魔法の飴玉で大人になったら、叔父さんの様子がおかしい。
ありま氷炎
第1話 エミリアは魔法の飴を手に入れた
「お前ぇ。娘に手出しやがったら、弟と言っても容赦しねーからな!」
「何、言ってるんだよ。兄さん!」
冒険者であるザカリーは弟トビーの胸ぐらを掴みながら叫ぶ。
「心配なら、いかなきゃいいだろう!僕だって、別に預かりたくて預かるんじゃないんだから」
「トビー叔父さん、私が嫌いなの?」
「嫌いじゃない。ただ、君もお母さんたちと離れるのは嫌だろう?」
「嫌じゃないよ。だって、トビー叔父さんと一緒だもん」
「うわあ、心配だ。本当にトビー、大丈夫だろうな?」
「あったりまえだろ!」
トビーは小さな薬屋を営む二十六歳の青年である。
そして今彼に抱きついているのは、兄の娘、六歳の姪エミリアであった。
「僕は変態じゃないんだから!」
「ザカリー、いい加減にしてちょうだい。こんなみんなの前で。トビーくんにも迷惑でしょ?私は別に行かなくてもいいのよ」
「行く。あれは俺が待ちに待った獲物なんだ。しかもすでに被害が出ている。俺が行かなくて誰が行く」
「だったら行く。ほら、手を離しなさい」
ザカリーの妻ネヴィアがきつい調子でそう言うと、ザカリーは渋々手を離した。
「エミリア。俺たちは一週間で帰ってくる。もしトビーがおかしな真似をしたら、これを使え」
ザカリーはぽんぽんと娘の頭を撫で、小さなナイフを渡す。
「な、何、渡してるんだよ!兄さん」
「なんだ、心配か?やっぱり」
「もう、ザカリーいい加減にしなさい。エミリア。トビーくんは大丈夫だと思うけど、世の中には変態がいるから、それを持っていなさい」
「へんたい?」
「うん。変態」
「あなたたち、エミリアに何を教えてるんですか!まったく。行くならいってください」
「ちっ、うるせーな」
「ごめんね。トビーくん。娘をよろしく」
冒険者夫妻は騒ぎで集まった民衆に見守られながら、隣町で暴れている魔物を退治するため、街を出て行った。
「さあ、エミリア。朝食を食べましょうか」
「うん」
トビーに微笑まれ、エミリアは満面の笑みを返した。
冒険者夫妻の娘エミリアは、優しい薬師の叔父さんが大好きだった。父のように乱暴者でなく、近所の男の子のように意地悪もしない。
お菓子も作ってくれて、エミリアにとってトビーは大切な人だった。
☆
「お前さあ、叔父さんが好きって言っても、ずっと一緒にいられないんだぞ」
「どうして?」
「だって、叔父さんだってそのうち結婚するだろ?」
近所の男の子に好きな奴がいるかと聞かれ、叔父さんと言ったら大真面目にそんなことを言われた。
「けっこん?」
「男と女が一つ同じ家で暮らすことだよ。お前の両親もそうだろ」
「だったら、私も一緒に住む」
「だめだぞ。一人の男に一人の女っていうのが決まりだからな。叔父さんが一人の女と結婚したら、お前はもう一緒に住めない」
「そんなの嫌だああ!!」
エミリアは男の子が困るくらいに大声で泣き、騒ぎを聞きつけたザカリーに男の子は死ぬほど怒られた。流石に子供を殴ったりすることはなかったが、男の子は怯えて、それからエミリアに話しかけることはなかった。
その日からエミリアは結婚について考えた。
母のネヴィアに話したところ、エミリアが大きくなってトビーがまだ結婚していなかったら、結婚を考えましょうと言われ悲しくなった。
エミリアは今六歳。大人になるまであと十年もある。きっとその間にトビーは結婚してしまうと絶望に酔いしれる。
娘が急に静かになり、時たま泣いているのが心配になったネヴィアは、友人の魔女に相談してみた。
それが間違いだと気がついたのは、ネヴィアが隣町から戻った時である。
「そうか。エミリアは大きくなって、叔父さんと結婚したいんだね」
「うん。きっと私が大きくなるまで叔父さんは待ってくれない。だからその前におっきくなって叔父さんと結婚するの」
「そうか。うん。この私がエミリアの願いを叶えてあげよう。その代わり、エミリアの可愛い声を私にもらえるかい?」
「うん。いいよ」
「この飴玉は、エミリアを十六歳の大人に変身させる。でもその時、エミリアは声を失うんだ。それでもよければ、この飴玉をあげてもいい」
「声を失う?話すことができなくなること?」
「うん。そうだ。どうするかい?飴玉はいらないかい?」
「いる。もし困ったら飴玉を食べるよ」
「じゃあ、この小さな袋にいれるね。お母さんにもお父さんにもこのことを話すんじゃないよ。二人だけの秘密だ」
「ふん。二人だけの秘密だね!」
そうして、エミリアは魔法の飴玉を手に入れた。
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