生存部の日常、または多すぎるめがねっ子ヒロインたちの物語

いおにあ

第1話


「はわわわわわっ、加賀見かがみくんあぶないっっっ!!!!!」


 かん高い声を響かせながら、ドッシーンッ・・・・・・!と俺にぶつかってきたのは、クラスメイトの美波みなみ夏希なつきだ。


 衝突の拍子に、盛大に尻餅をついた美波。丸眼鏡と三つ編みがチャームポイントの、ドジっ娘だ。


 俺は彼女に声をかける。


「大丈夫か?」

「あいててて・・・・・・うん、大丈夫。加賀見かがみくんも、怪我はない?」

「ああ。つーか美波みなみ、どうして朝っぱらから全力ダッシュしてたんだ?」


 朝のホームルームには、まだだいぶ時間があるのだが。


「だって遅刻しそうだったし・・・・・・」

「は?始業まで、まだ二〇分くらいあるぞ」

「え・・・・・・?」


 腕時計をに目をやる美波。それから、校門近くに設置されている時計台に視線を移す。


「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!この時計、三十分以上も進んでいるー!!」


 学校中に響き渡るような大声をあげる美波。そのうるささに思わず耳をふさぐ俺。


「ったく・・・・・・ちょっとは確認しろよ。というか。なんで腕時計がそんなに遅れているんだよ」

「だってえ・・・・・・最近、またタイムリープが増えているから、その度に調整しているから・・・・・・」


 俺は返事の代わりに、深い溜息をつく。


 そうなのだ。この丸眼鏡のドジっ娘・美波夏希は、時間跳躍ができるのだ。俺が知らないだけで、かなり頻繁に使っているらしく、それで、今現在自分が何時何分にいるのか、分からなくなることもしばしばらしい。 


「とにかく、気をつけろよ。あまり時間移動ばっかりしていると、色々とおかしくなるから」

 俺はそう言い残すと、校舎へと向かう。

  


「加賀見くん。こんにちは」


 所属している1年2組の教室に入ろうとしたとき、怜悧れいりさを感じさせる声に呼び止められる。


「はあ・・・・・・なんすか」


 振り返ると、そこには2年1組所属・生徒会長の天竜院てんりゅういん紗夜子さよこ先輩がいた。


 いかにもインテリなオーラを放っている、スクエア型の眼鏡フレーム。黒く長い、ストレートな髪型。女子にしては身長がかなり高い。


 俺のジト目視線にも、一切臆することなく、紗夜子さよこ先輩は話を続ける。


「あなたが申請書を出した、“生存部”に関してだけれど・・・・・・生徒会で、色々と突っ込まれているわよ」

「はあ、そうですか」


 曖昧に受け流そうとする俺だが、先輩は見逃してくれない。


「大体、なにかしから?活動内容が“生き抜くこと。以上”って。あまりにも、部活動という存在をバカにしているのじゃないかしら?」

「いや、大切なことじゃないですか?生きること。なにはともあれ、生きていかない限り、生徒会の掲げる“健全な学生生活”も遅れないわけですし」

「でも普通、部活動といえば、もっとこう、活発なものでしょう?」

「そりゃ、先輩たち生徒会みたいな陽キャはいいですよ。でも俺みたいな根暗な陰キャ連中にとって、こんな閉塞的な学園では、生きているだけでも精一杯なんですよ。だから、こういう“生存部”の活動は、絶っ対に必要不可欠なんです」

「私にここまで反論できている時点で、あなたが“陰キャ”の部類に入るとは思えないのだけれど・・・・・・まあいいわ。あなたの言い分はよく分かった。でもひとつ。部員数が一人足りていないわよ。校則では、六人から部活動として認められるのよ」

「え、そうなんですか?」


 それはうっかりしていたな。あと一人、誰か生存部に入ってもらわないと・・・・・・。


 俺は、目の前の紗夜子さよこ会長を見ながら、ふと閃く。


「あ。だったら会長が入ってもらえないですか?」

「は?どうして私が入らないといけないのよ」

「だって紗夜子さよこ先輩、生徒会選挙のとき行っていたじゃないですか。生徒の頼み事は、常識の範囲内ならなんでも引き受ける、て。生きることだけが第一の目的の、生存部への入部は、常識の外にあるんですか?」

「むむむ・・・・・・そう言われると、言い返さないわね。こんなことで公約を破るのは、不本意だし・・・・・・仕方ありません。私も生存部へと入りましょう」

「やったー!」


 俺は思わずガッツポーズをとる。これで、生存部は、無事に許諾が降りそうだ。


「それじゃ、後で部室の方にお邪魔するわね」


 そう言うと、紗夜子さよこ会長は、去っていった。



「さて、と。ようやく教室に入れるな・・・・・・」


 そう思い、教室に足を踏み入れようとしたとき。


 グイッと俺の襟首を引っ張る感覚、俺は引きずられるようにして、廊下に逆戻りする。


 俺は、恐る恐る振り返る。そこには、サングラスと金髪のポニーテールがトレードマークの1年5組所属・鷲塚わしづか阿泥琉あでるがいた。


「おい、加賀見。隣の如月市で、またしてもフォーマルハウト星人の襲撃だ。ちょっと力貸してくれ」


 俺の抗議も返事も聞かず、阿泥琉あでるは俺を校門まで引っ張る。


 このヤンキー娘・鷲塚わしづか阿泥琉あでるも、実は生存部の立派な一員だ。ダメ元で勧誘したら、割とすんなり入ってくれた。ただし、彼女の宇宙人撃退を俺が手伝うというのが条件で。


 ただの電波ヤンキー娘のたわごとだと、ほいほいと引き受けたのがよくなかった。マジでコイツは、地球を侵略しようともくろむ異星人たちと日夜戦い続ける戦士だった。


 校門には、阿泥琉あでるの部下たちが、。既に待機している。どう見ても暴走族の一団なのだが、これでも立派に地球侵略を阻止している、地球防衛軍なのだ。


 俺は阿泥琉あでるのバイクに乗せられる。


あねさん、いきますぜ!」

「おうよっ!」


 ブロロロロロ、バババリバリバリ、と盛大なエンジン音を鳴らしながら、バイクの一団は、猛スピードで、隣街へと向かう。


「毎回思うんだけれど、俺、なにかの役に立っているのか?戦闘力ゼロなんだが」

「なーに、お前がいると、士気が上がるんだよ」


 阿泥琉あでるはそう言う。


 やれやれ。本当、生存部の連中は揃いも揃って、変人ばかりだ。おまけに、全員めがねキャラときている。


 だがまあ、それも悪くないかな。この騒々しい日常を、俺はそこそこ気に入っている。


 そうそう。生存部にはあと二人、これまたぶっ飛んだメンバーがいる。彼らの彼女らのことも、いつかまた紹介しよう。

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生存部の日常、または多すぎるめがねっ子ヒロインたちの物語 いおにあ @hantarei

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