第36話 確かめたかった

1月3日、きょうは秋田からカイが帰ってくる。

昨日も色々と予定していたことがあったのに、何も手につかなかった。

まだ暗い明け方から目が覚めて、ワッフルを焼いた。

冷凍しておくと、ちょっと小腹が空いたときにチンして食べられるので、重宝する。

カイの好きなチョコをかけたものを大量に作ってしまった。


昨夜の電話では、帰宅は17時頃と言っていた。

天気がいいので、布団を干してホカホカにしておこう。

パリパリのシーツに替えて、新調したパジャマも用意しておかなくちゃ。


ピンポーーーン

インターホンが鳴った。

宅急便?それとも来客?

そうだ、大家さんがみかんをくれるって言ってたんだ。

ドアを開けて声を失う。驚きすぎて息が詰まる。

「ただいま」

咄嗟に体が反応した。

荷物で両手がふさがっているカイの胸に飛び込んだ。

不意を突かれたので、ちょっとよろけてお土産の入った紙袋を落とす。

構わず抱きついて腰に手を回し、コートをギュっとつかんだ。

顔をうずめると、間違いなくカイの匂いがした。

「えっ、なになに、どうしたの」

声を聞いたら勝手に涙が出る。

なんで泣いてるのかもわからない。

嬉しいんだから笑わなきゃ。

それでも涙が止まらない。

「泣かしちゃった。サプライズ、失敗・・・」


思い返せばカイが隣に引っ越してきてから、いつも存在を意識して半年余りを過ごしてきた。

喧嘩をして会わなくても、そこにいることはわかっていた。

それだけで確証したかのように、根拠のない安息の中に浸っていた。

あまりにも大切で、かけがえのないのあるものになってから失うのが怖くなった。

黒い霧のような不安が、少しづつ私の心を支配する。

カイを見失うのが怖くて、伸ばした手が届かない気がして。

だから確かめたかった。

この手でカイのを確かめて、安心したかった。

手にした荷物を置いて、強く抱きしめてくれる大きな手。

いつまでも、その手に守られる私でいたい。

「グスン、、、朝の5時にワッフル焼いてる女ってどうなの」

「イタイけどかわいい」

いまさらカッコつけたって始まらない。

カイはいつだって正直だ。

誰が否定しようと、カイが可愛いと言ったら私は可愛いのだ。

イタイ女は百も承知。

これからも私は何度も確かめるだろう。

隣で寝息を立てているのがカイだということを。

好きといった言葉が嘘じゃない証明に唇を重ねてみる。

明日も繋がってると、確かめるために肌と肌を合わせる。

残り香がカイで、私はスーっと息を吐いて安堵する。


「寒いから部屋に入ろうか」

「なに、この荷物、行くときの10倍はあるじゃん」

「これもあれもって持たされちゃった。今日はきりたんぽ鍋にしようか」

「食べたことないかも、ちょうどよかった。鍋物用の野菜があるし」

たった2日の不在でカイの存在を再認識した。

彼は私以上に私の理解者であり守護者だと思う。

私を見つけてくれて、ありがとう。

あなたが私を選んでくれたから、私は私を少しずつ好きになれそうです。


寂しがり屋の私に<レベル70>

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