保安官と農民 その2
次の日、地助は藤原の屋敷の門までやってきた。屋敷は都の城にも張り合えるほどの大きさである。
「なんのようだ、農民⁉︎」
二人いる門番のうちの一人が、大男を問い詰めた。地助は一礼した。
「失礼。私は藤原金成様に会いに来たのだ。お通しを願う。」
「はあ⁉︎」
もう一人の門番が威嚇を試みた。
「図に乗るなよ! この農民風情が! お前のような卑しき身分が…」
門番は地助の眼光に威圧されてしまった。」
「……どうぞお通りください。」
「すまない。ありがとう。」
地助は再び一礼すると堂々と敷地の中に突き進んだ。門番同士は内緒話を始めた。
「えっ、ちょおま、なんで通したんだ?」
「お前はあいつの闘争心を研ぎ澄ましているような目つきを見なかったのか⁉︎ まるで吸血鬼だ⁉︎ それにあの逞しい体つき。俺らで勝てると思うか?」
「お前も武士だろ⁉ あんな農民俺らが力合わせれば、勝算は二割程あるぞ?」
「やっぱ返り討ちに遭う確率高いじゃん! びびってんなお前も!」
そんな門番二人の会話など耳にせず、地助は堂々と進行した。しばらく屋敷の中をウロウロると、門番にいた二人と違う兵士らが彼に迫ってきた。
「ようこそ旦那、金成様があなた様をお待ちしていましたよ。」
「なんと⁉」
地助は素直に驚いてしまった。
「金成様は私の本願を既にご存じということでございますか?」
「そうですとも、ささ。でもまずは髪を整えなくては。金成様は短髪がお好きなのです。」
「そうなのか? 了解した。」
納得した地助はドスンと地面に座ると、ハサミを持った使用人が背後を取り、ばっさばっさっとあっという間に地助の髪を短くした。
「ささ、どうぞ。あちらにお座りください。」
地助は言われたままに、地面にあったワラの座敷に屋敷が見える方向で座った。
(しかし、私の事情を汲み取っていたとは…求めれば与えられるものだ。)
地助はそう考えていると、無数の兵士が彼を囲み、太った男が、上座に現れた。その時の地助にとって彼は轟々しく映った。
「金成様〜! 我が妹は病弱で苦しんでおります! 何とぞお薬の費用を…」
「こやつがワシに楯突いた侵入者か?」
「ハハッ。」っと返事をしたのはなんと先程の 優しそうな侍だった。地助は驚いていた。
「そ、そんな! 私は金成様に楯突いた覚えなんてない!」
「黙れ、農民!」
金成は一喝した。地助はさっきまで聖人に見えていた藤原や周りの侍を、悪魔のように感じ始めました。
「貴様のような下劣な人種が我が屋敷に入ろうなど、御法度である!」
「で、ですが殿! 我々はどうしたら願いを聞いてもらえるので! あなたはこの安口村の英雄のはずだ!」
「……先程妹が病気で苦しんでいると言ったな。…よい気味だ。」
「なっ、なんと⁉︎」
地助は今まで神格化された侍が崩れかけていた。
「いい気味だと言ったのだ。お前たちはこの残酷な国で苦しみながらもがくために生まれたのだ。」
「わっ、私ら農民は! 収穫の半分以上はあなた方侍に納めております! それは私たちの生活を良くして、守ってくださるためではないのですか⁉︎」
「間抜けがペラペラとほざいておるわ。」
金成は地助の思いを心の底から嘲笑った。
「下が上に差し出すのは義務で法律である。貴様らを守る義理など、毛頭ないわ!」
そう言い切ると殿と侍たちは、一斉に地助を大声で嘲笑った。
「決めた!」
金成は扇子を畳み、それで地助を指差した。
「お前は極鉄牢に連行する。家族も調べて晒し首だ。お前は己の軽率な判断で家族が死ぬことを悔やみ、苦しみながら牢獄で餓死するがいい。」
「うわあああああ!」
それから地助は絶望と悲しみと怒りで暴れたが、多勢に無勢。武器を持った数人の侍たちに生身の男が敵うはずがなく、しばらくしてから取り押さえられ、そのまま安口村より東に位置する、重罪人の倉庫とも名高い極鉄牢に幽閉されることになった。
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