そんなのかんた――え!?
「次に、フェンですが……あれ?」
リリムが周囲を見渡すが、フェンの姿が見当たらない。
「フェン? どこですか? フェン?」
「彼女なら、あそこに……」
メリアが指さしたのは側に立っている木の根元だった。そこでまるくなって気持ちよさそうに眠っている。さらさらと流れる風がフェンの柔らかい髪を撫でていた。
「フェン、起きてください、フェン」
リリムがフェンの肩をゆさゆさと揺らす。
「ん……リリムさま……あさですか……?」
普段は大きく見開かれているフェンの目が、今はしょぼしょぼとしている。
「何を寝ぼけているんですか?
「レベ……はっ!」
状況を察したのか、フェンは「かっ!」と大きく瞳を見開いて勢いよく立ち上がった。
「
そんなフェンを見て、リリムとメリアはお互いを見て肩をすくませくすりと笑う。
「フェンの課題はフィジカルですね」
「……ふぃじかる?」
フェンが首を傾げた。
その小さな身体からは想像できないが、フェンの正体は見上げるほども大きな狼だ。その巨体から繰り出される牙や爪は岩や大木をも易々と砕き、巨木も軽々と飛び越えるほどの俊敏さを持つ。
しかし、だからこそ、リリムはそこに成長の余地を感じていた。
フェンのその能力は生まれ持った力である。その恵まれた能力により、奴隷戦士時代は無敗を誇り、また、リリム軍の中でも一級品の実力者として名だたる諸将達に一目置かれていた。
多くの将兵が一生をかけて鍛錬しても及ばない領域に、フェンは生まれながらにいるのだ。
だからフェンはこれまで、鍛錬というものをしたことがない。
逆を言えば、鍛錬をすれば今以上の実力を簡単に得られるということだ。
「うん、これがいいですね」
リリムはフェンが居眠りをしていた木の幹を撫でながらそう呟いた。そして何か唱えると、その木が一瞬光った。
「…………!?」
後ろでリリムのすることを見ていたメリアが息を呑む音が聞こえた。彼女にはリリムが何をしたのかわかったのかもしれない。
リリムはゆっくりフェンの方を向き直った。
「今、この木をわたしの力で強化しました。フェン、あなたはこれを折ってもらいます。それが当面の課題です」
「…………?」
フェンは『そんなに簡単だ』と言わんばかりの顔をしている。それもそのはずだ。狼になった彼女の力であれば、こんな木一本折ることは寝ていてもできる。ゆえに、
「ただし――」
フェンの甘い考えを断ち切るかのように、リリムはぴしゃりと言った。
「狼の姿にならず、今の姿のまま折ってもらいます」
「そんなのかんた――え!?」
さすがのフェンもリリムの付けた条件に驚いたようだ。無表情のフェンにしては珍しく驚きを露わにしている。
「フェン、あなたには基礎能力の向上を目指してもらいます。変身前の能力を鍛えることで、変身後の能力が爆発的に高まるはずです」
「おぉ……!」
リリムの説明にフェンが目を輝かせた。
「リリムさま、ぼく、がんばってこの木をへし折ってみせます!」
「がんばってくださいね」
こうして、リリムとフェン、メリアの
決行まであと三〇日。
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