第73話 頼まれ事


 俺は帰宅した後、五人から出された候補地を基にコースを考えてみたが…どう考えても入れるとキツくなる場所が在る。これは提案者に諦めてもらうしか無いなぁ…そんな事を考えながら翌朝、望と光と三人で電車に乗っていた。


「つー君どうしたの?眼の下の隈…」

「あ?あぁ、チョッと寝不足で…」

「寝不足?」

「うん、修学旅行のコースを考えていたら遅くなっちゃってさぁ」

「そっか、つー君の学校ってコースは自分達で考えるんでしょ?」

「まあな。班の皆んなから行きたい所を聞いたんだけど、全部は無理だから何処を切ろうと考えていたら遅くなっちゃって…」

「お兄ちゃん、誰が出した所を削ろうって思っているの?」

「今の処は一と秋絵が出した一ヶ所づつなんだけどな」

「つー君、一君はともかく秋ちゃんは難しいんじゃない?」

「確かに…でも、其処は何とか押し切らないとプラン自体が崩壊しちゃうよ」

「…何だか、秋ちゃんが拗ねまくるのが眼に見えそうね」

「だよな…まぁ、秋絵が拗ねても雪子が何とかしてくれるだろう…たぶん」

「ふふふ、つー君も秋ちゃんの扱い方は判ってきたわね」

「そりゃまぁ…な」

「おっと、望は降りるか。じゃあまた、帰りな」

「望お姉ちゃん、またね~」

「つー君、光ちゃん、またね!」


 学校に着いて昇降口で光と別れ、教室に入って自席の椅子へ座ると…いきなり睡魔が襲ってきそうになる。頬杖を付いてボンヤリしていると、一と晃一が登校して来て前後の席に座るが…


「翼、その隈は何だよ!」

「…あ、一か。少し寝不足なだけ」

「寝不足って…何時に寝たんだ?」

「確か…3時頃かな」

「3時頃って…何をしていたんだ?」

「修学旅行のコースを考えていたら、そんな時間に…」

「それはまた…それなら僕たちも考えようか?」

「いや、一人で考える方が効率が良いから…それで一、すまんが銀閣は切って良いかな?」

「銀閣か…仕方ないな。良いぞ」

「悪いな。代わりに俺も護王神社は切るからさ」

「翼、そんなにタイトなプランなのか?」

「そういう訳じゃないけど、バスで移動するから時間に余裕を見ないと門限に間に合わない可能性がなぁ」

「門限は厳守って言われているからな」

「じゃあ一、その方向で…あ、雪子と秋絵も来たか。秋絵、ちょっと来てくれ!」

「つー君、おはよう…って隈、どうしたの?」

「あぁ、晃一たちとも話していたんだが修学旅行のコースの事で寝不足でな。それで秋絵、平等院を切りたいんだけど…」

「ええっ?」

「うん、平等院はかなり南に在るから入れると時間的にキツくなるんだよ」

「え~~…」

「一には銀閣を我慢してもらったし、俺も護王神社は諦めたんだ。秋絵も…了承してくれるかな?」

「むぅ」

「秋絵、一君も翼君も諦めた所が有るんでしょ?なら秋絵も譲りなさいよ」

「雪が言うなら…仕方ないわね。つー君、平等院は諦めるわ」

「すまんな。それなら明日にはプランを完成させて皆んなに示して、学校に提出する様にするよ」


 そんな話をしていたら隣の席に近江さんが登校して来た。


「…上野君たち、おはようございます」

「おはよう、近江さん」

「修学旅行のコース、決めたんですか?」

「うん。俺と一と秋絵は一ヶ所づつ断念した場所が有るけどな」

「…それならあたしも…」

「いや、近江さん提案の坂本城なら俺が行きたい日吉大社と組み合わせて行けるし、彼処ならバスじゃなくて電車で行けるから時間も読めるしね」

「…申し訳ありません」

「ま、気にしないで良いよ」

「…はい…」


 何とか一と秋絵から了承してもらい一日中、睡魔と闘いながらどうにかこうにか授業中は居眠りしないで放課後になった。そして帰ってコースを決めるかと思いながら昇降口まで来ると、後ろから俺を呼ぶ声がする。誰だ?と振り返るとクラスメイトの吉田が来た。


「上野、帰りか?」

「ああ、帰って修学旅行のコースプランを完成させようと思ってな」

「すまんが少し時間をくれるかな?」

「別にいいけど…ラグビー部の練習は大丈夫なのか?」

「そっちなら副部長に少し、任せたから大丈夫だ」

「そうか。で、どうした?」

「…実は…修学旅行、上野たちの班に茜を入れてくれたろ?」

「茜!?…近江さんか!」

「うん。俺、茜と小学校が一緒だったんだ」

「へぇ、俺と雪子や秋絵たちと同じか」

「そんな処だよ。でも茜、高校生になったら小学生の頃と全く様変わりしていたんだよ」

「近江さんの小学生の頃って?」

「今と違って活発で明るくて…そうだ、那須と似た感じだったんだ」

「秋絵と?あいつは小学生の頃も今も変わらんけどな」

「それが中学生の間にすっかり内に籠る様になって…茜の趣味って聴いたか?」

「昨日、修学旅行で行きたい所を訊いた時に歴女だとは聴いたけど…」

「それだけ?」

「他にも有るのか?」

「うん、まぁ…茜が言ってないなら俺も言わないが…どうも中学の頃、趣味が女子の中では合わなくて話す相手も居なくて孤立した挙げ句に内に籠ったらしいんだ」

「ああ、何となく解る気はするな。で、俺にどうしろと?」

「…図々しいとは思うんだけど…修学旅行を通して少しでも昔の茜に戻って欲しいんだ。だから上野たち、何とかしてもらえないか?」

「何とかと言っても…吉田は今まで、何かしらやってみたのか?」

「高校に入って直ぐの頃は茜に対して、小学生の頃と同じ様に接したんだけど…そのうちに俺はラグビー部が忙しくなっちゃって会話すらままならない状態で…」

「う~ん…幼馴染みとも言える吉田でもその状態だろ?俺たちが何とか出来るかなぁ」

「だから上野一人とは言わない。コミュ力の高い白幡や那須と日本史が得意な上野、元々の学力が高い秋川や山中の五人なら茜と上手く出来そうだよ」

「はぁ…まぁ、吉田には恩が有るからやってはみるけど、過度な期待はするなよ?」

「うん」

「それと一つだけ、正直に答えてくれ。近江さんが昔に戻って欲しいっていうのは、吉田は幼馴染みとしてか?友達としてか?それとも異性としてなのか?」

「…頼む以上は正直に言うよ。幼馴染みで異性としてだよ」

「ははは、そうだろうと思ったよ。じゃ、とにかく出来る範囲でやってみるよ」

「うん、頼むよ!」


 こうして俺は吉田の頼み事を受け入れたのだが…大丈夫なのかな?

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