伝説の元S級探索者さん、妹のダンジョン配信を女装して手伝っていたら、"謎の最強美少女カメラマン"としてバズってしまう
反宮
第1話 ダンジョン配信、始めます!
「おにぃちゃん! ちょっとこれ見てよっ!」
リビングのソファにぐでっと横になりながらスマホを眺める少女──
短めの茶髪を肩口で遊ばせ、華の女子高生でありながら学校にも行かず怠惰を貪っている彼女こそが、何を隠そう我が妹である。
「ねぇってば早く!」
そんな愚妹に呼ばれた俺──清水
「どうした? また外国人のおバカ系動画でも見つけたのか?」
「違うよ! あたしがいっつもそんな動画ばかり見てると思わないで!」
「いや見てるだろ」
「見てないです〜。ちゃんとえっちな動画とかも見てます〜」
「……そ、そうか」
コメントしづらい事を言わないでくれよ。おにぃちゃん困っちゃうだろ。
「とにかくこれ見てっ」
祭理はそう言うと、持っているスマホの画面をぐいっと見せつけてくる。
そこには、洞窟のような場所を背景に立つ、金髪の女が写っていた。
『えっと今日は〜、珍しいヘドロスライムが出るって噂のダンジョンに来てま〜す! てか何この
金髪女がギャル特有のフローで喋っている動画の横には、視聴者達のコメントが流れていた。
〈ゆずっちがんばー!〉
〈応援の舞!(ノ゚д゚)ノソイヤ!゙(ノ゚д゚)ノソイヤ!〉
〈♪(ง ^ω^)ว (ว ^ω^)ง (ง ^ω^)ว♪〉
〈相変わらずお洒落ですね〉
〈なんかエッッ〉
〈もっかい言って! お願いします!〉
絶え間ないコメントの嵐で配信は大変に盛り上がっていた。登録者の表記を見ると10万をゆうに超えている。これが多い方なのかは分からないが、少ないって事は無いだろう。
「これがどうかしたのか?」
「この人、最近勢いのあるDチューバーの
Dチューバー。たしかダンジョン配信をして、再生数に応じた収益を得ている人達の事だっけか。
趣味レベルの個人から事務所に所属しているタレントまで活動形態も色々あるみたいだが、正直あまり詳しくはない。
「トップ層の人とかはもっと凄いらしいよ。もう億万長者!」
「……それがどうしたんだ?」
聞くと、祭理は得意げに胸を張りながらニヤっと笑った。
あ、これ碌なこと言わないやつだ。経験則に基づく兄の勘がそう言っている。
「不肖っ、清水祭理っ! ダンジョン配信者を始めるであります!」
ほらな。
元気よくテキトーな敬礼をする祭理に、俺はただ呆れて溜息をつく。
「危ないからやめとけ。お前ダンジョンなんて入った事もないだろ?」
「あるよ! 中学の時!」
あー、あれね。義務教育中に何度かあるダンジョン見学みたいなお遊び。
だが安全が保証された学校行事と、個人での探索は訳が違う。
「時代は配信だよ配信! これで成功すれば将来働かなくて良くなるしね!」
「それが目的かよ」
「うまくいったらおにぃちゃんの事もあたしが養ってあげるよ! 一生ニートできるよ!」
妹のヒモになれってか。情けなさすぎるだろ……。
「あのな、俺は転職活動中なだけでニートじゃない。そのうちまた働くつもりだ」
1年前、プロの探索者をやっていた俺は、ある事件をきっかけに引退して無職になった。
それなりに貯蓄があったので、「ちょっとゆっくりするか〜」って感覚でいたら、あら不思議、気付けば一年も経っていたではありませんか! 浦島太郎にでもなった気分だぜ……。
ってワケで決して堕落していたわけではない。本当だぞ?
「はいはい。ダメダメな兄の面倒は、このできた妹が見てあげるがら安心しなさい」
「このやろうっ、どの口が言うかっ」
俺は祭理の脇腹に手を差し込んで思いっきりくすぐってやる。
「きゃっ……っ! やめっ! おにぃちゃっ! あはっ……! まっ……あはっ、やめっ……あひゃひゃ……っ! あははははははっ!!」
「オラっ! 兄に生意気言った事を反省しろっ!」
「あははっ! きゃはっ! お、おおっ、オホォォォオオオッ!! イグゥウ"ウ"ゥッ! あははははははっ!」
「おまっ!? また変な言葉ばかり覚えやがってからに!」
因みに祭理は、インターネットの影響をモロに受けているタイプである。実に将来が心配だ。
「ま、負ける〜っ! 負けちゃう〜(笑) あははははっ。おにぃちゃんこうゆうの好き〜? ちょっ!? それヤバっ!! 待ってっ! あひひひははははははっ!!」
「どうやら本当にお仕置きが必要なようだな……」
「いっ、いやああああああああ!!!!」
────……。
ひとしきりくすぐり終え、俺はソファに座り直した。
祭理は熱っぽい息を吐きながらぐったりしていた。
少しは懲りてほしいものだが……多分懲りないんだろうなぁ。
「……本当にやるつもりのか?」
「はぁ……はぁ……っ、もちろんだよ! 何ごともやってみる事が大事なんだよ!」
祭理のくりっとした瞳が、真っ直ぐに俺を見つめてきた。
こりゃ止めても無駄だろう。
いっそ、やりたいようにやらせてみるか。
……まぁ、引き篭もり克服の良いきっかけになるかも知れないし。
「分かったよ。その代わり俺も付き添うからな」
流石に可愛い妹を一人でダンジョンに潜らせるワケには行かない。
それに万が一の事があったら──と思うだけで俺の心臓がもたない。
俺が付いてれば、祭理に危険が及ぶことはまずあり得ないだろう。
「ありがとう! 流石あたしのおにぃちゃん! 物分かりのいいイエローモンキーは違うね!」
「褒めてんのかディスってんのか分かんねーよ」
「それじゃあ、お兄ちゃんにはカメラマンをやって貰うからよろしくね!」
「あいよ、適当にカメラ持って回しとけばいいんだろ? 任せとけ」
「もっとプロ意識持たないとダメだよ?」
「いいんだよプロじゃねーから」
俺としては、祭理が危なくなったら助けられるように、できるだけ近くに居られれば良いのだ。
「あと、これ」
祭理はタンスの中から、両手で抱えられるサイズのダンボール箱を取り出した。
中を開くと、そこには女性がよく使っているような化粧品や香水の他に、黒髪のウィッグと女物の衣服が詰められていた。
「……なんだこれ?」
嫌な予感がした。
思わず頬が引き攣る俺に満面の笑みを向け、祭理は言った。
「お兄ちゃんには女装して貰うね」
「……えなんでぇっ!?」
祭理の衝撃の発言に、俺は目ん玉を飛び出させながら(※イメージです)全力でツッコむのであった。
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