此岸怪文集

湾野薄暗

卒業旅行

卒業旅行で行ったホテルの大部屋での話です。少しでも金額を安くしたかったんで調べていたら安いホテルが出てきて、そこにしたんですよね。レビューはまぁ良かったり悪かったりだったんですけど、交通の便が良いわりには安かったので、レビューもそんなに読みこまなかったんです。

それでホテルに着いたら立地は良いけどちょっと古めのホテルで…。まぁ、泊まるだけだしいいよね〜って友人たちと言いつつフロントに行ったら従業員の方が「この大部屋、クローゼットは使わないで下さい」って言われて。まぁ、お風呂とかではないし「わかりました」って言って部屋に向かったら何も異常のないクローゼットがあって…。「え?使えるじゃん?」と言いながら、結局、コートを掛けたりするために使ったんですよね。

それから喋ったりしてたら時間が経って、みんな寝たんですけど喋ってる時には気づかなかった物音がするんです。それもクローゼットの中から。みんな気分が高揚して眠れてないのでクローゼットの音に気づいたんです。小さい光をつけてたのでお互い顔を見合わせて意を決してクローゼットを開けたんですが何も異変はなくて…。でも閉めたら音がして…。衣擦れの音なんですよ、その音。まぁ、クローゼットを使うなと言われて使ってしまったので従業員の方に言いづらくて、そのまま無理やり寝たんです。そしたら全員が夢を見て、クローゼットに掛けた自分のコートを着た女性にずっと追いかけられる夢でした。髪型も何もかもコートの持ち主と似せてきてて、起きた時には汗びっしょりになってたんですよね。一人がこんな夢を見たんだけど…から始まって全員が同じ夢を見てるのがわかったんです。

その次に気になったのはクローゼットに掛けたコートで恐る恐るクローゼットを開けたら、全部ハンガーから落ちてました。しかもドブみたいな臭いがついてしまって着れる状態じゃなかったんです…。

でも従業員の人は使うなって言ってるところを使っちゃったから何も言わずにチェックアウトしてコートは旅行先で全員、買い直し…ってなっちゃって。

後日、レビューに大部屋のクローゼットは使うな!と書き込んでおこうと思ってレビューサイト開いたら、悪い評価の一部はその大部屋のクローゼットを使った人で「大部屋のクローゼットは使わない方が良い」って書き込んであったんです。本当にレビューを読んでいればよかったです…。


…私達は誰も夢の中でコートを着た女性に追いつかれてないんですがレビューの1つに「追いつかれちゃった」とだけ書いてあるレビューがあって追いつかれたら…どうなってしまうんだろ…って今でも思ってます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る