第47話【裏切り者と】因果応報とはまさに【忘れし者】


「………うーん。これは一体…?」


 ダンジョンの最深部で、三層の様子をモニタリングしながら頭を抱える。


 水晶の中には、三層を二人の人物が歩いていたのであった。


「天狐族の彼女が人数を聞いたとき、歯切れが悪そうだったのはこれが理由か…」


 確かに探索者は一人だ。『探索者は』だが…


 一人は、ミディアムヘアの茶髪の美女。年齢は20前半といったところか?モデルかアイドルでもやってそうなルックスをしている。装備は革製の軽装で、スタイリッシュな服装が彼女のかっこいい美女と言うような雰囲気にピッタリとマッチしている。


 どこかで見たことがあるようなないような気がするが、多分テレビとかで露出している人物だろう。


 そして、茶髪の美女と話をしながら歩くのは毛先が水色の白髪と金色の瞳の美少女。こちらはまるでゲームやアニメに出てきそうなほど完璧な顔立ちに大きな瞳や白い肌。全く合わない不釣り合いな青いジャージを身に纏っている。


 そして、背中から生えた六枚の赤みがかった白い翼…


「ユリ…何やってるんだ…」

 

 うちのセカンド熾天使さまであった。


 そんな二人が、とても仲良さそうに話をしている。偶に笑みを浮かべたりと、随分と盛り上がっているようだ。


 アズリーを突破出来たのも、ユリがいたからか…流石に天使の付いた人間は敵とは思わないだろう。俺の客人だとでも言えばなんとでもなる。


 ダンジョンを悠々と歩く二人の様子を頭を抱えながら見ていると、後ろから声をかけられる。


「主よ。即刻処分して参りますので、少々お待ちくださいませ」

「えっ?いやいや、処分って…同僚だよ?」

「はて?主を裏切るような者を仲間だと思ったことなどありませんが」

「えぇ…まま、落ち着いて…何か理由とかがあったんじゃないかな?」


 うちのファースト熾天使さまは随分と苛烈な考えをお持ちのようだ。


 だが、流石にそれはまずい。


 彼女たちの後ろに、配信用のカメラが追尾しているからである。


 あれは、うちのダンジョンの生中継カメラ。つまり超大画面で放送されているものだ。そんなカメラの前で熾天使同士が争うなんて評判やらなんやらが地の底に落ちること間違いなしだ。


 とはいえユリが探索者に手を貸しているのはもうカメラでバレているわけだし…

 

 どうにか穏便に彼女たちを止めなければならないだろう。ならすべきことは…


「対話かなぁ…?」


 話し合いでの解決、これしかないだろう。


 さて、そうと決まればさっさと向かうに限るが、ユリの隣にいる彼女も気になるな。ユリが人間と仲良くなる機会なんて正直なかった気もするんだが…


 ユリは人間に友好的であったが、だからといって熾天使である彼女がダンジョン攻略の協力をするような間柄というのはなんともおかしな話だ。


 完全な裏切りというのであれば全力のフラムをぶつけるしかないが…その場合はこのダンジョンは捨てなければならないだろう。


(見切りをつけるときは早めに…か)


 今のところ順調なダンジョン運営だが、ユリが敵になった場合対処方法はフラムしかない。そしてフラムが負けた場合残る道は蹂躙されるだけだ。


 フラムが負けるかは重要ではない、負けそうならすぐに逃げるしかない。


 俺はそう覚悟を決めて、彼女たちのもとに向かうのであった。



………………………………


……………


……



「あーっ…初めまして、でいいのかな?」

「そうね。初めましてでいいわよ」


 彼女たちの前に立つと、二人から発せられる圧力に見が竦む。どうやら俺は彼女たちを随分と怒らせてしまっているようだ。


 ユリは…心当たりはある。探索者の来ない四層で探索者10人は流石に無茶振りが過ぎたと思う。でも文句も言いに来ないし四層でぐーたらしているんだと思っていたが…


「…………」


 むすぅーというような声がしそうなくらい頬を膨らまして俺に不満を訴えてきている。


 うーん…流石に申し訳ないことをした。


 流石に四ヶ月は放置しすぎたか。これは反省しなければならないだろう。


 だが、それとこれとは話は別だ。彼女の連れてきた人物についてはしっかりと聞いておかないと。


「えーっと…ユリさん?そちらの方は…」

「あら。私のことをご存じない?」

「え?あ〜有名な方でしょうか…?」

「ええ。そうね…」

「……?」


 彼女はそう言い俺に小さな鉄球?を見せつける。


 そして…


「───────っ…!!!??」


 バチッという音とともに、目の前を紫電が通過する。


「私の名前は神成千麻。探索者チーム『朱頂蘭アマリリス』のリーダーで、階級は帝級探索者……」































「『雷帝』って言ったほうが分かりやすいかしら?」


 そうして彼女は大量の鉄球を地面にばら撒いた。


「にっ!!!?!?!」


 フラムの炎とは違う、本物の光をギリギリで避ける。


 なんて速度だよ!!普通に死ぬよ!?


 超ギリギリ…というか髪の毛が数本宙に待ったのを確認する。これはまずい…どれだけまずいかというと、消費期限が1ヶ月過ぎた常温保存の卵を生で食べたときと同じくらいやばい。


 他の天使では実力的に全力のぶつかり合いになり手加減はできないだろうし、フラムを呼べば過剰戦力で一瞬で殺してしまうだろう。


 なら、俺が選ぶべき道は…


「すいませんっしたアアアァァァァァ!!!!」

「えっ!?」


 土下座である。誠心誠意心を込めての土下座である!


「最近忙しくてぇ!!寝る間も惜しんでダンジョンの整備しててぇぇ!!」

「ちょ、ちょっと落ち着い…」

「後回しにしてたとかそういう訳じゃなくてぇぇえ!!やることが多すぎで頭が一杯いっぱいでぇぇぇぇ……」


 ここで顔を伏せて、泣くふりをする。


「なんでもするんでどうか許してくださいぃぃぃぃぃ!!!!」

「ちょっ!ちょっと!わかったから!わかったから一旦落ち着いて!!?許したから!泣かせたらこっちが悪いみたいじゃない!」

「ありがとう。それじゃあ遅れて申し訳ないんだけど、来週の予定空いてる?ルエルに会わせたいんだけど…」

「え?……え?」

「あっ、ユリも勿論連れて行くからね?そういえば現代のイベントに参加してみたいって言ってたよね。そういや来週夏コミがあるし一緒に行こう。それで大丈夫だよね?」

「それなら構わないっす。丸々1日は付き合ってもらうっすからね?それと、主様、次はないっすよ」

「本当にごめんね?気をつけるよ。それじゃあ、雷帝さんを出口まで送ってあげてくれるかな?」

「わかったっすよ…ほら、ちーちゃん、行くっすよ」

「え?え?」


 そうして、どうやら俺の謝罪に納得してくれたユリは、雷帝の手を引き、三層の入り口の方に歩いていくのであった。


「……………え?」



──────────────────────

以下、特に本編に関係のないあとがき


そういや、新作も投稿したいと思っています。

8月、9月くらいに公開する予定なのでそちらもよろしくお願いします。

異世界ファンタジー系です

更新ペースはどちらも不定期ですが、どうにか頑張って書いていくので応援してください。

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