第31話 大雪警報


窓を開け「すげぇ、すげぇ」を連発している。

真冬の冷気が、肌を突き刺すように襲ってきた。

布団を手繰り寄せ、顔を隠すようにして丸くなる。

「雪だるま作ろうか」

いえいえ、痒いしもやけになるだけです。

それよりも窓を閉めて、もう一度寝てください。

夜が明けやらぬ暗い中、雪に無邪気にはしゃぐ純真な心を持ち合わせてはいません。

カイは飽きもせず、ずっと窓の外を眺めていた。

初めてでもあるまいし、何をそんなに珍しがってるのだ、

目が覚めてしまったので、仕方なく起き出して隣に座ってみる。

「ゆりっちとの、初めての雪」若い男は意外とロマンチック。


大雪警報の天気予報は的中した。最近では珍しいほどの積雪だ。

しかも12月後半の降雪は、今年の厳冬を表していた。

吹き溜まりの手すりには10cmくらい積もっていた。

辺り一面の銀世界。何もかもが雪に埋もれ、景色が一変している。

汚いもの、見たくないもの、それらを包み隠してしまう魔法の粉だったらいいのに、、、


カイが自分で掛けてたブランケットを半分譲ってくれた。

「ねぇ、ゆりっちは最初、俺のこと嫌いだったでしょ。こっちに来んなくらいの扱いだったし。どうして好きになってくれたの?」

「急に質疑応答ですか、いいですよお答えしましょう。嫌いって言うより苦手、イケメンって鼻持ちならないのが多いし、グイグイ来るところがやっぱねって思った」

「正攻法でいって死ぬとこだったじゃん、危ねぇ」

「そういうことだね」

「で、俺のどこが好きになったんですか」

「イケメンなところ」

「なんだよ、それ。意味わかんねぇ。顔が嫌いじゃなかったの」

「だから、ここ、顔じゃない、ここがイケてたの」

カイの心臓を指で刺す。ドキっとした顔が可愛い。

「そのビックリドンキーな顔も好き。あと横顔も好き。鼻すじがスーーーと真っすぐで綺麗、その下の薄い唇も、長い睫毛まつげも好きかな、それと髪、朝起きた時のクシャってした髪、もっとクシャクシャにしたくなる」

「結局みんな好きじゃん」

この混じりっ気のない景色の中では、人は純粋に正直な心と向き合うのかもしれない。

「うん、知れば知るほど好きになった。いまね、どうしようもなくカイが好きだよ」

「俺もゆりっちの健気なとこが好き。なんか守りたくなる」

「健気さなんて、これっぽっちもないよ」

「自分じゃ気が付かないんだよ。大袈裟かもだけど、一生懸命に生きてる感じ」

カイ、それって地雷だよ。

私がひた隠しにして必死に守ろうとしていた最後の砦、こじ開けてどうする。

『真面目・誠実』のワードで括られて身動きできなくて、

でもそういう生き方しか出来なくて、いまさら『一生懸命』とか笑っちゃうよ。

「自分の人生、一生懸命に生きて何が悪いんだって思うよね」

カイに肯定されて、色んな言葉を呑み込んだ。

この人の前では、全てが言い訳になってしまう。

そう、ありのままの私でいたい。

「全力でここまで来ました」

「俺も、ゆりっちに追いつけるように走ってここまで来ました」

空がゆっくりと明け始めた。人生で初めての朝焼けかも。

「あのさぁ~雪だるまより雪かきしなくちゃ」

「???」

「階段、凍ったら危ないの、大家さん高齢だからできないよ」

幻想の世界から一気に引き戻されてもカイは笑っていた。

「だね」

帰宅すると、アパートの周りや道路まで除雪してあった。

カイは大家に感謝され、あまおうという高級な苺を貰って上機嫌だった。

「これ、メチャ甘いの、うんめぇ~」

あなたのお陰で転ばずに、帰ってこれたよ。

いつだって、あなたは私の道標。

手招きして正しい道にいざなってくれる。

そっちは暗いから、こっちへおいでよ。

鬼さん、こちら。

鬼さんは急に明るい場所に引き出され戸惑ってます。

お風呂場にあった、小さな雪だるまのように

あなたの陽だまりに溶けちゃいそうです。

除雪を頑張ったカイに<レベル95>

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