第38話 夢の国
ディズニーランドには新宿から出ている直行便のバスで行くことにした。
乗り換えなしで座っていけるし、渋滞に巻き込まれなければ小一時間で着くので楽でいい。
実をいうと、東京駅の地下深く潜る京葉線が苦手なのだ。
こういうのを閉所恐怖症というのだろうか。
エスカレーターで降りながら、足が震えた覚えがある。
いま地震が来たらなんて考えると身がすくむ思いがする。
ペーパードライバーのカイがレンタカーを借りるというのも却下した。
ゲームの中ではあるが、スピード狂の彼が安全運転など出来るはずもない。
どのアトラクションよりもスリルを味わうことになるだろうと想像がつく。
夢の国へのご招待は、カイからの誕生日プレゼントである。
ホテルに一泊するので、ゆっくりと見学できそうだ。
私が以前に行ったときは、人気のアトラクションだと並ぶだけで時間を費やしヘトヘトになった。
日帰りだとパレード以外は、せいぜい4つくらいしかトライできなかった。
折角のファストパス(現在は廃止)も結構な時間、並んだ記憶がある。
当日は予報だと晴天のはずが、家を出るときはどんよりとした曇り空だった。
それもディズニーランドに着く頃には、気持ち良く晴れ渡った快晴に変わった。
開園10分前に着いたので、そのままゲートに並んだ。
前に来たときは中国の春節の時期だったので混雑に拍車をかけた。
マナーが悪く、並んでいる列に割り込むのは決まって中国人だった。
香港にディズニーランドができてからは、来園は減ったのかもしれない。
「入ったら最初にお土産買って、コインロッカーに荷物預けてから、ウエスタンランドに行こうか」
「最初にお土産買うの?」
「そう、帰りだと混むから最初に買っちゃうほうがいいし、前はいっぱい買ったから、その場で宅配で送ってた」
「へぇー、俺はサークルのやつらに菓子折りでいいや」
「私も会社と大家さんにだから、ロッカーに入るし荷物も少ないし」
平日なので、すんなり入場できたのはラッキーだった。
まずはワールドバザール内のグランドエンポーリアムでお土産を買う。
カイも私もミッキーの形のクッキーにした。
荷物をロッカーに預けて、ウエスタンランドに向かう。
お目当てのビックサンダーマウンテンはスタンバイパス(現在は廃止)に合わせて10:15の予定だ。
それまでウエスタンランド・シューティングギャラリーで射撃を体験する。
「ラッキー」と表示されたスコアカードが出て、ゴールドの保安官バッジをプレゼントされたカイは上機嫌だ。
蒸気船マークトウェイン号では”タイタニック”をやりたがるカイを必死に止めた。
アイツはTPOというものが、まるで分っていない。
ビックサンダーマウンテンではカイの石が流れることを祈りながら、
最後尾の席を譲ってもらったので、かなり揺れて怖い思いをした。
「乗れて良かったね、2月から休止なんだって」
「水いっぱい飲まなきゃ、尿道に詰まったら七転八倒する」
アドベンチャーワールドではキャプテン・ジャック・スパロウの「カリブの海賊」
で海賊気分を満喫した。
やっぱジョニー・デップは、カイの次にカッコいい。
ファンタジーランドでイッツ・ア・スモールワールドとホーンテッドマンションを見たら、パークワイドでのパレードを見る。
順調に予定通りの日程をこなしている。
シンデレラ城の前で写真を撮ろうとしたら、通りがかりの人が撮りましょうかと声をかけてくれた。
「おかあさん、もう少し右に寄ってください」
そんな風に言われて、お礼も言わずにカイが怒っている。
「だって、ほんとに親子ほど離れているんだから、しょうがないよ」
ここでは寛容が肝心ですよ。だって夢の国なんですから。
「エレクトリカルパレードは明日見るから、早めにホテルに帰ってゆっくりしようか」
「結構、いっぱい見れたね」
「だね、私のリサーチに感謝だよ」
「頼もしいおかあさん]
「お前が言うな!」
ホテルにチェックインしたのが18時20分ころだった。
さすがにディズニーホテルだけあって、お城のような豪華絢爛な造作で、お口があんぐりである。
ディズニー映画の美女と野獣の一場面に入り込んだ錯覚になった。
案内されたお部屋も至る所にミッキーがいて、まさにディズニー仕様である。
「ねぇ、腹減った、疲れちゃったからテイクアウトメニューにしようよ。俺はローストビーフ丼、ゆりっちの好きなロコモコ丼もあるよ」
「ほんとだ、部屋で食べられるのいいね」
食事の後に、シャンプーを忘れたとか言いながら、カイがお風呂に行く。
やっぱ、あのシャンプーじゃないとダメとかブツブツ言いながら出てきた。
ベットに腰掛けスプリングを確かめながら、カイが言う。
「すごいね、ミッキーだらけじゃん。ミッキーに見られながら、致すのってゾワゾワしない?」
「夢の国では、そんなことは致しません」
「うっそー、せっかくイボイボのゴム持ってきたのに~ひどい」
「・・・」絶句。
「えっ、もしかしてイボイボに反応したの?ムラムラしちゃった?」
「いいから、そこ片づけて、こぼしたら大変だよ」
テーブルの飲みかけのジュースを片付けるように言う。
「氷の女王かよ」
口をとがらせて、スマホの画像チェックをするカイ。
私がお風呂から出てくると、カイはベットのど真ん中で大の字に寝ていた。
なんで寝てるんだよ。子供か。
ゾワゾワもムラムラもしなかったけど、ワクワクはしてたんだよ。
邪魔だから床で寝ろ!
<レベル40>
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