不幸を平等に

ポンタ

第1話 疑惑

 6月、三者面談。

 あった瞬間に呼吸が一瞬止まる。心臓が強く締め付けられるのを感じた。

「初めまして。玲香の父親です。娘がいつもお世話になっております。」

 深々と一礼する。その男は物腰が柔らかくとても丁寧で紳士的だ。

「いえ、初めまして。担任の乃木です。」

「娘から聞いています。何度もご挨拶しようと思ってたんですが、なかなか時間が取れずで。」

「いえ・・・座ってください。」

「失礼します。」

 片手で椅子を引き、スッと腰掛ける。

「・・・。」

 なんと言えばいいのだろうか、うまく言えないが立ち居振る舞いが上品だ。

 ガタイが良くて髪は短髪。少し日に焼けていて健康的な印象。好印象とはこの事を言うのだろうと感じた。


 この男が本当にあの男なのか?


 おぼろげな記憶はあるが、こんなに至近距離で見るのは初めてだ。

「・・・。」

「どうされましたか?」

「いえ、とてもスマートな方だなと思って。」

 嘘ではない。素直にそう思った。

「とんでもないですよ。娘からはいつも煙たがられて、なぁ。」

「・・・。」

 娘の玲香を見ると一切表情を変えずに斜め下を見ている。そこにも若干の違和感を覚える。

「で、先生、娘の学校生活はどうでしょうか?」

 父親は娘の表情などは気にせずに話を振ってくる。

「ああ、そうですね、とても真面目でしっかりしていると思いますよ。」

「そうですか!それは良かったです。」

 満面の笑みを見せる。


 ・・・・。


 こちらの心臓の鼓動が早くなる。どんな表情をしていていいか困惑する。ある程度予測が立ち、覚悟はいていた。

 だけど実際に会うとこんなにも衝撃があるとは想像できなかった。


 この男が、本当に・・・俺の兄貴を不幸にした人物なのだろうか・・・。


 目の前の男はあまりにも好印象すぎる。

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