 タケトは引き金を引く!


 ビュン! ビュン!


 二つのビーム弾が、ともに敵の機体に命中。


 バアァァァァン‼


 敵の機体が激しい光と共に爆破する。その衝撃波がタケトの機体にも届き、コックピットまで揺らした。


「まず一機!」


 タケトは左レバーを一杯に引く。機体を反転させ、残りの敵を視界に入れた。


 二機が同時にビームを撃ってくる。それをバーニアと四肢を使ってかわした。まだ機体が回転状態である中、タケトはビームライフルを相手へ向ける。


 ビュン! ビュン!


 このタイミングで撃ってくるとは敵も予測していなかったようだ。避けることも防御することもせず、二発ともまともに食らう!


 バアァァァァン!


 出撃から一分以内で、AF二機を撃破。宇宙移民解放軍、伝説のAFパイロット、シュタルツ大佐でもここまで派手な初陣ではなかっただろう。


 鬼神ほどの活躍を見せる相手に勝てる見込みなしと見込んだのか? 残りの一機はタケトに背を向けた。バーニアを最大出力にして、離れていく。


 タケトは回転する機体を制止させると、それを見送った。「ふう……」とため息をつく。


『おい! なんで追いかけない!』

 そんな声がコックピットに響いた。


(また勝手なことを言いやがって――それなら、艦砲で落とせよ……)


 まあ、こんな辺境の哨戒任務をしている巡航艦に、小回りの利くAFを落とせるような砲撃手が乗っているわけがないか――とも考える。


 なにせ、タケトのような学徒兵や退役間近のジジイたちで、なんとか編成した哨戒部隊。そもそも、ここに敵がいるなんて想定もしていなかったはずだ。

 

 さて艦に戻るか――と思った時、コックピット内に警告音が鳴り響いた。


(なんだ⁉)

 タケトは慌てて、レーダーを見る。逃げていく敵とすれ違いで、もう一機のシグナルが見えた。


『新たなAF? ジャス級の三倍の速度⁉ バ、バカな!』

 管制官の混乱した声が聞こえる。


 あきらかに、いままでの敵とは違う。タケトは瞬時にそれを覚った。

 そして、すぐにその機影がコックピットのモニターにも映し出される。


 敵、地球国家連合軍のAFはJASジャスという、ライトブルーの装甲を纏った機体だ。しかし、今見えているのは純白のそれ――


 タケトはニュースで何度かその機体を観たことがあった。連合軍のエースパイロットが操るアーマードフレーム。解放軍側からは『白い悪魔』と呼ばれた機体。


『ふざけるんじゃねえ⁉ ムーンベース戦線にいたんじゃないのか⁉』

 そんな管制官の声が聞こえたのだが、いまさら、その情報の信ぴょう性を疑っても遅い。


 ビューン!


「――えっ?」

 オレンジ色に輝く光線が、タケトの機体を通過した。


 ドーン!


 その光は、自分が搭乗していた艦に着弾する。その爆発はやがて艦橋をのみ込んだ。正確にエンジンを撃ち抜いたこともあるが、たった一発で巡航艦を撃沈させる威力――


「ダ、ダメだ――勝てるわけがない」


 タケトは絶望した。帰還する艦も失った。

 だが、まだ自分は生きている。敵が近づいている警告音が聞こえ、我に返った。


(どこだ⁉ どっちから来る⁉)


 敵、三機を前にしても冷静でいられたタケトだが、白い悪魔のプレッシャーに、正しい判断ができなくなってしまう。


 次の瞬間――


「――えっ?」

 モニタ正面に突然現れた純白のAF。一瞬で相対速度をゼロにして、タケトの前にビームライフルを向けていた。


 レベルが違い過ぎる。何もかもが――


 まだ、自分にはかなわない相手が存在する。それを思い知らされた。


 相手の銃口から発する眩い光がタケトにも見えた。


 ぐわーん!


 衝撃がタケトのいるコックピットに届き、次の瞬間、激しい爆発音と閃光が包み込む!

 タケトの視界はハレーションを起こして、何もかもが見えなくなった。



 タケト・カミカワ――

 数年後には、宇宙移民解放軍、エースパイロットとして名を馳せていたかもしれない少年は、初陣でその命を散らすこととなった。





『……軍神様、お目覚めください』

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