第12話 VS赤髪ゾンビ
「とりあえずゾンビは殺す!その後、お前には全てを話してもらう!」
言い合いに業を煮やした赤髪ゾンビは再び臨戦態勢をとり腰を深く落とす。と同時に、その右手に突然赤い刀が現れた。夕方にイトとアピリスが襲われた時にも持っていたものだ。ついさっきまでは確かに何も持っていなかった。
「こりゃコッチの話は聞いてくれそうにないな。センセイ?」
「はい、先ずは落ち着かせましょう。――――緊急治療を開始します!」
アピリスはニードルガンに手をかけ、ジョージはその前に立ち臨戦態勢を取る。
赤髪ゾンビの特徴は事前に話に聞いていた通りだった。異様に身軽な身体能力と、赤い刀。それらが彼女の持つ特殊な能力なのか、それともまだ秘密があるのか。
どちらにせよ、作戦を決まっていた。
ジョージが相手の動きを止めているうちに、アピリスがニードルガンで心臓に治療針を打ち込む。もしくは、心臓以外にしか治療針を打ち込めない場合は、ジョージの能力である圧縮電気で治療針を活性化させるか。どちらかで、相手のゾンビ症状を抑え込むのだ。
どちらにしても、ジョージの役割は盾となって敵の動きを抑え込むことだ。
予想通り、赤髪ゾンビは高く跳び上がり、刀を構えて斬りかかって来た。自由落下の相手を迎撃するのはゾンビ化したジョージなら容易い。だが――――やはりそう簡単にはいかない。赤髪ゾンビは空中を蹴ったように急に速度を上げた!タイミングをずらされたジョージは危機一髪でその刀の一閃を避ける。
「「くそ!」」
期せずして同じセリフをジョージと赤髪ゾンビは吐いていた。
赤髪ゾンビはそのまま地上戦を仕掛けて、赤い刀を何度も振り回してきた。剣の技術は、ジョージもアピリスも詳しくはないが、恐らく高いものではないだろう。だがゾンビ特有の高い身体能力で矢継ぎ早に繰り出される斬撃は脅威だ。ジョージは何とか間一髪で避け続けるが、アピリスがニードルガンを撃ち込んで当てられるような隙は無かった。
(このままじゃどうしようもない・・・仕方ないか!!)
ジョージは心の中で決心をする。膠着状態を打破してさっさと戦いを終わらせるためには、どうせ元々傷の一つや二つは追う覚悟だった。刀を受けて、相手の動きを止める!狼男ゾンビの時もやったことだ。
(ちょっとは痛いことは痛いんだけど・・・・!)
好んでやってるわけではない事を、心の中で誰にともなく言い訳して、赤髪ゾンビが刀を振り下ろすタイミングに合わせて相手を捕まえに行く。
(肩口ぐらいは斬られるだろうが、上手く骨で受け止めれば!!)
そう覚悟していた―――――
ゴス・・・!!
「あれ・・・!?」
思いのほか鈍い音と衝撃。肩口に打ち据えられた刀は、痛いことは痛いが、思っていたものとは違った。
斬れていない。
体が受けたのは鈍器で殴られたような衝撃だ。刀に見えるが、刃物ではなかったようだ。模造刀のようなものなのか?
(斬られるわけじゃないのか!?)
やや混乱しながらだが、刃物じゃないと分かれば心持ちは楽になる。赤髪ゾンビそのまま刀を滑らせて振り抜くが、斬れないと分かればそれは無視だ。そのまま当初の予定の通りに赤髪ゾンビに掴みかかる。動きを止めてアピリスが治療針を撃ち込めば、あとは何とかなるのだ。
だが、次の瞬間・・・刀が振りぬかれた後に、その部分の腕がズルリと切断された。
「え!?」
ジョージは驚くよりも困惑が先に来た。腕が斬れるタイミングが、刀の動きに対してすこしズレている?
「ジョージ!」
アピリスも声を上げる。こちらは悲鳴も含んだ叫びだ。ニードルガンを構えるが、ジョージと赤髪ゾンビが密着しすぎていて撃つことができない。
「チッ!」
赤髪ゾンビはアピリスの事は目に入っていないようだった。その一方でジョージの腕を斬り落としたという結果にも満足してはいないようで、そのまま返す刀で首を狙いに来る。
(ヤバい、よく分からんが、斬れることは斬れる!!)
ジョージは、刀が斬れない得物であるという認識を早々に訂正した。何かの秘密があって、受ければ斬れる!!
とは言え今から逃げることも体術で反撃することも難しかった。となればやることは一つだ。
「くらえ!!」
圧縮電気を撃ち放つ!!
触れるほど接近していた赤髪ゾンビは、ジョージの皮膚の表面から発せられた強力な電撃に弾かれた。やや予定は狂ったが、このまま赤髪ゾンビを捕まえて、アピリスが治療針を撃ち込めるようにしないといけない。ジョージは掴みかかろうと迫る。
「くそっ!!」
が、あと一歩のところで赤髪ゾンビは体勢を立て直し、飛び跳ねてジョージから距離を取る。単に圧縮電気を食らわせたためでは有効打にならなかった。そして、電撃を受けたことへの怒りを露わに、再び刀を構えてジョージに飛び掛かる。
(ヤバい!!)
ジョージは声を上げるヒマすらなく、頭をフル回転させた。腕くらいなら斬り落とせるほどの攻撃だ。しかも単純に刀で斬られるというわけでもないようだ。その正体が分からない現状では、どう防御しても防ぎきれるか分からない。
そんな状態で、赤髪ゾンビとまともに組み合うのは危険すぎる。だが、自分が何とかしなければ、アピリスの治療針を撃ち込むことはできない。なら結局、斬られること覚悟でまた組み付きに行くか・・・・?
答えを見いだせず反応が遅れる――――。
その時動いたのはアピリスだった。
バシュ!バシュ!バシュン!!
ニードルガンを連発する。ジョージと赤髪ゾンビの距離が開いたことで、射線が取れていた、その隙を見逃さなかった。
気勢を制された赤髪ゾンビは刀で治療針を数本打ち払いながら、横跳びになり残りの針を避けた。
「ジョージ!下がって!!」
アピリスはそのままジョージの前に飛び出した。
「センセイ!?」
「あの切れ味の刃物相手じゃ接近戦は分が悪いでしょう!?ここは私が!」
「いやでも危な・・・」
「私に『一人で抱え込むな』なんて言って、自分は一人で戦おうとしてるんですか!?私達は2人で戦ってるんでしょ!?」
そう言いながらアピリスはニードルガンで赤髪ゾンビを牽制する。空中を軽やかに飛び跳ねる相手に治療針は当たらないが、あちらも警戒して突っ込んでは来ない。
その様子を、少しの間ポカンと眺めてから・・・ジョージはやれやれと自嘲気味に笑みをこぼした。
「確かに、俺にしてはちょっと頑張ろうとしすぎたか。・・・じゃあアイツどうしたらいいか、考えてよセンセイ」
「いきなり丸投げしないで!取り合えずその腕大丈夫なんですか!?」
「たぶん・・・」
腕を拾ってくっつけたいが、赤髪ゾンビが周りを飛び回っている中でそんな余裕はない。今はまだアピリスの撃つニードルガンを警戒して接近してこないが、ちょっとでも気を抜けば一気に接近してくるかもしれない。
「とにかくあの機動力と、刀の切れ味が厄介だ。奴の能力の秘密が分かれば打開策も思いつくかも知れないが・・・」
「その事なんですが、気になる事があって。
ジョージが彼女に電撃を浴びせた時に、電気の光がジョージと彼女の間だけじゃなくて、彼女の体から周囲に向かって走っていったんです。まるで線を伝うように何本も」
「線を伝うように?それって・・・」
ジョージはアピリスの話を基に思考を回転させ、今まで見た光景を振り返る。鮮やかな赤い髪、空中を蹴るように駆ける動き、突然現れる髪の毛と同じ赤色の刀、そして、刀が振りぬかれた後に切断された腕・・・。
「もしかして・・・!?」
ジョージは一つの仮説を導き出していた。
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